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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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事件と対応①

「また派手に“やらかして”くれたものだな。14人のうち上腕骨の脱臼が2人、肋骨の骨折が2人、鼻骨の骨折が2人に膝の骨折が1人とムチ打ちで首が動かない者1人。この8人に対応したものは?」

 ひととおり教会の片づけを終えて、部隊に戻った途端、司令部のハンスに呼び出された。

「私です」

「少しは手加減しろ」

「ですが、日頃から手加減はするなと……それに相手は拳銃も持っていました」

「まあいい。問題は、そっちじゃない。実は政府から苦情が入っている」

「政府から?フランス政府ですか?」

 私に向けられた追及を逸らそうとトーニが言葉を返す。

「いや、ウクライナ政府からだ」

「何でです?俺達は、そのウクライナの為に働いでいるのに」

 ハンスは直ぐに答えず、一旦溜め息を挟んで答える。

「政府と言っても政権与党ではない。野党の全ウクライナ連合「自由」スヴァボーダからだ」

「ネオナチの親玉ですか」

 今度はカールが言葉を挟んだ。

「ネオナチの親玉と言っても、一応は選挙で選ばれた列記とした政党に違いはない。今回お前たちが“お仕置き”したリーダーのカルマンと言う男は、スヴァボーダの幹部の息子だ。……どうして、見過ごさなかった?警官も手をこまねいていた状況だ、内政干渉だとは思わなかったのか?」

「お言葉ですが、ハンス司令が隊長だったら見過ごしていたんですか?」

 更にトーニが食いつくと、ハンスはもう一度溜め息をついて言った。

「俺はもう現場の隊長ではない」と。

 とりあえずテロではない只の犯罪に関与してしまった事に対して、隊長として始末書の提出と明日内務省に直接謝罪に行くように言われて司令部から解放された。


「最近、ナトーのグループは話題に事欠かねえな」

 サロンに集まった時にビールを飲みながらフランソワが笑ていた。

「オメー、そう言いながら、本当は羨ましいんじゃねえのか?」

「なっ何を言う!?……でも、本心は、やっぱ羨ましい。それは俺だけじゃねえだろう?」

「ああ、俺も久しぶりにナトーと組みてえ」

「俺もな」

 フランソワの問いかけにモンタナとブラームが直ぐに答えた。

「ありがとう」

 しかし、そうはいかない事情がある。

 新兵を教育するのは隊長としての私の使命だから、カールが一本立ちできるまで手元に置いておかなければならない。

 そしてモンタナも軍曹として育てなければならないので、その補佐として斥候任務にも長けたブラーム伍長をつけている。

 何しろモンタナは、隠れた敵に対して鼻が利かないから、鼻の利くブラームを付けざる負えない。

 あとはこの2人にフランソワをつけるかトーニをつけるかだが、トーニの場合は指示が遅いと勝手な行動を取ってしまう傾向が強いから、モンタナには荷が重いのでフランソワをつけている。

 もっともトーニを私の傍に置くのは、彼の思いに応えてあげられない私の罪滅ぼしの意味合いも多少はある。

 もしハンスと出会っていなければ、私はトーニを受け入れていたかも知れない。

 いや、言い方は悪いが、ハンスの保険にトーニを持っていると言ってもおかしくない。

 私よりも背は小さくて格闘も弱いけれど、これだけ好き好きオーラを出されれば、こっちだって無視できない。

 しかもトーニとはハンスのような遺恨がない。

 内緒だけれど、トーニとの結婚生活を本気で考えたこともあるくらいだ。

 青い地中海のさざ波の音を聞きながらテラスで食べる朝食。

 トーニはいつでも楽しい話を沢山してくれるし、私が作ったスクランブルエッグに卵の殻が入っていたとしても気まずくならないようにガリっと歯で潰した音がした後は決して隠さず陽気にこう言うんだ“俺様の背はもう伸びないけれど、伸びる男を育てるにはビタミンDとカルシウムは欠かせねえ”って。

 私が謝ると絶対どんなことでも許してくれる。

 そう、どんなに私が悪くても。

 それに、戦場を離れるハンスは想像できないのに、戦場とは縁のない仕事をするトーニは容易に想像できる。

 それだけじゃない。

 トーニの主催で年に1回G-Le’MATの仲間がサバイバルゲームをするために集まるんだ。

 対戦相手は、トーニ将軍率いる地元の仲間たち。

 ゲームが終わると、みんな揃ってバーベキュー。

 大勢の人たちが和気あいあいに楽しんでいて、いつもトーニの周りは賑やか。

「ナトー、なに1人で笑っているんだ?」

 トーニが私を振り向いて言った。

「笑ってなんかいないけど?」

「でも、口角が上がっていたぞ」

「ゴメン。実はトーニとの結婚生活の事を想像していた」

「けっ、結婚・せいかつ!?」

「おいおい、こいつ真に受けやがって真っ赤だぜ」

 モンタナの言葉に、皆が一斉に爆笑した。

「うっ、うるせえ!羨ましいか!?冗談でも言ってもらえるだけマシだ!」

「たしかに、その通りだな」

 トーニの反撃に、急に皆が真顔になる。

「じょ、冗談だって」

「でも、冗談でもモンタナとの結婚生活を考えていたとは言えないでしょう?」

 カールが更に追い打ちを掛けてくる。

「えっと……」

 モンタナが私を覗き込む。

 いや、モンタナだけではなくフランソワやカール、そしてブラームまで、私の次の言葉に興味津々。

 だから、大きく息を吸ってから言った。

「モンタナもフランソワもブラームもトーニもカールも、ハンスもニルスもマーベリックも、ここには居ないけれどジェイソンもボッシュもハバロフもメントスも、みーんな大好き!!」

 おお~っ!と拍手が沸き上がる中、遅れてサロンに顔を出してきたエマが詰まらなそうに「私が抜けている」と言ったので「エマも大好き♪」と言って抱きつくと、また皆が「おお~っ!」と声を上げた。

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