スナイパー対決SVLK-14S vs L96A1
次に登って来る者の中には幸いリトル・グリーンメンは混じっていなくて事なきを得た。
Hitして自陣に戻ろうとする一般のプレーヤーたち、とりあえず保護し事情を説明すると皆動揺いていた。
無理もない。
ゲームのつもりで参加していたはずなのに、いつの間にか政府を転覆させるテロに巻き込まれ、その先兵として利用されていたなど善良な彼らには思いもつかなかっただろう。
まして相手が警察と、特殊部隊で構成される自衛隊で、射殺される可能性もあったとあれば動揺も尚更。
仲間に携帯で連絡しようとする人を止めた。
事情がバレたと知れると、リトル・グリーンメンたちにとって一般人は事情を知る邪魔者でしかなくなり、素直に解放してくれるような聞き分けの良い奴等ではない。
人質に取られるか、最悪、無かった事にするために殺されてしまうかも分からない。
幸いなことに捕えたリトル・グリーンメンたちは通信機を持っていなかったから、状況の詳細な事は分からないはず。
「カービ軍曹!敵の狙撃兵は、まだあの建物で見張っているか!?」
「はい」
「狙撃兵1名だけか?」
「いえ、どうやら無線機を持った通信兵も居る様です」
「カール、狙撃の準備に掛かれ。私も撃つ」
「了解」
私が持って来たケースからL96A1を取り出すと、カールもまた持って来たケースから狙撃銃を取り出した。
ケースには女性らしい字で書かれた配送伝票が貼られたまま。
自分で取り寄せたのだろう。
ケースから現れた銃はSAKO TRG 42。
フィンランドのセコー社が開発&製造している狙撃銃で、ハンスから送ってもらった私のL96A1も軽量クラスだが、それよりも更に500gも軽い6000kg。
性能はL96A1と同様に.338ラプアマグナム弾を使用することにより、有効射程距離は1,500mに及ぶ。
「ナカナカ良い銃だな、お気に入りなのか?」
「慣れ親しんだ、俺にとって“相棒”と言える銃です」
「誰に送ってもらった?」
「腐れ縁の、ただの商売女ですよ」
「大切にしてやれ」
今も昔も、狙撃手を恋人に持つモノではない。
一般の兵と違い、狙撃兵は見つかれば必ず殺される。
たとえ捕虜になったとしても、狙撃兵であったことがバレてしまうとリンチに遭う事は間違いないし、殆どの場合はそのリンチの中で殺されてしまうのがオチ。
つまり狙撃兵として生き続けるためには、常に勝ち続ける以外手がないと言う事だ。
カールは“腐れ縁の、ただの商売女”だと言ったが、その女に大切な銃を預け、送り状を剥がさずに大切に付けたままにしているのだから銃同様に大切な人なのだろう。
銃のセッティングをして、胸に付けたカメラに携帯のコードを繋ぎ塀の上に置く。
「それは?」
「お前が、さらしを巻く私を撮影した手口にヒントを得て、私なりにオリジナルを追加した手法だ。これなら監視用のカメラとして使えるだろう?」
「いや、恐れ入ります」
敵の狙撃兵は絶えずこちらを監視しているから、顔を出してから相手を狙うのでは先に撃たれてしまう。
だからこうして顔を出さずに、こちらからも監視する。
「左から右に風速5、距離375」
「了解」
「敵を含めて、この距離と条件なら先ず外すことはない。狙うのは敵兵の頭」
「こ、殺すのですか?」
「おかしいか?」
「いえ、今まで敵の急所を外すように言われていたので、少し違和感を覚えただけです」
「敵は通信機を使って、こちらの状況を本体に伝えているのだから、確実にその口を封じる以外ない。私は狙撃兵を撃つから、カールは通信兵を撃て。いいな」
「了解」
トーニに合図を送ると、彼はサバイバルゲームプレイヤーから借りたCheyTac M200(シャイタックM200)を構えて一瞬立ち上がり慌ててまた伏せ、今度は銃を担いだまま私たちが居る方とは反対側の屋上の端に移動する。
敵の狙撃兵から見れば、肩に担いだ銃の先端だけが見えて居るはずで、頭を持ち上げたところで直ぐに銃弾をお見舞いしたくてウズウズしているはず。
「よし、行くぞ!1・2・3!」
バーン!
隠れていた塀から飛び出すと同時に構えた銃を発射した。
バーン!
ワンテンポ遅れてカールも銃を撃つ。
カールは撃った後、直ぐに元居た塀の陰に隠れたが、私は更に背を伸ばして肉眼で周囲を警戒していた。
敵の狙撃兵と通信兵は死んだ。
だが、他にも居るはず。
そんな気がして見ていると、予想通り青いフラッシュを確認した。
高所作業車のバスケットの中から。
確認が済むと、素早く5m横に移動して音の到着を待つ。
ズドーン!
約3秒後に銃弾の風きり音が聞こえ、7,3秒後に銃声が響く。
距離2,500m!
さっきの狙撃兵が持っていたT-5000ではない。
今度の敵は有効射程距離3,000m以上を誇るSVLK-14S。
奴の弾は、ほぼ直線で飛んでくるが、有効射程距離1,500mのL96A1は違う。
1,500mを超えると弾道は緩やかにカーブを描き、弾の回転によるブレも大きくなる。
だから、それを補正しなくてはいけない。
子供の時からAK-47やドラグノフを使い有効射程外の距離に居る相手と戦った経験と、LéMATで様々な武器の射撃訓練をした経験をもとに、距離と銃弾の回転による移動位置を予測してスコープを合わせ直す。
風は追い風で、その点においては、こっちの方が若干有利。
敵は私が構えたのを見て、先端に付いている射手の居るバスケットを降ろすため、高所作業車の伸びたアームを縮め始めた。
バーン!
私が撃って2秒後に、敵も2発目を放ち、そしてその4秒後に3発目を立て続けに放った。
しかし、もう遅い。
撃つのであれば、バスケットを降ろさない状態で撃つべきだっただろう。
そうすれば、初弾のズレ修正も出来たかも知れない。
私の放った銃弾は、ようやく2,200m先にある高い木の枝の葉を揺らし、バスケットから身を乗り出して4発目を撃とうとする男の少し上を通り過ぎる起動。
ここから弾は少しずつお辞儀を始めるはず。
地上5m付近で予想通り、銃弾が男の頭を捕えた。
バスケットに、だらしなく垂れ下がる上半身の先から伝う様に赤い色が黄色のバスケットに筋を描く。
手に持っていた長い銃が地上に落ちる。
見当はずれに高い空を、男がまだ生きていた時に放った銃弾が、まるで亡霊のような音を立てて通り過ぎて行った。




