ナトー倒れる②
コミュニティー センターの屋上に上り、直ぐにトーニが電波探査装置でドローンへの発信地点を調べた。
「おーっ、こりゃあ大量だ!」
「発信源は?」
「ざっと30は居るな」
「カービ軍曹、コヴァレンコ警部に応援要請!カールは敵の狙撃手が居ないか探れ!あとの者は電波妨害装置の設営を手伝え」
「了解しました」
ニールたちが電波妨害装置の設置を始める中、カールに付いて周囲を警戒していた。
電波妨害装置の稼働で、ドローンに対する結界は張れるが、銃弾を防ぐことは出来ない。
「殺ってもいいですか?」
「距離は?」
「川向うにある団地の屋上で、距離は220m。幸い銃はドラグノフです」
「コンクリートの外壁越しに撃たれることは先ずないな。で、敵は気付いているのか?」
「いえ。まだ向こうはこっちに気付いていません」
カールの質問に対する答えを一旦保留して、全員に狙撃兵が居ることを伝え、身を伏せて作業するように支持した。
そしてカールの見つけた狙撃兵を確認する。
20歳前後の若い男。
確かに手にはスコープ付きのドラグノフ狙撃銃を持っていて、リトル・グリーンメンらしい格好もしているが、周囲を警戒する涼しすぎる青年の瞳に違和感を覚えた。
あの目の涼しさは尋常ではない。
まるで無敗気取りのベテラン狙撃兵の目そのもの。
「確実に本物のドラグノフを持った狙撃兵と言い切れる自信は?」
「こんな状況で玩具の銃を持って居る阿呆がいたらお目にかかりたいですな。隊長は何か違和感でも?」
「ああ、私は、その玩具の銃を持っている気がしてならない」
「まさか」
カールがニヤッと笑う。
確かに、戦場に玩具の銃を持って出てくる兵士は居ない。
でも、兵士ではなかったら……。
「では証明して見せるから、絶対に奴のマズルフラッシュを確認するまで先に撃つんじゃないぞ」
「ちょっ、隊長、何をっ!」
カールが慌てて止めようとしたが、私は彼から離れて立ち上がると、レシーバーを手に持ちながらアンテナの位置を手で指示し、時折胸にかけた双眼鏡を持ち上げて周囲の様子をうかがう。
カールが慌てるのも無理はない。
狙撃兵の前で部隊の指揮官が、いきなりノーガード状態で現れたのだ。
カールの見つけた奴が、本物の狙撃兵だとしたら、目の前の餌に食らいついてこないはずはない。
次の瞬間、警戒していた小さな青い光を感じた。
近くでナトー隊長が倒れる音がした。
しかし俺が見つけた奴は、そのナトーに対して銃は向けたものの、その銃口からはマズルフラッシュも確認できなければ煙も出ない。
出たのは小さな白い玉だけ。
明らかにそれはBB弾と呼ばれるエアガンに使われる玉で、銃は隊長が懸念した通りの玩具だった。
“パーン”
隊長が倒れた直後に発砲音が響く。
“しまった!奴は囮!!”
慌ててナトー隊長のもとに駆け寄った。
倒れた隊長は動かない。
サスペンダーを掴んで安全な場所まで引きずるが、60kgもないくせに異常に重く感じて絶望感を覚える。
死んだ人間は、引っ張るのに都合よく体を動かせてくれないので実際の体重より重く感じる。
“いや、違う!彼女の本当の体重は80kg以上だ!”
急にフッと軽くなり、息を吹き返したのかと思ったがそれは違い、俺と同じようにこの世の終わりが来たようなドス黒い表情のトーニがもう片一方のサスペンダーを掴み引っ張っていた。
トーニの目が潤んで血走っているが、その表情が少しだけ歪んで見える俺の目も屹度同じ目をしているのだろう。
「ナトー!ナトー!」
意識を失っているナトー隊長の意識を戻すために、2人で叫びながら無我夢中で叫びながら、安全な場所まで一気にナトーの体を運ぶ。
他の隊員たちも心配して集まってこようとするのを、トーニが止めた。
「どこから撃たれた!?」
「分からない、俺は隊長に指示された狙撃手を見張っていた」
「じゃあ、ナトーは他の狙撃手に!?」
「はい」
「で、ナトーは何処をヤラれた!」
「分からない、銃声が届いた時には既に倒れていた」
「ナトーが倒れるときの音は聞いたのか?」
「はい」
「タイムラグは!?」
トーニとカールは手際よくナトーの装備を外し、ボディーアーマーを脱がせた。
「0.5秒もなかった」
「近いな、じゃあ敵は300~400前後か……あぁっ!」
ナトーの上着のボタンに手をかけたトーニが声を上げて固まった。




