立て籠もり犯との対決⑨
口に布を押し込んで、体が立つように鉄パイプで固定した状態の男をブラームとカールで西の部屋まで運ぶ。
トーニには、4階の東端の部屋への侵入経路を調べるように言った。
「これは一体何なんです?」
「人形浄瑠璃。もっとも人間だから、人間浄瑠璃だが」
人形浄瑠璃と言うのは、古来日本で伝わる人形芝居。何人かで大きな人形を操って、生きている人間が演技しているように見せる芝居だ。
西の部屋までその男を運び、ドアをノックする。
「なんだ」
西の部屋はガラス張りだから、2人の見張りが歩哨に気付いたので手招きして呼び、浄瑠璃役の男を隣の部屋の奥の扉の前に移す。
「なんなんだ?」
「お前チョット聞いて来い」
「しょうがねえな……」
1人出て来た。
仲間に呼ばれたと思って出て来た見張りの男は、警戒心もなく廊下に出て来たが、その目の先には仲間に羽交い絞めにされ服を脱がされている私がいた。
「おい、おい。こりゃあお楽しみじゃねえか……」
呑気にそこまで喋ってくれたご褒美に、手前のドアに隠れていたブラームが飛び出し顎にパンチを入れ、ノックアウトされた男を抱きかかえ部屋に引きずり込む。
その間にカールは浄瑠璃役の男を部屋に引き込み、私は西の部屋のドアの向こう側にダッシュして待機する。
ドアは開けっ放しのまま。
「おい、どうした?……なんだ、お楽しみって……」
警戒しながら男がドアから廊下の先を覗く。
廊下の先に見えるのは、手招きするカールの手。
男がゆっくりと体を半分廊下側に出したところを、背後から肩を引っ張り、向きを変えさせて抱きつくようにミゾオチに膝蹴りを入れた。
男の顔が私の胸に力なく横たわり「うぐっ」と小さな吐息を漏らした瞬間、生暖かいものが胸をつたう。
鼻にツンと来る咽るような酷い異臭。
“胃液だ”
ブラームが男を担いで、部屋に連れ去ってくれたが、大量の胃液でTシャツはビショビショ。
しかも酷い匂い。
慌てて私も部屋に飛び込むと、カールの目が私の胸に釘付け。
異臭に気を取られていたが、白いTシャツが濡れて胸の膨らみが透けて露わになっている。
もちろんブラはしているけれど……。
「見るな!」
「すみません。つい条件反射で」
「あっちを向いていてくれ!」
「了解しました」
部屋の端で胃液に濡れた服を脱ぎ、ハンカチを使い濡れた胸を拭く。
丁寧にブラの中に手を突っ込んで拭くが、ブラ自体に染みているから、どうにもならない。
結局ブラを脱ぎ捨てて、代わりに幅広の包帯を巻いて胸を覆い上着を着た。
「すまない。時間を取らせてしまった」
「好いですよ。おかげで良い気分転換になりました」
「見ていたのか!?」
「いえ、チャンと命令は守りました。だよなブラーム」
「一応な……」
侵入経路を調べていたトーニが戻って来たので、4階最後のミッションに取り掛かる。
今度は1部屋に4人。
これまでのようには、いかない。
誘き出すのも限界があるし、不意打ちも効果がない。
出入り口は2つあるものの、奴等の配置は東端と北の端に1人ずつと部屋の中央に2人だから、2つの入り口から素早く突入したとしても敵には自動小銃の引き金を引く時間は充分ある。
「どうだった?」
状況をトーニに聞く。
「隣の部屋の点検口から、天井伝いに東端の部屋に行けます。目的の部屋の点検口の配置は東のこの位置に1つ、中央に1つと、西側の南北の端に2つ」
トーニは点検口の配置と、敵の配置を図に書きながら上手く説明した。
聞きながら自分が入隊した当時の、あのチャランポランなトーニが嘘のように感じる。
人は成長し続ける。
トーニだけじゃないモンタナも、あのヤンチャなフランソワも皆、人間的に成長して頼もしくなってきたことを誇りに思う。
その反面、皆が遠くに行ってしまうように思い、少し寂しくも感じる。
「西側の見張りは点検口を使ってもドアを使っても簡単に拘束できると思うが、中央の敵は点検口1つに対して2人、そして北側の見張りは大きく点検口の位置とはズレているが、どうする隊長?」
「トイレに行ってバケツに水を汲んできてくれ」
「バケツに水?」
「ナトー隊長はさっき倒した敵を支えたとき、ボインに大量の胃液をブチ撒かれて困っているんだ。ハンカチで丁寧にボインを拭いたものの、まだ拭き足りねえ」
「えっ!?」
トーニの目が私の胸に釘付けになる。
「違う!私の胸を拭くのではなく、次のミッションに必要なのだ!!」




