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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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酒宴①

 5月に入っても、この辺りは平和そのもの。

 元々キエフ周辺は日頃から警戒が十分されていて、過激派組織も動きづらい。

 平穏な日々の中、万が一の場合に備えて司令部の傍に地下司令部を作り、上からの防御態勢も築いた。

 しかし、まるで天気が変わるように、いよいよキエフ周辺も嫌な臭いがしてくる。

 5月5日にはキエフから北北東120㎞に位置するチェルニヒフの街でテロが起きた。

 ここの管轄はSEALs。

 翌週には南部のビラや西部のジトーミルでテロが起き、フランス陸軍のBFST(特殊作戦旅団)が対応に当たり、私たちの管轄地域のマリーンでもテロが発生した。

 マリーンには空挺1個小隊を出動さて当たらせたが、それぞれの地域でのテロはハリコフやオデッサで行われたテロと違い、単発的で思ったより規模も小さく、何よりも親ロシア派の過激派の犯行によるものだった。

 その日、私たちG-LéMATは定時を終え、久し振りに訪れる明日の非番を楽しむように夜遅くまでサロンで飲んでいた。

「もうこの戦争も終わりだな」

「おいおい、戦争じゃねえぜテロだ」

 酒豪のカールとモンタナを中心にG-LéMATのメンバーが陽気に吞んでいる。

「しかしナトー中尉は頭がいい。この戦いをテロではなくそのまま戦争にすれば、どちらの味方に付けばいいか考えてしまうし静観する国々も多かっただろうが、テロにすることで多くの味方を取り付けた」

「頭がいいのは今に始まったことじゃねえ。なにしろEMAT(参謀本部)が狙っているくらいだからな。しかも銃の腕もピカイチで、喧嘩も強えときたら、まさに一騎当千だぜ。しかもモデルか女優並みのアノ容姿も最高!」

 トーニの反応に、カールが身を乗り出して聞く。

「G-LéMATここに来てズット思っていたんだが、トーニはナトー中尉の事が本当に好きだよな。もう告白はしたのか?」

「バ、バカヤロー!ナトーは部隊内では男扱いだぞ。そんな事をしたら、ナトーに迷惑がかかるだろうが!」

「フランソワはどうなんだ?お前も好きなんだよな」

「うるせー新入り!告白して自己満足したって、それが発覚してナトーが除隊したんじゃ元も子もねえだろうが!」

「ブラームやモンタナも同じ意見なのか?」

「ああ、まあナトーが居るから俺たちの活躍もあるって所だからな」

「右に同じくだ」

「おいおい、どうしちまったんだ、この男どもは。あんな上玉を前に立つモノも我慢か?」

「うるせー!じゃあカールはどうなんだよ!?」

「俺は四捨五入すれば40だ。ナトー中尉との歳の差は16もある。だが欲しい!あのツンとした美しすぎる顔も良いし、細身のスタイルに似合わないくらいデカい胸も魅力的で格闘技の時の掴み合いの時に思わず揉みたくなってしまう。その格闘技の時に伸びて来るあの健康的な脚も、食らったときには昇天しそうになっちまうぜ」

「しそうになるんじゃなくて、カールはしょっちゅう昇天してんじゃねーかよ!」

「ちげえねえ」

 皆が笑う。

「それによお。言葉こそ連れねえが、あのツンデレっぽさも魅力的だ。いやあれは完全にツンデレだ。態度は何時も素っ気ねえが、何事につけて陰でフォローしてくれている。所謂いわゆる外向きの顔は厳しいってやつだな。だから結婚して家庭に入ったらデレデレになること間違いなしだ!」

「じゃあプロポーズしてみろよ」

「だけどな、俺はここに来るまでに手を汚しちまっている。正体がバレてねえから犯罪者にはならねえからのうのうと暮らしていられるが、暗殺者として汚ねえ飯を食い過ぎた。だから俺はあの高嶺の花には手は出さねえ。いや出せねえ。わかるか?この辛え気持ち??」

「わかるわかる。俺だって元はゴロツキの用心棒だったから、好きでも手は出せねえ」

「おお兄弟!」

 酔ったフランソワとカールが抱き合う。

「あら、男同士仲が良いわね。何の話?」

「カールがナトーの巨乳を揉んでみたいとさ……」

 エマが入ってきて、気軽に答えたトーニだったが、その後ろにナトーが居た事に直ぐに気が付き話しを止めたが間に合わなかった。

「揉みたいのなら、揉んでみるか?」

 トーニの前に無防備な胸を突き出すナトー。

「しかし、部隊では女扱いしちゃあいけねえからな」

「それは外人部隊でのルールであって、今の私たちは自衛隊だ」

 そう言って笑顔を見せた。

 私の笑顔に、トーニの顔がパッと明るくなる。

「じゃっチョッと失礼して」

 突き出した胸に伸ばそうとしたトーニの腕を、胸の直前で受け止めて捻ってあげた。

「イテテテテ、チョッとギブ!ギブ!何するんだよ、この嘘つき!」

「揉んでみるか?とは言ったが、実際揉ませるとか、その行為に及んだ時にどう対応するかについては言及していない。だから嘘はついていない」

 けれども、まんまと引っかかったトーニに申し訳無かったので、手を離して席に着く時に少しだけその背中に胸を擦り付けてから着席した。

「あら、優しいのね」

「何が?」

「いやなんでも……小悪魔ね」

 皆にはトーニの背中が邪魔で見えない。

 見えたのは斜め後ろに居たエマだけ。

 それと、見えてはいないだろうけれど、トーニは気が付いたはず。

 トーニの隣の席が空いていたので、そこに座る。

 さっき腕を捻られて怒っていたトーニも上機嫌。

 私が隣に座ったからなのか、胸を擦り付けてあげた事に気付いたからなのかは分からない。

 エマも私の隣に座り酒盛りは第2局に入る。

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