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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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裏切り者には罠を仕掛けろ④

 再び騒めく会議室。

「ば、ばかな。それで本当に分かったとしても、外務省関係の誰かと言う事だけだ!」

 取り乱した事務官が、大声を上げて反論する。

「もちろん、そうです。ですからテストをさせていただきました」

「本物の裏切り者なら、我々を始末するための手口を知っているはずですから。だから、さっきのドローンで驚かれたのでしょう?味方に裏切られたと思って」

「な、何のことか分からん。私はただ茫然としていただけだ」

「既に病院でのドローン爆発はニュースで流れていて皆さんご存じのはず。しかも、この部屋でドローンを見て私と貴方以外の人は全員伏せられました。もちろん私が伏せなかったのは、爆発しないことを知っていたからです。この状況でただ茫然としていたというのは、エリート官僚らしからぬ言い訳だとは思いませんか?」

「思わない。人の行動などに規則はない」

「すみません。とんだ嫌疑をお掛けしました。しかし調査の方は進めていただけますよね」

「勿論だとも。これは外務省だけの問題ではない。他の組織の力も借りて、徹底的に調査を進めさせてもらいます」

「それでよろしいですか?」

 確実性が無かったので皆不承不承ながら承諾して会議を進めることになった。

「とんだ茶番で申し訳ありませんでした。茶番ついでに少しだけお時間を頂きドローン対策について話をさせていただけますか」

「構わんが、手短にな」

 消化不良の犯人探しに不満を露わにしながらも国防省官僚からOKが出された。

「準備を頼む」

 ドアに向かって合図すると機材を持ったニルスとナトーが入って来た。

「これからお見せするのは、ドローン対策の幾つかです。実験に使用するのはこの会議室内用のWifiを使用していますので、ご安心ください。最初に紹介するのは“電波銃”です。重量は左程重くはありませんが、この様に普通の自動小銃より大きさがあります。使用方法はこのように飛んでいるドローンに照準を合わせ、トリガーを引き続ければ、この様に着陸させることができます」

 別モニターで、会議室のスクリーン上にニルスの操縦するスマートフォンの操縦が聞かなくなった画像が映し出され、私は床に落ちたドローンを拾ってニルスに渡した。

「次は、この様な操作をしなくとも、自動的にドローンの発する信号をキャッチして、妨害電波を出すことにより墜落させる事が出来る装置です」

 ユリアがアシスタントをして、三脚の上に感知器をセットする。

 またさっきと同じようにニルスがドローンを飛ばし、私の真上に来た時にエマが指示してユリアがスイッチを入れると、操縦の利かなくなったドローンがフラフラと私の傍に落ちてきた。

 会場から「おー!」と言うどよめきが起きる。

「なかなか良いとは思いますが、我々のメインはおそらく市街地になる事が予想されるが、その場合遮蔽物……例えばビルの反対側を飛行するドローンも堕とせるのですか?」

 特殊部隊の中から質問が出た。

「反射波が拾えることが出来る状態であれば、こちらも反射を利用して堕とすことは可能です。しかし反射波が無い場合や、例えば極端に短い範囲しか届かない周波数を使われると、このタイプでは対処できません」

「たとえば、10人が広範囲に分かれて行動する場合は使えますか?」

「指向性があるため、アンテナの向きを変える必要があります。そこで、兵士個人で持ってもらうのが次のタイプになります」

 ユリアが特殊な装置を着けたベストをナトーに着させる。

「それでは行きます!」

 ニルスが私の方に向けてドローンを飛ばす。

「!?落ちないぞ」

 会場の誰かが言った。

「あっ、ナトー中尉、スイッチ入れて!」

 忘れていたわけではない。

 初めからスイッチを入れておくと、妨害電波が広がりドローン自体が飛べないから切っていたのだ。

 頭上を飛ぶドローン。

 ベストの胸にぶら下げた機器のスイッチを入れる。

 ドローンは急に安定を失い会議室の机の方に流れて行く。

 一旦降ろした手を上げて掴もうとするが、上手くいかない。

「任せて!」

 不意に誰かが声を出したかと思うと、手が伸びてきてドローンをキャッチした。

「有り難うございます」

「いいえ。怪我をした手では難しいでしょう」

 その男は、得意そうに笑顔を見せてくれた。

 ドローンを受け取ってエマの下に戻る。

「有り難うございます。やっぱり貴方だったのですね」

 何のことか分からず一瞬静まり返る会議室。

「な・んの事でしょうか……」

 外務官僚が手を組んで、もじもじしている。

「何故、今、ドローンを取ったのですか」

「それは、右手の怪我をされているナトー中尉には、少しきついだろうと思いまして」

「紳士ですのね」

「いえ……」

「ところで、ナトー中尉の怪我はどこで知りました?」

「そりゃあ貴方たちの方から病院に入院した際に、知らせを受けましたが……」

「内務省さんは御存じでしたか?」

 エマは、急に内務省の閣僚に話を振った。

「……いえ、怪我をされて入院したとだけしか聞いていませんでした」

「国防省さんは?」

「……私共も、同じように入院されたとしか聞いていませんでした」

「ハンス少佐は部下の怪我の状態を、何で知りましたか?」

「無線で知りました」

「そう。ナトー中尉の怪我に関しては、無線と病院関係者に聞くしか知りようの無い事なのです」

「そ、それは部下の誰かが無線か病院関係者から聞いたのでしょう」

「残念ながら、それは有り得ませんし、有ってはならない事なのです」

「何故……?」

「あの病院は、今は入院設備のある2階は使われおらず、その時間は本物の医師も看護師もいませんでした。居たのは病院関係者を装った私たちだけですから、病室での会話をドローンか何かで盗聴しない限り怪我の状態は分りません。もちろん、この様なトラップを掛けるにあたって、盗聴に対する防御は施していましたから盗聴されていないことはこちらの方で確認済みです」

「だがしかし、無線なら誰でも聞けるだろう」

「そう。敵ならば」

「敵!?」

「そう。無線の暗号はウクライナ軍が未だに解析できていない、敵の暗号電文を使いました。それも敵が使用する周波数帯を使って」

「……」

「もう、お分かりですね。つまり、敵の周波数帯を使った極短い暗号を偶然傍受できたとしても、暗号が解析でない以上ナトー中尉の怪我の状態までは分からない。と言う事です」

 呆然とする外務省の男の両脇を、警備員が抱えて連れて行く。

「女性にはお優しい方のようなので、くれぐれも手荒な事はなさらない様お願いします」

 エマは警備員に向かってそう言った。

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