表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

475/700

裏切り者には罠を仕掛けろ①

 部屋に荷物を置いて、お互いに見つめ合い唇を……。

「アッ!もうこんな時間!」

 重ねるはずの唇が空を切ったのは、エマが軌道をずらして声を上げたため。

 こんな時間って?

 振り返った私の目に飛び込んで来たのは、廊下に備え付けてある柱時計。

 その針が、あと1分で9時を指すところまで迫っていた。

「急げー!!」

 お互いに全力で走り合う。

 1分でも遅刻すると締め出される。

 全力で司令部に飛び込むと、そこにはまだハンスとニルスの他には誰も居なかった。

“あれっ!?”

 時計を見ると、まだ10分前。

 あの柱時計は進んでいたのだ。

“しまったっ!”

 気が緩んでしまい、時間の観念がなくキッスを逃してしまった!


 会議では、エマ少佐に課せられた任務の内容と、次に行われる全体会議について話し合った。

 先ずエマ少佐の任務については、戦闘状況を分析し必要なコネクションを取る事や作戦の際に問題が起きそうな部分の抽出をすること、他にも作戦計画が正当な物かの判断や作戦の記録を残す事など直接戦闘には参加しないもののその内容は多岐に渡ると説明があった。

 次の全体会議の議題だが、我々として何を提案する必要があるか話し合った。


「ナトー中尉、チョットいいか」

 会議が終わって、ハンスに司令官室に呼ばれた。

「座れ」

 いつもクールだが、それ以上に神妙な面持ちのハンス。

「はい」

 大人しく着座すると、一呼吸おいてテーブルの上で手を組んだハンスが言った。

「命を狙われたらしいな……」

 ハンスが一旦フランスに戻った日、この駐屯地に向かう私の車列が襲われた事。

「ああ、でもハンスが寄こしてくれたL115A3のおかげで難を逃れることが出来た。有り難う」

「問題は、そこじゃないだろう」

「……」

 知っている。

 知っているが、言いたくはなかった。

「あれが偶然でなくお前の命を狙った事だとなとなれば、その情報を漏らした人間は必ずあの国家安全保障会議に出席していたメンバーの中に居る」

「次の安全保障会議では、今回自衛隊として派遣された各国の代表が集まり、装備や作戦などが議題に上がるだろう。それが敵に筒抜けになれば、その時点で俺たちの負けは決まる。……そうだろう?」

 ハンスの言う通り。

 戦争は兵器や練度も去ることながら、いかに相手の動きを察知するかが決め手となる。

 第2次世界大戦中の日本海軍は、強力な海軍力とは不釣り合いな幼稚な暗号を使用したため艦隊の行動はアメリカ軍に筒抜けとなり、多くの艦艇が潜水艦や航空機の標的になった。

 ドイツは優秀なエニグマ暗号機を用いて連合軍を苦しめたが、これも解読されてしまい以降は劣勢に立たされることになった。

 もしこの2国が敵に解読されない暗号を持っていたとしたなら、戦争はもっと長く続いていたのは間違いない。

 私たちの情報が敵に筒抜けならハンスの言う通り、その時点で負けは見えている。

「そこでだ……」


 その日の夜、ウクライナ軍情報部で火災が起きた。

 たまたま国防省の仮事務所撤収作業のために近くを通りかかった私は、犯人グループと撃ち合いになり不覚にも負傷してしまった。

 搬送されたのは、軍関係の病院ではなく、一般の病院。

 直ぐにハンスも駆けつけてくれた。

 廊下を踏み抜いてしまうのではないかと思うほど、大股でバタバタと力強い足音が響く。

 心なしか鉄筋コンクリート製の丈夫な建物が揺れているように感じる。

 壊れるほど激しく開けられたドアから、飛び込んでくるハンスに看護師さんが、病院内では静かにするようにと注意する。

「ナトー大丈夫か!?」

「大袈裟だな、腕をやられただけだ」

「骨が折れたと聞いたが」

「面目ない」

「まだ術後ですから、今日の面会はそのくらいにして下さい。それから、ここは軍病院ではありませんので拳銃を腰に付けたまま施設内に入らないようお願いします」

 金髪の可愛い看護師さんが、ハンスを丁寧に追い出す。

「麻酔が抜けたら傷口が痛みだすと思いますので、あまり痛みが激しいようでしたらナースコールを押してください」

「わかりました」

「では、今夜はお大事に」

 金髪の看護師さんが、私のおでこにキッスをしてドアを閉めて出て行った。

 静かな夜。

 時計の音もしない。

 時折通る看護師さんたちの足音だけがコツコツと廊下に響くが、それも時間と共に少なくなる。

 午前0時。

 廊下から忍び足でやって来る足音が3つ。

 しかし、その足音はこの部屋に来る前に途絶えた。

 午前3時。

 再び足音が聞こえるが、これもどこかで消えた。

 午前5時。

 窓の外から“キューン”と言うモーター音が聞こえる。

 今度は何だ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ