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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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我々の城③

 次の週には予定通りCRAP(第2外人落下傘連隊空挺コマンドグループ/潜入情報行動コマンド)とLéMATが到着し、3個分隊程度の規模だった我々外人部隊もようやく1個中隊規模程度までになった。

 空挺とLéMATを統括する隊長には、少佐に昇格したハンス。

 そして副官には空挺のルーカス大尉。

 司令部要員としてLéMATのニルス中尉と、空挺のスウェン少尉などの士官が着き、その他の下士官及び兵卒が着くが、噂によると正式には『司令部』ではなく『参謀本部“分室”』となり、その任には偉い役人が着くと言う事だ。

 つまり他の組織との連携を深め、個々の状況を実戦的レベルと、政治的レベルで統合して判断する必要があると言う事だろう。

 もちろん、ウクライナの国中を国軍でも警察でもない余所者が治安活動するのだから、デリケートな状況は多々あるはず。

 装備も強力な7.62 mm弾を使用するAKMから、5.56mmを使用するHK-416に変わった。

 さすがEMAT(統合作戦本部)

 会議で決まった内容を、より細かくシミュレーションして組織を付け加えてくれたのだろう。

 実働部隊は3個小隊。

 空挺部隊の2個小隊を束ねるのはダニエル中尉で、その下に2人の中尉が第1小隊第2小隊を管理する。

 LéMATの方はマーベリック中尉が1,2班を、3班とG-LéMATは私が見るが、ジェイソンたち研修に出ているメンバーは志願したがハンスが応じなかった。

 代わりに1人だけだが補充要員があった。

 それは額に傷のある男。

 そう。

 ザリバンの和平交渉を邪魔するために敵側のPOC(For the Peace of children's“子供たちの平和のために”と名乗る武器商人で、世界各国に武器を大量に売りさばくために紛争や戦争を仕掛けたりもする凶悪組織※架空の組織)に居た、あの狙撃手。

「お前は!」

「あの時は、世話になりました」

「スパイか?」

「いや、あの後直ぐにPOCは辞めた。元々俺はフリーの暗殺屋だったから、金で雇われていただけだ」

「では何故、ここに居る」

「アンタの下で、真っ当に働きたいと思って、あの後直ぐに外人部隊に入隊した。アンタがカリブの作戦に着いている時に。そして半年間の空挺訓練を受けて第2外人落下傘連隊空挺コマンドに居たが、LéMATに志願届を出していて、今回移動が叶ったと言う訳だ」

 肩の階級章は1等兵ではなく上等兵。

 入隊して僅か半年で上等兵になったと言う事は、空挺訓練でも優秀な成績を収めたことが伺える。

「名前と出身は?」

「カール・べリクソン。ポーランド人。カールと呼んでくれ」

 ポーランド人はロシア(旧ソヴィエト)との確執が深い。

 それが理由で、ロシア人を殺しまくられても困る。

「他意はないのか?」

「ない」

「なら、入隊を認めるがG-LéMATでは新兵で一番下っ端だぞ。それでも良いか?」

「望むところさ」

「よし、ではカール。お前の教育係にトーニを付けるから、以後指示に従え」

「トーニ……あのチビ、どこかで……」

「お前の乗ったヘリをグレネード弾で堕とした男だ」

「ああ!あの天才的ヘンテコ狙撃手!!」

 発射速度が遅く直進性もない榴弾でヘリを落としたなんて話は、聞いたことがないからカールが驚くのも無理はない。

「ヘンテコは余分だろうが!」

 トーニが怒って笑った。


 首都キエフの北西部の防御には我々外人部隊が着き、ドニエプル川を挟んだ対岸の北東部にはSEALs。

 南東部にはフランス陸軍コマンド、南西部にはカナダ軍のJTF-2が着いた。

 ハリコフやオデッサなど、標的になりそうな主要都市にも次々に各国の特殊部隊が防備の輪で囲む。

「空から降りて直ぐに戦いに明け暮れた割には、最近静かになったな。もう敵さん諦めちまったんじゃねえのか?」

 朝食の時に隣のトーニが呑気そうに言った。

 そうであって欲しいとは思うが、決してそうでではないだろう。

 敵は今、体制を変えているに違いない。

 緒戦は敵の思惑通り、裏切りによりウクライナ軍を混乱させる事に成功した。

 その混乱に乗じて一気に仕掛けるつもりだったのだろうが、それは思わぬ妨害に会い失敗した。

 それは国家安全保障会議で決まった、ウクライナ軍はこの紛争に直接関与しないと言う内容。

 これによりウクライナ軍を悪者に仕立て上げ、ロシア人の迫害を理由に自国民を守るためにロシアが兵を送ると言う青写真が崩れた。

 次に手を打ったのは、イザック准将の傍に居て作戦の計画書を渡していた私の暗殺。

 ところが車列を襲った待ち伏せも、屯所への襲撃も失敗している間に、防衛は強化され人員も増えた。

 敵の黒幕は確かに、あの会議の中に居たに違いない。

 つまり、こっちの打つ手は敵にお見通しと言う訳。

 さて、ではその次に敵の打つ手とは、一体どんな手なのだろう。

「ところでカール、君はPOCに居た頃、何か聞いていないか?」

「そうさな……。一番信頼できるミラン隊長が掴まっちまって、上層部は慌てていたが、それよりも親グループからの風当たりが急に強くなったな」

「風当たりが?」

「そう。POCは慈善事業団体じゃねえ。超営利主義な会社組織だ。だから資金回収も出来ない失敗続きじゃ親グループも黙っちゃいねえ。丁度俺が辞める頃、カリブで麻薬組織を取り込もうってえ話に成り掛けていた頃だった。まあ麻薬戦争を仕掛けて、麻薬と武器の両方手にいれりゃあ一発大逆転を狙えるって寸法だったのだが、どうもまたアンタに妨害されたらしいな。もう親会社も黙っちゃいねえだろうから、最後の賭けに出たとしてもおかしくはねえな」

 もしもまたPOCが絡んでいたとなるとカールが言う通り、これが最後の賭けになるだろう。

 再び世界を東西に分裂させて戦争をさせれば、またたく間に世界中に武器は売れる。

 武器は使われる数に応じて、不幸を生み出す。

 だから、そうなる前に私達はPOC(武器商人)をこの世から消滅させなければならない。


※POCは、グリムリーパーシリーズ『Grim ReaperⅡ:コードネームはダークエンジェル(Code name is Dark Angel)』『Grim Reaper Ⅲ: The Red Sun(太陽の国から来た使者)』『Grim Reaper Ⅳ: Sleep in a white hemp field(白い麻畑に眠る)』に登場する架空の組織です。

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