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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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ハンスと夜の地下道で②

 いきなりだったので慌ててハンスの胸を叩いて抵抗するが、甘いキッスに会議で疲れた頭がとろけそうになり、いつの間にかその手を握られていた。

 ハンスは掴んだ両手を大きく広げ“大の字”になった私を壁に押し付けキッスを続ける。

 開いた足を閉じようとするが、股の間にハンスの片足が割り込んできて閉じる事が出来ない。

「好きだナトー。訓練の途中でクダラナイ会議に呼ばれてウンザリしていたなんて嘘だ。キエフに呼ばれた時から君に会えるまでの時間がもどかしかった」

 激しいキッスの嵐は唇を離れ首筋に移動する。

「やめて、人が来たら……」

「真夜中の官公庁街だ、誰も来やしない」

「あっ……」

 密着したハンスの体が、私の敏感になったところを刺激して思わず声が漏れ、それがエコーとなって響き再び私の耳に戻って来る。

 まるで妖精の囁き。

 言葉では嫌だと言いながら、エコーの効いた自分の声は、甘く切なく官能をいざなう。

「あんっっ」

 そう思った矢先、更に甘い声が喉を鳴らす。

 恥ずかしくてカァーッと頭に血が上り、血液が足りなくなったのか、足に力が入らない。

 別にフワフワする体を支えたいわけではないが、無我夢中でハンスの広い肩から背中にかけて腕を巻き付けしがみ付く。

「ハンス……駄目……」

 体の反応とは裏腹に、まだ秩序と常識にコントロールされている脳が機能して、行為を拒む。

「好きだ、初めて会ったときから」

 ハンスが耳元でそう呟いてくれる。

 その言葉が恥ずかしいほど私を上気させ、耳から伝えられた低音バスの響きが神経細胞を弾き、体の端々迄痺れるように陶酔してしまう。

 もう脳も痺れだした。

 言葉を掛けられるたびに、体を撫でられるたびに、キッスをされるたびに体がピクピクと反応してしまう。

“こんな地下道で……”

 躊躇っていたはずなのに、今は直ぐに愛してくれることが嬉しいとさえ感じ始める。

 逆に欲情が込み上げて、丁寧に隅々まで愛撫してくれるハンスの行為に、もう我慢が出来ないくらい。

“もっと激しくして!”

 触られるたびに膝がガクガクしてしまい1人で立っている事さえ辛くなり、ハンスの首に回した腕を強くしがみつくように力を入れ、腰を押し付ける。

 このまま掴まっていると、ハンスの上に登ってしまいそう。

 私の気持ちはもう自らの官能を抑える事が出来ない。

 ハンスが私の不安定になった片足を抱えてくれ、お互いの高さが揃う。

 目を開けていられないほど切なくて閉じていた瞳を、薄く開けハンスに“おねだり”のキッスをするとハンスは“愛している”と目で返してくれて私に覆いかぶさるように入って来た。

「んっ……」

 手の指に力が入る私と、私の腰に回していた腕を強烈に引くハンス。

 地下水をくみ上げるポンプの様に、体内に蓄積されていた欲情が汲みだされる。

 ハンスの肩に、とまって鳴き続ける私は、まるで夏の日の蝉。

 蝉は長い間土の中で暮らし、夏の日の7日間しか太陽の下で生きられなくて、8日目にはとまっていた木からポトリと落ちる。

「嫌っ!」

 幸せなのに急に不吉なことを思い浮かべてしまい、ハンスの胸に顔を押し付けた。

 目を瞑っても追いかけて来る幻影。

 それは土の上に横たわり、哀しそうに枯れた声を鳴らす蝉の姿。

「もっと……もっと、激しくして」

 幻影から逃げ出したい一心で、ハンスに強く攻めるるようにお願いする。

 ハンスの逞しい体が、私の体を圧迫するように強く打ち付けて来る。

 そのたびに喉から喜びの声が漏れる。

 そうだ、鳴くのは雄の蝉だけだ……。

 ハンスのおかげで幻影から逃れる事が出来たが、込み上げてくる嬉しさが脳に溜まり過ぎて今にも爆発してしまいそう。

「来て!来てっ!」

 何に来てもらいたいのか分からないが、早く来てもらわないと、気が変になりそう。

 まるでハンスを絞り出すように手と足で強く抱きつく。

「行くぞ!」

「来てっ!」

 ハンスの波が激しく私の脳を揺さぶり、もう何も考えられなくなる。

 ただ一つ考える事が出来るのは、何かがもう直ぐそこまで来ていると言う事だけ。

 そしてそれも、もう時間の問題。

 何かのタイミングで、耐えられなくなり呆気なく来てしまうのだ。

“来る!”

 そいつが脳の扉をこじ開けようとする。

“まだ行きたくない”

 だから必死に我慢して、脳の扉を開かない様に押さえる。

 しかし押さえようとしても、行き場を失ったそいつは扉の前で膨らむばかり。

 どんどん圧迫されて行く扉に、追い打ちをかけるようにハンスがドンドンとノックを繰り返す。

「駄目ぇ~っ!イク、イク、イク!!」

 不意に熱いものを感じて驚いた瞬間、私の中にいる誰かが脳の扉を開けてしまった。

 溜まった波が、一気に脳内に入り込む。

 それが脳天を一気に突き抜けていく。

“かいかん”

 体の力が一気に抜け、崩れ落ちそうになるのをハンスが優しく支えてくれた。


「アハハハハ」

 手を繋ぎ、まるで地球を周る月の様に、私はハンスの周りをクルクルと回っていた。

 夜の風が火照った体に気持ちいい。

 まるで空中ブランコでもしているみたいに楽しい。

 はしゃぎ過ぎる私にハンスが、何故そんなに元気でいられるのか聞いてきた。

 昨日フランスを経って、パラシュート降下後は一晩中ユリアたち202号機のクルーを探すために森の中を歩き回った。

 今日の日中は大小5回も戦闘があり、夕方前にヘリでここまで来て深夜までの会議。

 もう40時間以上寝ていない。

「それは、ご褒美を貰えたからに決まっているだろう」

「ご褒美じゃない。愛だ」

愛愛あいあいサー♡」

 ハンスの頬にキッスをして、ホテルまでの短い距離を惜しむように歩いていた。

 あんな所でいきなりだったから最初は戸惑ったけれど、愛される事、求められる事が嬉しくてたまらない。

 幸せ感いっぱいに満ち溢れた余韻で、体も心もいつまでもポカポカだった。

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