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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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ハンスと夜の地下道で①

 休憩を挟んだ後半の会議は順調に進み、ウクライナ軍は積極的な活動を控え、主に国境付近での外部勢力の入国を監視することになった。

 そして我々の義勇軍は自衛隊へ名前を変更して、親ロシア武装勢力と闘う。

 義勇軍と言うのは有志を募った軍事組織。

 だから戦争のためにある組織。

 しかし自衛隊は戦争をするための組織ではなく、国土を守るための組織だ。

 世界で唯一この自衛隊と言う組織を名乗るのが、軍事的総合力で世界第6位とも言われる日本。

 世界的にはグレーゾーンと呼ばれる武装組織だが、軍隊の武器使用に関しては自衛のためにしか使えないことが憲法で厳しく制限されている。

 だから私たちも武装勢力以外には手を出さない。

 武器も最小限の装備。

 自動小銃や狙撃銃などの歩兵装備。

 軍との大きな違いは、一般市民の暮らしを脅かさない事を目標としていることだ。

 ウクライナ軍との共同作戦は取らないから、砲兵隊の援護も無ければ、航空機の支援もない。

 この提案をした時に閣僚の数人からは“出来るはずがない!”と言われた。

 確かに普通の部隊では無理だろう。

 しかし自衛隊のメンバーを極端に制限することで、これは可能になる。

 ハンスが呼ばれた理由も、実はここにあるはず。

 つまり自衛隊のメンバーは、特殊な訓練を積んだ部隊や隊員に限られると言う訳だ。

 現時点ではフランス外人部隊のG-LéMAT及び第2落下傘連隊の一部だが、これを増員してLéMATと第2落下傘連隊の本体も呼び寄せ、各国の特殊部隊も呼び寄せる。

 そして敵は武装集団だが、これを敵軍扱いせず、犯罪者と位置付ける。

 そうすることにより戦いは戦争ではなく、テロ対策の治安維持活動とすることで、世界的な世論も味方に付ける。

 相手が敵ではなく“犯罪者”となるので、自衛隊員はこれを殺すことが目的ではなく、彼らを捕える事が目的となりより難しくはなるが、スペツナズやリトル・グリーンメン(ロシア軍覆面兵士)以外は武装市民なので、そう問題は無いだろう。

 会議は自衛隊の装備の話にもなり、虐殺やデマのターゲットにならない様に、隊員全員にカメラを装着させて嘘から身を守る事も付け加えた。

「ふう、お疲れ様。おかげで助かったよ。今夜はホテルでゆっくりしてくれたまえ」

 会議を終えイザック准将が、肩を叩いてくれた。

「また、試されましたね」

「試す?とんでもない。ナトー中尉の考えには及ばないよ。ある程度は私も考えていたが、部隊全員のヘルメットにカメラを付けるアイディアなんて思いもつかない明暗だった」

「有り難うございます」

「いや、こちらこそ。それにきっかけを作ってくれたハンス大尉も有り難う」

 イザック准将は私たちと握手をすると、待っていたウクライナ軍の参謀総長と次の会議に立ち去って行った。

「ナトー中尉、我が国のために駆け付けて下さり有り難うございます」

 准将が立ち去った廊下の方に顔を向けていると、後ろから聞き覚えのある女性の声。

 振り向くとナタリア・チェルノワ大統領が居た。

「ご無沙汰しております。またお会いできて光栄です」

 軍服だったが、下がスカートだったので敬意をこめてカーテシーの挨拶をする。

 ハンスは軍人らしくキチンと敬礼をした。

「あら、あなたが噂のハンス・シュナイザー大尉ですね。遥々来てくださり有り難うございます」

「大統領閣下、お目に掛かれて光栄であります」

「皆さんには大変なご苦労をお掛けして申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いいたします」

 秘書官たちにかされる中にありながらも、チェルノワ大統領は早口で喋るわけでもなく落ち着いた態度で、おまけに去り際にはカーテシーの挨拶までしてくれ次の会議会場に向かって行った。

「さて、俺達もホテルに帰って寝るとするか」

「……うん」

 ハンスの言葉に、心臓がトクンと鳴ってしまい、変な間を開けてしまった。

「……その前に何か食うか?」

「私は、要らないし、もう飲食店は開いていない」

「じゃあ飲み物は?」

「……飲みたいが、もうコンビニエンスストアも開いていない」

 ウクライナのコンビニは23時で閉まるのだ。

 外に出ると時間はもう午前1時過ぎ。

 辺りは真っ暗。

 大通りには人通りもなければ車も走っていない。

 横断歩道はないが、今ならこの6車線道路を歩いてでも渡る事が出来る。

 だけどハンスも私も道路を渡ろうとはせずに、横断用の地下道に向かった。

 誰も居ない地下道。

 薄暗い地下道に、2人の足音だけが壁に反射して独特のエコーを奏でる。

 すぐ手の届く所で規則正しく前後に動くハンスの手が気になってしまい、心臓が早鐘を打ち今にも壊れそう。

 気を紛らわせるために、口を開く。

「今、向こうの階段から自動小銃を持った奴が出てきたら、お陀仏だな」

「……危ない!」

 ハンスが、いきなり私の両腕を掴み進行方向に背を向けて抱き寄せた。

「冗談は止せ」

「何故、冗談だと?」

「防弾チョッキを着ていない状態で、私を匿うつもりで立ちはだかっても、弾が貫通して死体が2人になるだけだ。それが分からないハン……ッ!!」

 話している口を、ハンスの唇で塞がれた。

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