ウクライナ国防省へ①
14時50分。
親ロシア武装組織の一員と、ロシア連邦軍GRU所属の特殊部隊、スペツナズの分隊長を捕獲した。
もちろん彼は、認めないだろうが射撃の制度と格闘技の腕を見れば、とても一般人や退役軍人などと言い訳できるレベルではないことは確実だ。
時間は掛かってしまうが、死んだ彼の仲間の遺体3体も一緒に連れて帰る。
ここは住宅も近い。
一般人の目に触れて良い物ではない。
「さあ、ナトー中尉急ごう!とんだ時間を食ってしまった」
「すみません」
「いや、謝る必要はない。あの狙撃手を無視して進もうとすれば車両ごとに撃破されて被害が増えるだけでなく、ここから先に進むことも出来なくなっていただろう」
レーシ中佐にそう言ってもらえて嬉しかった。
ここで3つに分けた部隊を合流させたときに狙撃を受けたのは正直驚いた。
地形的には狙撃兵が居そうな場所だとは思っていたが、もし撃ってきたとしても無視して先に進めば済むと思っていた。
しかし彼らの狙撃技術を無視して通り抜けようとすれば、車両ごとに個々に狙われて被害が拡大してしまう。
だから時間を掛けてでも戦うしかなかった。
まさか、こんな所でスペツナズが待ち構えていようとは……。
「ナトー、あと5分で新手が来るぜ」
そのスペツナズの持っていた無線機の周波数を探っていたトーニが、あと5分で到着するという無線の声を拾った。
周波数は?
「150MHz帯だな」
「それだと警察無線ね」
ユリアが直ぐに警察の無線周波数帯であることを教えてくれた。
「で、内容は?」
「あと5分で到着するってさ」
「誰から、誰宛てだ?」
「いや、それは何も言わなかった」
おかしい。
通常の警察無線なら所轄のパトーロールナンバーや施設・部署などが必ず伝えられるはずなのに、この無線には誰から誰にあてたものなのか明らかにされてはいない。
他所に知られたくない情報と言う事なのだろうが、その事こそこの通信の目的が通常の警察活動以外に使用されている証拠。
つまりスペツナズは、警察無線を傍受していたのではなく、警察の誰かと連絡を取っていたに違いない。
あと5分経てば何かが来る。
私たちと交戦状態である事はスペツナズの方から伝えてあるだろうから、パトカー数台で来ることはない。
警察が持っているもので戦力になる物、あるいは救出に役立つものと言えばヘリだ。
「レーシ中佐、皆に狙撃兵との交戦状態で待機させていて下さい。ユリア、それにG-LéMAT、もう一度丘に登るぞ!」
「え~今降りて来たばかりなのによぉ」
「嫌なら、トーニは来なくていいぞ。“これからも”」
「行く行く!一生ついて行く!!」
急いで丘に登ると、直ぐにヘリが飛んで来て、森の奥にある雑草地帯に着陸した。
ウクライナ警察のマークの付いたKa-60。
捕虜として捕えた男と体系の似たフランソワが、怪我人に扮したトーニを抱えて森の影迄出て手を振るとヘリから4人の私服の男たちが銃を持って降りて来た。
モンタナをフランソワの傍に着けて、ユリアとブラームと私の3人でヘリの後部に回り込む。
見張りが1人立っていたが、こいつも私服にAKMを構えている。
「どうやら警官はパイロットの2人だけのようですね」
「警官が、運び屋か。行くぞ!」
ゆっくりしている暇はない。
モンタナたちが2人の敵を倒してしまうと、ヘリは直ぐに逃げてしまうかも知れない。
テールローター越しに、一気に近付く。
「見張りは任せた」
「了解!」
何か面白い手でも考え付いたのか、冷静沈着なブラームが微かに笑いヘリの下に潜り込む。
なるほど、そういうことか。
ブラームに続いて私とユリアは尾部を潜り抜け、開いているキャビンに向かう。
丁度尾部を抜けたときに、キャビンの前に立っていた見張りがブラームに足を引っ張られてヘリの下に引きずり込まれる所だった。
おそらく通常時なら“ドスン”と言う人の倒れる音が聞こえたに違いないが、エンジンとローターの音で何も聴き取れはしない。
当然キャビンに私たち2人乗りが込んだ音も。
乗り込んで直ぐ丁度モンタナたちが彼らの仲間を片付けるのが見えたのだろう、パイロットが慌てて見張り員に機内に入るように後ろを向いて叫ぼうとした。
だがその目が捉えたのは見張り員ではなく、拳銃の銃口。
結局ここで警官2人と武装した民間人5人の、合計7人を捕虜にした。
捕虜にした7人を縛り上げ、キャビンに座らせ、モンタナたち4人に見張らせる。
捕虜を連れて山を下りなくて済むと、トーニが喜んでいた。
「私も運転手に雇われたって訳ね」
「すまない」
「いいよ。ヘリが来ると分かった時から、こうなると思っていたから」




