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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナに忍び寄る黒い影

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ウクライナへ①

 翌日の朝、義勇軍の話は正式に決まり募集が始まった。

 早速志願届を出しに行く私に、トーニがまとわりついてきた。

「ナトー、どうしても行くのか?」

「ああ、ユリアが待っているから」

「止めても無駄か?」

「すまない。折角分隊長に任命されたのに、離れる事になって」

「離れねえ」

「駄目だトーニは残れ」

「なんで?」

「相手はゲリラだ。正規軍と違って秩序も規律もない」

「ナトー?俺達は、その正規軍と戦ったことがあるか?ねえよな。コンゴの時などは少年兵迄使う野蛮この上ない奴等だったぜ」

「だが今回は違う」

「どう違う?」

「市街戦になる」

「本当か!?」

「おそらくな。市街戦になれば戦闘員と民間人の区別は難しくなるだろう。万が一にも民間人を射殺したとなれば軍法会議ものだ」

「でも、戦争だぜ」

「これは戦争ではない。内乱だ。そして俺たちの目的は治安維持。攻撃してくる奴以外には手出しは出来ない」

「めんどくせえな」

「その通り」

 トーニを振り切って、志願届の会場に着く。

 任地手当てが通常の3倍出るとあって、既に大勢の隊員が集まっていたが、今回の志願には先ず面接と書類審査があり、第1陣として選ばれるのは限られた少人数。

 過去に傷害や窃盗などの犯罪歴がある者や、現地の秩序を乱す恐れがある隊員は除外される。

 トーニに説明した通り、義勇軍は治安維持に介入するためのものなのだ。

「やあ、ナトーさん、こっち、こっち」

 聞き覚えのある声の方を向くと、そこにはアフガニスタンで共に戦ったフジワラ伍長が居た。

 今日は軍曹の階級章をつけて面接官として働いていた。

「お久しぶりです、凄い出世ですね中尉」

「そっちも軍曹昇進おめでとう。怪我の具合はどうです?」

「もうバッチリです。ナトー中尉が行かれるのなら、面接官じゃなくて自分も志願したいくらいですよ」

「ありがとう」

 元教育部隊のフジワラは、優秀な戦闘員だったが、アフガニスタンで脊椎に銃弾を受けた。

 今は元気にしているが、症状が悪化すると半身不随で車椅子になる可能性もあるので、もう実戦部隊への復帰は叶わない。

 面接時に必要な書類への記入を終わらせ席を立つと、なんだか見た事のある後姿が並んでいた。

 モンタナ、ブラーム、フランソワ、トーニの4人。

“しょうのない奴等だ……”

 予想以上に現地の状況が悪化しているのか、その日の午後には第1陣のメンバーの発表があった。

 第1陣は司令部を兼ねた先遣部隊と偵察部隊の2班に分かれる。

 先遣部隊には士官級が名を連ね、その中にはニルス中尉の名前もあったが、ハンス大尉の名前は無かった。

 まあハンスの場合は特殊部隊LéMATを束ねる立場だから、自分勝手に志願もできないだろう。

 自分の代わりに、親友のニルス中尉を送り込んだのだろう。

 偵察部隊は2班に分けられて、第1班は精鋭コルシカの第2落下傘連隊から11人。

 第2班はLéMATから5人が第1陣に選ばれた。

「ひょー!精鋭ぞろいだね」

「コルシカの空挺の中には、教官クラスが3人もいやがるぜ」

「あんまり見るんじゃねえ。俺たちは奴等に睨まれているんだ」

 モンタナがそう言って首を引っ込めた。

 無理もない。

 私達LéMATが誕生するまでは、フランス外人部隊最強と言えばコルシカの第2落下傘連隊と国内外に知れ渡っていた。

 しかし今や、リビアやコンゴ、アフガニスタンでの活躍もありLéMATの知名度が右肩上がり。

 私が入隊して直ぐ、コルシカの第2落下傘連隊で半年間の軍曹教育を受けたときは、最優秀生徒のご褒美として1階級特進のオマケをもらい2等軍曹になる事が出来たが、今回モンタナは最優秀生徒には届かなかったと言って3等軍曹止まりだった。

 これは、私の教育期間がLéMAT発足前で、モンタナの教育期間がLéMAT発足後であることも大きな理由だと私は見ている。

 今のモンタナが、他の部隊の伍長クラスに引けを取るはずは無いのだから。

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