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フルメタル  作者: 湖灯
白い麻畑に眠る

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明日に向かって撃て②

 ナトーは用心深い、だけど一旦人が通れるほどの大きさに開いてしまった穴を、急に塞ぐことは難しい。

 しかも今回は穴を上から隠すのではなく、底から隠さなければならないのだからなおさら。

 見張りは穴に向かって進んでいる。

 その様子から、既に何かに気がついているのかも知れない。

 男が穴の1ⅿほど前で立ち止まり腰を屈める。

「撃ちますか?」

 村で倒した敵から分捕ったH&K G36を構えているブラームが狙撃の指示を窺う。

 G36の有効射程距離は800mと他の自動小銃に比べて長射程で、しかも最大3倍のスコープが標準で装備されている。

 距離は500……

「駄目だ。いくらブラームが優秀な狙撃手とは言え、この距離から3倍程度のスコープで仕留めるのは無理だ」

「でしょうね。それが出来るのは軍曹だけだけど、その軍曹は向こう側」

 ブラームも自信がなかった。

 一発で仕留めなければ、敵に位置を悟られてしまう。

 その状況で何の遮蔽物もないこの500mを突っ切るのは自殺行為だ。

 マーベリックの言葉にホッとしたブラームが笑って銃を置く。

 マーベリックはまた双眼鏡を覗くと、穴を覗こうとした男の膝がガクンと折れ、その穴の中に吸い込まれて行った。

「いったい何が……」

 双眼鏡を外してマーベリックは目を凝らして見た。

 ガラスの反射で変に見えたのかと思った。

 何しろ今の光景は、まるで何かに誘われるように自ら魔物の口に吸い込まれて行ったようにしか見えなかったから。

 穴の中に吸い込まれて行った男の代わりに中からマルタの姿が現れる。

 マルタは周囲を見渡すと、一目散にトーニが居るはずの馬小屋に走った。

「いよいよ脱出だな」

 ところが勢いよく飛び出したマルタが、邸宅と馬小屋の中間地点付近で転倒した。

 転倒した時の悲鳴は聞こえなかったが、代わりに敵の誰かが気がついたのだろう、男の叫ぶ声がした。

「どうする!?」

「行くしかないだろう。ただし銃を撃つのは拳銃の射程内に入ってからだ。

「敵に気が付かれたら!?」

「その時は、撃つしかないだろう!」

「そう来なくっちゃ!みんな突撃だ!」

「おおっ!」


 マルタが転んだ時、ザザーっと砂の上を擦る音がして、向こうに居た見張りに気付かれてしまった。

 大声でマルタの脱走を知らせる男。

 慌てて俺が飛び出すと、馬小屋からトーニも飛び出してきて、俺に拳銃を投げてよこした。

 トーニは勇敢にも敵とマルタの間で膝撃ちの姿勢を取り、見張りを仕留めたあと拳銃を乱射して俺の援護をしてくれた。

 俺は右手に銃を手に持ったまま、左手でマルタを抱え馬小屋に走る。

 丁度馬小屋に滑り込んで直ぐに、今度は俺がトーニを援護するために発砲した。

「サンキュー!」

 銃弾の雨の中、トーニが滑り込んで来る。

「一気に銃の腕が上達したな」

 最初に穴の存在に気が付いた見張りをトーニは倒してくれた。

 そして今もまた、マルタを撃とうとした敵を倒した。

 しかも、その両方ともたった1発で。

「あたぼうよ!何しろコイツときたら1発撃ったら、また弾込めと言う18世紀級の代物だからな」

 トーニがチアッパ・リトルバッジャー22LRを嬉しそうに俺に見せて笑った。


「マルタ、馬は乗れるのか!?」

「ええ、もちろん」

「これからウマたちを逃がすから、安全な所までウマたちを連れて行ってくれ!」

「ナトーさんと、トーニさんは!?」

「俺たちは、ここで奴等を食い止める」

「じゃあ私も!」

「駄目だ!」

「嫌です!」

 頑として言うことを聞かないマルタに、トーニが宥めるように言う。

「ナトーはいつも言葉が足らねえ。だから俺が本当の事を言うから良く聞け」

「……」

「敵を食い止めると言うのは嘘だ」

「嘘?」

「そう。ナトーは、これから敵を狩る。沢山の敵が断末魔の悲鳴を上げる。そんな声をお前さんに聞かせたくないんだとよ」

「まさか……」

「まさかじゃねえ。それが出来るから、入隊して僅か2年で1等軍曹なんだ。そしてナトーは必ずアンタの親父さんを見つける。“餅は餅屋”プロに任せておきな」

「わかりました。ではトーニさんもお気を付けて」

 裏口を開けてマルタの乗った馬を先頭に、全部の馬を逃がした。

「さあ、派手にやるぞ!」

「あいよ。マルタが狙われたらマジいからな」

 敵は今、放たれた馬たちに目が向いている。

 丁度マーベリックたちも向こうから走ってきている。

 仲間を安全にこちら側に導くためにも、奴等の目を近場に戻させるしかない。

 少々危険を伴うが、それにはこれが効果的。

「いいか?」

「あいよ」

「死ぬかも知れんぞ」

「死んだら抱いてくれるか?」

「嫌だ」

「何故?」

「ベストを尽くしてくれていたから今まで言わなかったが、お前糞まみれで臭い」

「悲しいねぇ……」

「だから、チャンとその体に着いた糞を洗い流すまで死ぬな」

「わっかてらい」

「じゃあ行くぞ!」

「あいよ」

 飛びかう銃弾の中、俺たち二人は、馬小屋から邸宅に向けて飛び出した。

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