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フルメタル  作者: 湖灯
南国の楽園!?

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トーニとランニング①

 サオリは俺の手を引いて、自分の部屋に連れて入った。

 朝からホテルの部屋を借りていると言う事は、昨夜か、それよりも前から滞在しているのだろう。

 つまり俺たちの到着を待っていたことになる。

 でも何故、昨夜は顔を出さなかったのだろう……。

 サオリは俺をソファーに座らせて、自分自身は、その対面にあるベッドに腰掛けた。

「いい、ナトちゃん。これで麻薬の怖さが身に染みたでしょ。MDAなんて麻薬としては滅茶苦茶軽い物なのよ。それでも、あんな風になっちゃうの。だから絶対に気を付けてもらわなくちゃ困るわ」

「うん。分かった」

「100%信用できない限り、人から勧められた物を飲んだり食べたりしては駄目!それはイラクの難民キャンプでも教えたでしょ」

「うん」

「麻薬は、1回やっちゃうと、病みつきになるの。だから充分注意して」

「……」

「どうしたの?本当に分かっているの?」

「うん。分かっているよ……」

 俺はゆっくりとソファーを離れ、ベッドのサオリの隣に腰掛ける。

「どうしたの?」

「もう絶対に騙されないからさぁ……」

 サオリに寄り掛かるように、体をスリスリしながら、服のボタンを外す。

「なっ、なに、なんか変よ。ナトちゃん」

「麻薬の怖さは分かったわ、でも一旦疼いてしまった私の体は止められないの」

 俺は覆いかぶさるようにサオリをベッドに押し倒し、そのシャツのボタンに手を掛ける。

 既に俺のシャツのボタンは全て外している。

「なっ、ナトちゃん。アンタ大丈夫なの」

 サオリの手を広げ、上から押さえつける。

「大丈夫じゃないの。まだMDAが効いていて、体が燃えているのよ。だから……サオリ……わかるでしょ」

「なっ、ナ」

 何か言おうとしたサオリの口を自分の口で塞ぎ、その柔らかさを味わう様に舌を絡める。

 裸の胸と胸を密着させる。

 子供の時には、あんなに大きく感じたのに、いつの間にか俺の方が大きくなっているのが少し寂しい。

「もう。いつまで経っても甘えん坊さんね」

 唇を離したとき、俺の頬を両手で支えてサオリが言った。

「そうよ。甘えん坊になるように、サオリが大切に育ててくれたから」

「まあっ」

「薬が抜けるまで、お願いだから甘えさせて」

「もう、仕方ないなぁ……」

 ようやくサオリも俺を受け入れてくれ、2人でシーツの中に潜り込んだ。


 一緒にシャワーを浴びて、遅い朝食を摂りに下へ降りると、トーニが1人で朝食を食べ始めた所だった。

 俺が入って来たことに気が付いたトーニが、いつものように俺を見て、お互いの目と目が合う。

 俺は恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまったが、その時いつもの光景に目が留まる。

 席は空いていると言うのに、トーニの席の隣にあるのは空のトレー。

「いようナトー、ここ、ここ」

 少し前にトーニに対して破廉恥な事をしたと言うのに、まるで何もなかったように声を掛けてくれる。

「ほら、彼氏が呼んでいるよ」

 サオリに肘で小突かれる。

「彼氏じゃないよ」

「あらそう?」

「すべてはMDAのせいだ」

「ふぅ~んMDAのせいねぇ……」

「なにか問題でも?」

「いえ、無いわ」

 サオリはニコッと笑うと、手を上げてサヨナラの仕草をする。

「サオリ、朝食は?」

「私は、これから用事に出なくっちゃならないの。じゃあね~!」


 サオリが居なくなって、トーニ隣に座り、一緒に食事を摂る。

 MDAの作用とは言え、あんなことをしてしまった後なので、正直気まずい。

 ところがトーニは何事もなかったかのように、街へ出てコロンビア美人を拝みに行こうとか南米らしい服を買いに行こうとか、いつもと変りなくヘンテコな話を楽しそうに俺に聞かせる。

 “ひょっとして、トーニもMDAを飲まされていたのか……?”


 朝食が終わり、朝のミーティング。

 まだ大使館からの指示は何も無いし、このメンバーの中でもサオリの正体をハッキリ知る者はトーニだけ。

 しかもサオリは、まだ公に俺たちの前に現れた訳ではなく、俺やトーニなど一部の顔見知りが偶然ホテルで出会ったと言うだけに過ぎない。

 そしてサオリが何処かに行ったことも誰も知らない。

 ミーティングと言っても、何もない。

 ただ俺たちは、コンタクトを待つだけ。

 それまでは自由行動なので、街へ出る際の注意事項がマーベリック少尉から説明があった。

 長々と説明されたが端的にまとめると、

・危険な所に近付かない事。

・危険な物に手を出さない事。

・怪しい人の誘いに乗らない事。

 以上の3つ。

 つまり夜の歓楽街に行って麻薬に手を出したり、客引きに連れられて娼婦と情事に及んだり、喧嘩をしたりするなと言う事。

 同じ将校でも、ハンス大尉とニルス少尉の2人が29歳なのに対して、マーベリック少尉は歳が2つ上の31歳になる。

 元KSK(陸軍特殊作戦コマンド)の准尉だったハンスは、外人部隊でも若くして大尉に昇進した。

 ハンスと同じ歳で同期入隊のニルスは未だに少尉止まりだが、彼の場合技術士官と言う特殊な立場と、ニルス本人が昇進試験を真面目に受けに行っていない事もあるので少尉止まりなのは自業自得。

 元イギリス陸軍空挺部隊の少尉だったマーベリックは、ハンス達よりも入隊は1年早い。

 噂によるとイギリス軍の時に訓練中に負傷したことにより除隊せざる負えなくなり、この外人部隊に入隊したらしい。

 当然、除隊するほどの怪我だったので、外人部隊としても実戦部隊員としてではなく管理業務担当の事務員として採用した。

 しかしマーベリックは現場を諦めきれず、懸命にリハビリを続け、ようやく実戦部隊への配属が叶った。

 事務員には階級は付かないので現場復帰と共に規定通り見習士官の試験を受け、合格後には半年間の見習士官研修を修了し、その次に准尉を経て少尉へと進んで来た苦労人である。

 午前と午後の当番として誰がホテルに残るか決める際に、マーベリック少尉が午前と午後の両方を引き受けると言った。

 留守番をする当直は2人置くことに決まっているので「じゃあ今日は当直と言う事で、将校の僕たちが勤めよう」と言って、ニルスも残る事にして他の者たちは自由行動となった。

「こんな知らねえ街中で、午前中から自由行動と言ってもなぁ……俺は寝る!」

 モンタナがそう言って部屋に戻ると、みんな部屋に戻って行った。

 飛行機での長旅の翌日だ、無理もない。

「ナトー、オメーはどうするんだ?」

 部屋に戻りかけたトーニが、俺に気が付いて声を掛けて来た。

「俺は外に出る」

「図書館か?」

「いや、教会に行こうと思う」

「教会かぁ……。でもナトーはイスラム教じゃなかったのか?」

「なぜ?」

「だって、リビアでの作戦中はエマと何度もモスクに礼拝に行っていたんだろ」

「ああ」

 俺がイラク出身だから、トーニは俺がイスラム教徒だと思っているらしい。

 確かにリビアでは、よく礼拝場を訪れたが、あれは作戦のためでもあった。

 席を立つと、トーニも一緒に行くと言ってくれた。

「ついて来ても、面白くはないぞ」

「いいさ、どうせ何もするこたぁねえし。それに」

「それに?」

「――そ、それに……も、もし暴漢に襲われたときに、お前、強すぎるから正体がバレる恐れがある」

「なんの正体だ?」

 秘密裏にここに来ているから、たとえ暴漢に襲われて殴り倒したとしても、誰も俺のことをフランス外人部隊の兵士だとは思うはずはない。

 普通に絡んでくる一般の素行の悪い人間に全力で対応する必要もないから、誰から見ても俺は“ただの強い姉ちゃん”で済む。

 いくら喧嘩に自信があり、ジムにも通って鍛えていたとしても、所詮は一般人。

 同じハイレベルの者たちの中で、体に痣を作りながらも毎日欠かさず訓練をしている俺達には敵うはずがない。

 ある意味、俺達はプロのアスリートよりも強いかも知れない。

 それは彼等の目的が敵に“勝つ事”であり、競技ルール―に則って練習や試合をするのに対して、俺達の目的は敵に“殺されない”こと。

 そのために様々な格闘技を習得した者同士が切磋琢磨して、日々汗を流している。

 トーニだって、隊内では格闘技は一番弱い部類に入るが、それは体内での序列。

 一般人相手なら、充分役に立つだろう。

 夜の街に繰り出すほど危険度は少ないし、ボコタは俺たちが思う以上に治安は良いから、トーニの言葉に甘えて俺のボディーガードを頼むことにした。

「じゃあ、ボディーガードを頼む」

「そう来なくっちゃ!」

 朝からあんなことがあって気まずいが、そんなことまるで気にしないトーニが、とても喜んでくれて何だかとっても嬉しかった。

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