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フルメタル  作者: 湖灯
レッド・サン

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希望の地へ②

 離陸してしばらく経って自動操縦に入れると、サオリがパーティーをしようと言い出して慌てた。

 だって、俺はガモーへのお土産を買っただけで、2人へのプレゼントはおろか食事やお菓子さえも買っていなかったのだもの。

 慌てる俺に気付いたサオリが「大丈夫よ」と言ってくれ、キッチンからご馳走を運んで来てくれた。

「これ、どうしたの?!」

 サオリはニッと笑って、ガモーに用意してもらったと答えた。

 キョロキョロと辺りを見渡すが、肝心のガモーは居ない。

「居ないわよぉ、電話にきまっているでしょ」と笑われた。

 確かにサオリには、こんな豪華なディナーを用意させる暇はなかった。

 それにしてもガモー。恐るべし。

「これからは、こういう仕事も覚えて行ってもらうわよ」

「えっ!?」

「違うわよ、覚えてもらうのはレイラ」

「分かりました」

 パーン。

 冷えたシャンパンが開けられ、サオリと俺の2人が祝福の言葉をかけてパーティーが始まる。

 レイラが食材を取り分けてヤザのお皿に乗せる。

 ヤザは照れ臭そうに、それを摘まむ。

 こういう時は、やはり女性の方が堂々としている。

 微かな記憶だけれど、ハイファもいつもこうしていた。

 食事を摘まみながらサオリが何かを取りに貨物室に行った。

 持って来たのはギター。

 サオリが最初に2人にプレゼントした曲は「Love Me Like You Do」

 ギターも上手で、歌も歌手顔負け。

 ヤザもレイラも曲に乗って、もうノリノリ。

「ナトちゃん、アンタさっきから手拍子ばかりしてないで歌いなさいよ!」

「えっ、なんで? だって俺、歌あまり好きじゃないし、サオリに教わっていないよ」

「そう……教わってない事は何も出来ないの?お義父さんとレイラのためでも?」

 んっ、サオリの目が座っている。

 そう言えば、サオリは滅茶苦茶お酒に弱い。

 でも、これシャンパンよ……。

 兎に角2人のためでもあるし、サオリを怒らせるとマズイので歌う事にした。

 と言っても歌は余り知らない。

「ゴメン。俺、歌は余り知らない。だからこの歌が、2人の結婚を祝福するのに相応しいかどうか分からない。ただ日本に居ても、この歌の様な俺のことを時々思い出して欲しい」

「あら、司会入りね」

「そんなんじゃないよ。もうっ!」

「で、曲は?」

「Life is cool」

 サオリは、これも伴奏してくれ、ヤザとレイラの2人は手拍子をして俺を支えてくれた。

「何が俺、歌は習っていないからよ!充分上手いって言うか、上手過ぎるわよ」

「そっ、そう?……」

 ズーっと歌は嫌いで、歌を歌う事も無かった。

 でもリビアでの作戦の時、盗聴器を探すエマに歌う様に言われて歌い、余りの下手さ加減に思いっきり笑われてしまった。

 あんまり悔しかったので、図書館で音楽の本を読んで勉強したが、上手に歌うには楽譜やリズムの勉強だけではなく声を出さなければいけないので、1人でコッソリとカラオケにも通った。

 だけど、いまだに人前で歌うというトラウマは消えない。

 俺の歌が終わると、サオリがケーキを運んで来た。

 サイズは小さいが、一目でウェディングケーキと分かる純白のホールケーキ。

 結婚する2人に入刀をしてもらい、皆で食べ、その後は色鮮やかで口当たりの良いカットフルーツが出て来た。

 今夜出されたお酒やお料理には、それぞれどこかに番号札が付けられてあり、キッチンからサオリがその順番に沿って持って来ていた。

「ねえ、ガモーにどんな風に伝えたの?」

 あまりにも凝り過ぎているが、こんなに細かい指示を出せるほど余裕はなかったはず。

 “今日結婚した夫婦を乗せて帰るから、食料の調達宜しく”

 サオリが教えてくれたのは、言葉ではなく、この短いメールだけ。

 さすがガモー!

 それから何曲も皆で歌い、サオリが最後にプレゼントしたのは「Hands」

 サオリは恐らく計算していたのだろうが、レイラは素直にその計画通り泣いてしまった。

 女3人で食べたものを片付け、俺はコクピットに戻った。

 自動操縦とは言え、長い時間空けてしまったので、計器類をチェックしておきたかった。

 高度3万5,000フィート(10,800m)速度850㎞/h、各計器類も異常を示すものはない。

 全てが順調で、安全なフライト。

 シートの背もたれに体を投げ出し真っ暗な空を見る。

 高度が高く雲の上だから、星が綺麗だ。

 流れ星が見えた。

 そう言えばオリオン座流星群の時期だ。

 日本では流れ星を見つけて消えるまでに、目を閉じて手を合わせて3回願い事を唱えると、その願い事は叶うと言う言い伝えがある。

 また流れ星を見つけた。

 俺は目を閉じて手を合わせた。

 “平和、平和、平和”

 言い終わってから目を開けると、丁度今願い事を掛けた流れ星が消えた。

 “叶うのか……”

 人類の歴史は戦争の歴史だと言う人が居る。

 この壮大な願い事は、そう簡単に叶う酔う事ではない。

 けれども、一人一人が、この気持ちを確りと持っていれば必ず戦争のない平和な世の中は訪れる。

 俺は、そう信じている。


 羽田に到着するとガモーが迎えに来ていた。

 フライト中の食事のお礼を言って、ガモーにお土産物を渡す。

 土産物はペナントと言う長い三角形の旗のような物。

 中にバーミヤン渓谷の絵がプリントされて真中に大きくAfghanistanと刺繍がしてある。

「なんやこれ?」

 ガモーが俺の顔を睨む。

 “やはり失敗だったか?!”

「干し肉とかの方が、良かったか?」

「なんでアフガニスタンまで行って、干し肉やねん。そんなんスーパーで買った方が安くて美味しいに決まっているやん」

 予想した通りの答え。

 ガモーは何も言わず、それを上にかざして眺めてから言った。

「これや」

「なに?」

「これやがな、土産物っちゅうもんは!ナトー有り難うな。あんさんホンマにセンスがええなぁ。ありがとうな」

 ガモーは何度も何度も、ありがとうと言ってくれ、嬉しそうにしてくれた。

「こんなので良かったの?」

「あほう、こんなんがええねん。おそらくこんなもん売れんから土産物屋の余ったスペースに吊るしてあったんやろ。数が出えへんから工場で生産するんやのうて、手作業の部分も多いがな。手作業言うても刺繍やミシン掛け程度の安い仕事やからお年寄りや障碍者なんかに頼むんやろうと俺は思う。でも、そんな社会がな、本当に平和な社会を支えているとお前、思わへんか?つまり弱者を作らん社会や」

「たしかに」

「ええもん買うて来てくれたな、ホンマにありがとうな」

 ガモーは、そう言って俺の肩を叩いて「ほな、またな」と言った。

「ほな、またな……って?」

「さいならっちゅう事や、これから秘密基地に戻るのにPOCにマークされている“あんさん”連れて行く訳には行かんやろ。まだ休みは少し残っとるんやろ、その間お義父さんと新しいお母さんに日本を案内しとかんかい」

 ヤザとレイラの2人を振り向くと、お互いに目が合った。

 サオリも優しく笑っている。

「うん!」

 俺は、まるで子供の様に元気いっぱいの返事を返した。

「ねえパパは日本のどこに行ってみたい?」

「パ、パパ」

 今までヤザの事を“お義父さん”とも呼んだことのなかった俺に、いきなりパパと言われて驚いているヤザ。

「日本と言っても、何がある国か俺は知らない」

 ヤザが困った顔をしてレイラに助けを乞う。

「ママは、どこがいい?」

 レイラは少し恥ずかしそうに肩をすぼめて、とりあえず「お寿司を食べてみたいわ」と言った。

「お寿司の後は?」

「広島平和記念資料館に行ってみたいわ」

「遠いなぁ」

「えっ、遠いの?」

「いや、直ぐそこ」

「直ぐそこって、実際の距離は?」

「800キロ以上」

「遠いのね。なのに直ぐそこって……」

「平和のこと」

 ヤザとレイラ、2人の顔がパァーっと明るくなった。

「じゃあ、とりあえず、お寿司を食べに行こうか!」

「お寿司の後は?」

「新幹線に乗って広島平和記念公園」

「その後は?」

「近くの厳島神社のホテルに1泊しよう。そして次の日はまた新幹線で京都見物」

「ナトー詳しいな」

「ナトちゃん来たことあるの?」

「小さい方の厳島神社ならね……」

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