逆襲①
「发生了什么?你很安静。绳子还没准备好折断吗?(どうした、おとなしいな。もう、縄は直ぐに解ける状態にしているんだろ?)」
隣に並べられているハンスが、急に中国語で呟く。
「我被椅子绑住了。帮不上忙(椅子ごと縛られているからな。どうしようもない)」
「不要撒谎(嘘をつくな)」
俺の返事を聞いて、笑う。
確かに、半分は嘘。
上半身は直ぐに解ける状態にしているが、椅子ごと括りつけられている足はどうしようもない。
この状態では、ハンスが動けない以上、拳銃を持っている2人に対しては何も出来ない。
「勝手に話をするな!俺たちが分からないと思いやがって!」
俺たちの会話に苛立った、男が声を荒げて言った。
「敵即将陷入陷阱(引っかかりそうだな)」
「噢亲爱的,这样的事情(まあ、こんなものだろうな)」
「止めろと言っているだろうが!」
怒った男がハンスを椅子ごと蹴り、ハンスが勢いよく倒れる。
「蠢材!(愚か者め)」
罵りの言葉が分かったのか、男が狂ったようにハンスを更に蹴り、もう1人がそれをニヤニヤしながら見ていた。
「我准备好了(準備は良いぜ)」
ワザと苦しそうに小言で言うハンス。
「演员……(役者)」
俺は勢いよく前に回転すると同時に上半身の縄を外し、前転の体勢から勢いよく椅子をニヤニヤしている男の頭に打ち付け、そのまま足で首を挟み腕を取り横三角締めに入った。
同時にハンスも縄を解いた手で蹴って来る足を救い上げて転ばし、直ぐに腕を相手の首に巻き付け送襟絞に入る。
不意を突かれた見張りの男2人は、成すすべもなく直ぐに失神した。
「次はドアだな」
そう。
ドアは外から鍵が掛かる仕様。
ピッキングで開くとは思うのだが、偽ミヤンがあの黒覆面の男だとすれば、それだけで簡単に出られるとは思えない。
「司令!」
呼ばれてモニターを見ると、見張りの2人がナトーとハンスに締め上げられたところだった。
「やはり、見張り2人だけでは……」
「かまわんよ。想定内だ。あの女の実力を考えれば、人による見張りなど意味がない。たとえ部屋に10人配置しておいたとしても、奴は最初のターゲットから銃を奪い取り残りの9人を瞬く間に撃ち殺すだろう」
偽ミヤンは、涼しい顔で言った。
「さて、問題はこれから。ここで死ぬか、それとも無事本部へと輸送して、心を入れ替えるまで慰み者として生きるか……ヘリの到着は?」
「あと15分です」
「フランソワ!」
丁度、事務所棟の入り口でフランソワ隊と合流した。
「ニルス少尉。俺たちは裏に?」
「いや、正面から一緒に行こう」
裏口が何所にあるのか分からないし、鍵が掛かっているかも知れない。
しかも建物の内部がどの様になっているのか、ナトーとハンスが監禁されている予備品質が何所なのか敵が何所に潜んでいるのか、何も分からない状況で少ない人数を2つに分けるのはリスクが高い。
「ハバロフとキースは、ここで待機。あとのメンバーで突入するが、エマはどうする?」
「勿論、突入するわ」
「拳銃で?」
「屋内戦だから拳銃でも充分よ」
「よし。では、フランソワ達3人は1階の敵の排除、エマと僕たち3人は2階に上がるが、1階が終わったら直ぐに上がって来い」
「OK!」
「駄目です。完全に通信環境が乗っ取られています」
「やむを得ん、環境をローカルに切り替えろ」
「ですが、それでは林道の車と外倉庫のカメラ映像が受信できなくなりますし、本部との連絡まで途絶えることになります」
「外に出た10人とも既に連絡が取れんと言う事は、敵はもうこの中に入っているかも知れん。外は切り捨てろ」
「分かりました」
「じゃあな、俺たちは上がってニルスたちと合流する」
ポンとキースの肩を叩いて、フランソワたち3人が階段を駆け上がって行った直後、階段室の防火シャッターが勢いよく閉まり始めた。
「おいマジかよ……」
「キースさん、止めましょう」
「止められるのか?」
「船の水密隔壁じゃなくて、ただの防火用シャッターですから止められるはずです」
2人で閉まり始めたシャッターを止めようと、手を掛ける。
「うわっ、なんだこれ!」
2人で手を掛けて引っ張ったが、止まるどころか降下するスピードさえも落ちない」
「ど、どうなっているんだ。止まらねえ!」
「バカが……2人であろうが4人であろうが、その防弾仕様の重量シャッターを止める事は出来んよ」
2階のモニターにはフランソワたち3人が閉じ込められ、3階にはニルスとモンタナが閉じ込められていた。
ナトーたちを監禁している3階通路用のカメラだけ、壊れているらしく映っていない。
「これは、何故映っていないのか?」
「捕まえた奴らが、部屋から出るときに壊したのではないでしょうか……」
「部屋のドアを開けると、爆発するように仕掛けを置いて来ている。まだ爆発音がしない以上、奴らはまだ部屋の中だ。日頃からチャンとメンテンナンスに気を配っていないから肝心な時に役に立たない。まったくお前らと一緒だな。もういい、敵が中でゴソゴソ動き回らないように1階から3階までの照明を落としておけ」
「承知しました」
「間一髪で、すり抜けられたけれど、籠の鳥になっていた方が良かったかしら……」
防火扉が閉まった通路を目にしてエマが呟いたのも無理はない。
今目の前の通路にある防火扉は防弾仕様の重量シャッターと違い、どこにでもある普通の鉄板タイプの物。
つまり扉の向こう側に敵が居た場合、気付かれて自動小銃を乱射されようものなら、銃弾は鉄板を破ってこちら側に届いてしまう。
勿論こちらからでも条件は同じだけど、こちらから下手に撃つとナトーやハンスが居た場合殺してしまう事になるので、確認もしないで撃つことは出来ない。
「レイラに聞いてみれば」
「そうね。ブラーム、アンタ見かけによらず気が利くわ」
閉められたシャッターに寄りかかり、レイラに連絡する。
寄りかかってもシャッターの向こう側で騒いでいるはずの、ニルスとモンタナの声など聞こえもしない。
「あっ、レイラ。今、事務所棟の3階に居るんだけど、そっちから監視カメラの映像は確認できる?」
『今はフィルターを掛けて違う映像を流しているのだけど、映像を見れるようにすると敵側からも見られる事になるけど大丈夫なの?』
「大丈夫よ。おそらくもう敵は見ているわ」
『まさか……ちょっと待って』
レイラがフィルターを外してみると、そこには砂嵐意外何も映っていない。
『敵は回線を閉じているわ、見ているとしたら、恐らくローカルネットのVODカメラよ(Video On Demand Camera:テレビ用配線を使った監視カメラ)だから、ここからでは見る事が出来ないわ。ごめん!』
「いいよ。状況が分かっただけでも収穫よ」
『あっ、それからメントス君が、航空無線を傍受した』
「航空無線?」
『私が傍受した敵の携帯通話に返事が返ってこないのを不思議に思っていたけれど、敵の発信内容とメントス君が傍受した内容が一致したの。いい、あと14分後に敵のヘリが到着する。黒覆面の男は、それでここから脱出するつもりよ』
「まあ!逃げる事にかけては天才ね」




