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フルメタル  作者: 湖灯
コードネームは「ダークエンジェル」
280/700

遅れてきた男①

「これから、どうする?」

 穴だらけで、どうにも走りそうにない敵の車を見てレイラが言った。

「拳銃の射撃って、こんなものよ。ナトちゃんは例外中の例外」

 レイラの車が壊れた今、使えるのはこの敵のベンツだったのだが、エマとレイラによる拳銃の乱射で後ろタイヤは2本共パンクしているうえにガソリンタンクに穴まで開いている。

「キースのバイクを待つか」

「あら、それじゃあナトちゃんを守ると言う今回の作戦に、そぐわないわ」

「しかも敵は自動小銃まで使って、本気で殺しに来ているのよ。そこにバイクで向かったらイチコロよ」

 エマに続いてレイラが心配して言ってくれた。

“噂をすれば、なんとやら”

 遠くからキースのバイクの音が微かに聞こえて来た……と思ったら、その音は何か違う音に掻き消された。

 何だろうと見ていると、物凄い勢いで疾走してくる赤い車。

「敵の追手よ!」

 エマが咄嗟に落ちていた自動小銃を拾い上げて構えたが、その銃身を手でゆっくりと下げた。


「ハンス……」

「なに?」

「ハンスが来た」

「まさか。ハンスには声を掛けていないから、知らないはずよ」

 エマが不思議そうな顔で、手をかざして見ている。

 大地を稲妻の様に駆け抜けて来るのは、ソウルレッドのMazda6。

 ハンスの愛車だ。


「ナトー、乗れ!」

 俺たちの前で急停車した車からハンスが叫ぶ。

 理由は知らないが、全てお見通しらしい。

 素早く助手席に乗り込む俺に続いて、後部座席にエマが乗り込む。

 レイラは反対側のドアに回っていたので遅れていた。

「この車に乗って良いのはナトーだけだ!降りろ!!お前たちはキースと、こいつらを縛って連行しろ!」


 初めて会った時の事を思い出す。

 1日目の実技試験をクリアした俺は、2日目以降1週間の筆記試験に挑むため宿直室に泊めてもらう事になった。

 長旅で着の身着のままだった俺を、ハンスはこの車に乗せてくれブティックとレストランに連れて行ってくれた。

 部隊に戻った時、それをトーニに茶化されていて、何のことだか分からない俺にブラームがコッソリ教えてくれた。

“隊長の車は、女人禁制“だと。

 勿論、その時点で俺に課せられた規律“性別にかかわらず部隊では男とみなす”が適用されているとハンスは言ったが、苦しい言い訳にしか聞こえなかった。

 今、こんな時に思い出しても、なんだか心が温かくなってくる。


「いやよ!!」

 エマの厳しい声が返って来た。

「これは、もともと私たちDGSEの作戦よ。折角ここまで来たのに横取りされて堪るものですか!」

「知った事か!」

 ハンスは降ろす事を諦めたらしく、エマの言葉を最後まで聞かないうちに車を発進させた。

「ニルス。今ナトーを拾った。道案内を頼む」

 ハンスがインカムでニルスと話した。

 やはり、さっき見たドローンはニルスの物だったのか。

「ところで、もともとDGSEの作戦って、なに?」

「……」


 俺の問いにエマは答えない。

「エマたちは黒覆面の男を追っている。そうだろ?」

「黒覆面って?」

「ザリバンとの闘いで、あの地下司令部を仕切っていた男だ。ナトーは戦いが終わったあと軍法会議に掛けられて情報を遮断されていたから知らないだろうが、その軍法会議自体怪しいものだ……」

 ハンスがバックミラーを覗くと、エマが目を逸らすのが鏡に映った。

「じゃあ地下司令部の前の崖で行方不明になっていた、海兵隊のノリス大尉とエリアン1等兵は……」

「当初は2人とも、あるいはどちらか1人が多国籍軍の作戦をザリバンに漏らした“裏切り者”であろう。と言うので捜査が進んでいた。確かに2人とも司令部の爆発火災現場で死体として見つかっていた。黒覆面を被せられてね。ところが現場のX線検査で発見された、たった1つの指紋により、事態は大きく揺れ動くことになった」


「たった一つの指紋?」

 俺が聞いた時、車は山道に差し掛かりテールが大きくスライドした。

「運転に集中する。あとはエマが説明してくれる。そうだろ?」

「すべて調査済みって事ね、いいわ」

「エマ……」

「たった一つの指紋は、司令部にあった灰皿に付着していたの。捕虜にした敵からの聞き取り調査で、黒覆面は背丈や体格は現場で見つかったノリス大尉とエリアン1等兵と非常に似ている事は分かっていたの。だけど2人とも喫煙者ではないから、葉巻は吸わない」

「葉巻?」

「そう。捕虜からの情報で、黒覆面の男が葉巻を吸う所を見たと言う証言があったの」

「つまり黒覆面の男は、自爆したと見せかけて、その混乱を利用して逃げたと言う事か。でも何故、そのことを俺に隠していた?」

「それは……」


 その時、車の速度が少しずつ落ちて行くのが気になった。

「戦場で多くの敵味方が傷つき死んでゆくのを見て来たお前が知ると、復讐のために執拗に黒覆面の男を追おうとするからに決まっているだろ。お前が動けば敵は遠ざかる。なにしろ、ほぼ一人でザリバンの司令部を潰した張本人だからな。それより騙して仲間に引き入れたほうが得策だろ」

 なるほど、スカウトの目的は、それだったのか。

 言い籠るエマに代わり、ハンスが答え、車を止めた。

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