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フルメタル  作者: 湖灯
グリムリーパー
240/700

バグラム空軍基地①

 不思議なもので銃を持ってうろついていると直ぐにザリバン兵と出くわすと言うのに、銃を持たないでただ仲間とツーリングを楽しんでいるときは、ザリバン兵どころか銃を持ちそうな危険な輩に一切合わない。

 会うのは手を振ってくれる若者や走っている俺たちをワザワザ呼び止めて獲れたてのブドウやリンゴをくれたりする農家の人、それに山岳部でたまに出くわす野生動物などキナ臭い戦争とは無縁のものばかり。

 ただしマ―コールと言う長い角が螺旋状になっているヤギを見かけたときは、正直驚いてしまった。

 なにしろその顔がザリバンの首領アサムとソックリで、高い崖の斜面から俺たちを見ているマ―コールは、まるで遠くから俺たちの行く末を見守っているかのように見えた。

 早朝にイシュカーシムを出て、夕方前にはバグラム空軍基地に到着した。

 あのホテルを出てから500キロ以上を走り、ここに着くまでにたったの2日。

 あのリビアでも空港から駐屯地に移動するまでの間、路上に仕掛けられた爆弾で一旦立ち往生を余儀なくされ多と言うのに、それよりも警戒レベルの高いこの土地でこうもスンナリ来られるとは思っていなかった。

 やはりこれは俺たちが、ただの旅人として移動していたことが大きな要因だったのは間違いない。

 どこの国にも、ほぼ共通して言えるのは“旅人には優しい”と言う事なのだろうか。

 まあ兎に角、道中危険なことが無くて本当に良かった。

 ホテルにオートバイで乗り付けて来た時は、正直ゾッとした。

 敵の真っただ中で生身のオートバイ。

 しかもサオリから一切武器を携帯しない事と言う条件を提示され、それを鵜呑みにしてノコノコやって来たのだから。


 不意にバイクのエンジン音まで聞こえなくなるほどの、激しい金属音が響いた。

 耳を覆ったヘルメット越しでも、ハッキリと位置が分かる。

 俺は、音のした頭上を見上げた。

 灰色のRAM(電波吸収材料Radar absorbent material)塗料で機体全体を覆われているのは戦闘機F-35Aだ。

 F-35Bを持っているなら、俺たちが大破しながらも不時着した輸送機の中で戦っているときに直ぐに応援に駆け付けることが出来たのではないだろうかと思ったが、その答えはすれ違うトラックの列が教えてくれた。

 トラックに積まれて運び出されるのは、分厚いコンクリートの塊。

 しかもそれらは建物の壁面に使われるものと違い、もっと強度があるもの。

 そう、滑走路用のものだ。

 やがて見えて来た滑走路の端には、この破片が高く積まれていた。

 屹度、俺たちの輸送機を攻撃したタイミングで、ここも攻撃を受けたのに違いない。

 STOVL(短距離離陸・垂直着陸)機能を備えたB型なら、それでも何とか飛べただろうが、ここに配備されていたのはA型。

 滑走路が壊されれば離陸するのは難しい。

 おそらく支援に来たA-10は違う基地から飛んで来たのだろう。


 バグラム空軍基地に入る検問所で手続きを済ませ、キャンプ内に入る。

 あの時は悲観的な未来の事ばかり考えていて、少しも周りの様子を見る余裕もなかったが、今こうして見ると敷地内にはレストランなどファーストフードのお店だけでなくスポーツジムもありチョットした街の様で、思った以上に広い。

 それもそのはずで、この基地にはアメリカ陸軍の山岳歩兵旅団や海軍海兵隊をはじめカナダ軍、イギリス軍など約8千人の兵士が駐屯している。

 手続きを終えた俺たちは、一旦フランス外人部隊に割り当てられた宿舎に移動してバイクを下りた。

 ヘルメットを脱ぐと、生暖かい風の中に暖房の匂いがした。

 航空燃料の匂い。

 不時着した輸送機の中にも少し漂っていた匂い。

 あの輸送機で一緒に戦った仲間の事を思い出す。

「病院は何所だ?」

 基地の何所に何があるとかは、全く知らない。

 だからハンスに聞いたが、フランスを出てそのまま戦場に降下したので俺もここは初めてだと言われた。

 エマを探したが居なくて、ユリアに聞いたが肩を窄めて“知らない”と言うジェスチャーをされた。

 当然、俺たちLéMATのメンバーは病院が何所にあるかなんて知らない。

 負傷したモンタナ達が手当てを受けたのは、あの高原に架設された野戦病院で、ここには誰も連れられてきていない。

 輸送機で戦った仲間は、元気なジムとゴードンを除いて全てここに運ばれたが、それ以降は状況が変わったと言う事だろう。

 軽症者とみなされた負傷者には薬品などを送って衛生兵が現地で対応し、空になった貨物室に重傷者を乗せて連れて帰る。

 つまり、それだけ一気に負傷者が増えたと言う事なのだろう。

 勿論、手当てをする負傷者の中には敵兵も含まれるから、その数は直ぐに病院の収容人員を上回るのは見るまでもなく明らか。

 特に、捕虜となった敵兵を動けないからと言って戦場に置いて行くことは現地部隊の負担に繋がるので尚更だろう。

「さあ、みんな着替えて」

 どこかに行っていたエマが戻ってくるなり言った。

「着替えるって?」

「軍服の正装よ」

「正装??」

 俺たちは戦いに来たので、そんな不必要なものは持って来ていないと皆が口々に言うと、エマが既に手配して更衣室に置いてあるからシャワーを浴びて直ぐに着替える様に言った。

「どうした?戦功者たちの御帰還パーティーでも主催されたのかよ!」

 トーニが揶揄う様に言うと、エマが「その通りよ」と返す。

「そうと決まりゃあ、キチンとしなくちゃな」

「トーニ、おめーはツーリングに参加しただけだろうが」

 モンタナの言葉に一同が笑う。

「さあさあ早くしないと、パーティーの時間に遅れちゃうよ!」

 エマが手をパンパン鳴らして、急ぐように促すと、皆それぞれに更衣室へと向かった。

 俺は出て行こうとするユリアを見る。

 急遽参戦したウクライナ兵にも宿舎は用意してあるはずなので、ユリアはそこに帰ろうとしているのだと思った。

 仕方が無い事だけど、出来るならもっと長く一緒に居たい。

 ユリアがエマに言う。

「エマ少佐、私もここでシャワーを浴びさせてもらっていいですか?」

「ええ、構わないけれど、君の着替えは持って来ていないよ。それでも良いのならどうぞ。私はDGSEのオフィスに行かなければならないから、あと1時間後には迎えに来るからチャンと着替えておいてね」

 そう言うとエマは慌てて出て行った。

挿絵(By みてみん)

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