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フルメタル  作者: 湖灯
グリムリーパー
236/700

仲間と②

 エマが久し振りに盛り上がろうと言ったものの、ここは敵地。

 いくらツーリストに化けていても、酒が入れば正体は直ぐにバレる。

 だから皆に注意をするように言い聞かすのに、大変だった。

 ところがフロントから俺宛に電話が入ったと呼ばれ、応対してみると電話の主はサオリだった。

「どう、ナトちゃん。お仲間は到着した?」

「やはりエマに連絡したのはサオリだったんだな」

「そうよ。いけなかったかしら」

「いけなくはないが、沢山来過ぎだ。これじゃあまるでチョットした特殊部隊だぞ」

「あら、私が電話したのはエマさんだけなので、その他さんには責任持たないわよ」

「そうなると分かっていても?」

「も!」

 相変わらず可愛い。

「ところでナトちゃん。それだけ集まったら今日は酒宴だよね」

「まさか、ここは敵地だぞ」

「あら、皆さんツーリストでしょ。旅行者に敵地ってあるの?」

「それは……」

「じゃあ、久し振りに呑みなさいよ」

「サオリとの再会は祝ってないのに?」

「じゃあ私とは今度会った時に呑みましょ」

「……だめだ。あっ、駄目だって言うのは、サオリと呑む事じゃなくて、今夜の事だからね」

「今夜、どうして駄目なの?」

「だって、イスラム教の国だからハラームでアルコール飲料は禁止されているから、町に出ても売っていないだろ」

「なんで町に出るの?」

「そりゃあ、お酒を買うためだろ」

「ホテルに泊まっているのに?」

「急造のホテルだろ」

「さあ、どうかしら? フロントに聞いてみれば」

「わかった。ところで、何か用だったんだろ?何?」

「用はもう済んだわ」

「まさか、ツーリストが無事到着したかどうかが用?」

「そうよ」

「たったそれだけ?」

「“たったそれだけ”の事を、アサムたちが守れたか守れなかったかが知りたかったの」

「でも、道中で狙わなくても、このホテルに集まった所を一網打尽にしてもいいんじゃない?」

「あーっそれ無理だから」

「どうして?」

「だってホテルマンはザリバンじゃなくて、私側の人間だから」

「“私側?”って、サオリ。君は一体……」

「さぁ、なんでしょうね。フロントの人にコッソリ聞けば教えてくれるかも。じゃあねナトちゃん。今度会うのを楽しみにしているわよ」

「――」

 一方的に電話が切れた。

 電話が切れたところで、フロントの人の顔を見ると、なんだかニコニコしていたので「君たちは一体何者だ」と直球勝負で聞いてみた。

 フロントの人は、待っていましたとばかりに内ポケットから身分証明書を出すと、それを俺に見せて「実は私たちはUNTSO(国際連合休戦監視機構)の人間だ」と答えた。

(※国際連合休戦監視機構United Nations Truce Supervision Organization:国際連合初の国際連合平和維持活動を目的とした組織で本部はエルサレムにある)

 身分証明書を見て直ぐに信用するわけにはいかない。

 けれどもサオリの事は信じたかったので、エマに相談すると「いいじゃん呑もう!呑もう!」と大はしゃぎ。

「しかし、こんなところで呑むと“アリババと40人の盗賊”の盗賊側になってしまうぞ!」

 と注意すると、エマは変な顔をして「ならないでしょ」と俺を見て「モルジアナは私たちの側に居るんだもの」と続ける。

「モルジアナって、樽に隠れた盗賊たちの正体に気がが付いて始末した女?」

 ひょっとして、俺をモルジアナだと思っているのかと、人差し指で自分の顔を刺すと「そうよ」と、当然の様な顔をして言われた。

「では、宴会の御準備をいたします」

 隣で一部始終を聞いていたフロントの男が頭を下げて他のボーイに合図すると、そのボーイはニコニコ笑って厨房に入っていった。

「どうなっている?」

「いいんじゃない」

 半信半疑で聞く俺に、エマは笑顔で答える。

“こんなに楽観的で良いのか??”

 結局ハンスにも“大丈夫だろう”と言われ、流されるままその夜は酒宴になってしまった。

 用意された御馳走を喰らいつく前に、エマが用意してきた毒物検査キットを使ってチェックする俺を見てモンタナが「軍曹!酔いがさめちまう」と言ったが無視して入念にチェックしていると、トーニが「まだ呑んでもねーのに覚めるかよ!」と皆を笑わせた。

 全ての食材、飲料、容器類のチェックを終える頃、エマに「どうして、これを用意してきた?」と聞くと、通報してきた女が“これを持って来ないとナトーは承知しないだろう”と言ったことを教えてくれた。

「ひょっとしてナトちゃん、通報してきた女の正体知っているのね」

「ああ」

「誰?」

「サオリだ」

「!サオリって、前に話してくれた赤十字の、イラクの爆弾テロで犠牲になった人?」

「ああ」

「生きていたのね!」

 案の定、そこまで言うとエマは思いっきり抱き着いてきた。

 久し振りに抱かれるエマの柔らかい体。

 でも、みんなの前では恥ずかしいし、ここにはユリアも居るしハンスも居る。

 だから「よせ!」と邪険に突き放す。

 本当はエマに……いや破廉恥だと思われるかも知れないが、みんなに抱かれたいし抱き着いて甘えたいのに。

「さあさあ、目の保養も出来たことだし、ナトーとハンスの無事を祝して乾杯といこうじゃないか!」

 ニルスの言葉に、皆が盃を手に持った。

「乾杯の音頭はツーリングの主催者、エマに頼もうぜ」

 トーニが言い、エマが「乾杯!」と威勢よく盃を上げる。

「乾杯!!」

 続いてみんなが盃を上げ、酒宴が始まった。

挿絵(By みてみん)

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