絶体絶命①
振り向くと、モンタナの頬から血が流れていた。
だが問題はそこじゃない。
弾帯交換のために開けていたM249軽機関銃のトップカバーに、銃弾が当たり壊れていた。
「怪我は!?」
「破片が頬をかすっただけですが、銃をヤラレてしまいスミマセン」
事の重大さを知っているモンタナが、珍しく落ち込んでいる。
「モンタナ!俺が撃てねえ分、俺の銃で敵を倒してくれ」
ボッシュの差し出した小銃をフランソワが取り、モンタナに差し出した。
「馬鹿みたいに連射できねえけど、我慢しなっ!」
銃弾の飛び交う中、フランソワの言葉に「分ってらい!」と笑うモンタナ。
「ジェイソン、ボッシュ!悪いが2人で協力して、空マガジンに軽機関銃用の5.56 mm弾をバラシて詰めてくれ」
いつまで続くか分からない敵の攻撃。
それを防ぐためには派手に撃ち続ける以外に道はない。
機関銃のトラブルで、数名の敵兵がDead zoneを越えてきたが、それも直ぐに撃退した。
しかし敵はDead zoneに折り重なっている死体を、まるで土嚢替わりのように遮蔽物として使う事で、狙いも正確になってきた。
「うわっっ!」
またモンタナが声を上げた。
「どうした!」
「っいっいえ、なっ何も……」
一見したところ何も異常は無さそうに見えたが、マガジン交換をするときに左手が震えているのが分かった。
おそらく左腕の、どこかを負傷したに違いない。
モンタナとフランソワがマガジン交換をしたタイミングで、俺とブラームで手榴弾を投擲したが、死体が邪魔をして効果は薄かった。
ボッシュに崖の上の状況を聞いたところ、どうやら抜け道のある斜面の奥側を大回りして上がって来た敵部隊があったらしく、崖の上も抜け道と側面を敵に抑えられ苦戦を強いられている様子だった。
味方の援護があってこそ、出城は機能する。
それが今は、味方の援護を受けられない状態に陥っている。
どうりで敵の攻撃が激しいわけだ。
ヤザは戦力を分散することで、俺たちを2つに分断することに成功した。
数の面では圧倒的に敵の方が多いから、分断されてしまう事で、俺たちは多方面からの攻撃を回避する能力を奪われる……。
不意に背筋に強烈な寒気がした。
慌てて振り向くと、トーチカの反対側を登って来た敵の先頭が、直ぐそこまで来ていた。
今まで崖の上からの援護があるとばかり思っていて、迂闊だった。
慌てて小銃で撃ったが、直ぐにマガジン交換になったので、拳銃を抜いて上って来る7人全員を倒した。
だが、その下にも10人が援護のために伏せていて、その後ろにもまた10人前後の敵が木々の陰に隠れているのが見えた。
「反対方向に約20!こっちは俺が引き受ける。前の状況はどうだ?!」
「Dead zoneで依然膠着状態です!」
負傷しているモンタナに変わってブラームが答える。
「直ぐに片付けるから、暫くそっちは頼む!」
「了解しました!」
HK-416を構え、伏せている敵を順番に狙撃してゆく。
正面に3人、後ろは俺1人。
注意を怠っている背後から攻めて、トーチカを奪い戻す作戦。
背後からの攻撃で片を付けるつもりなら、全員を突進させたはず。
しかしその場合、こっちがそのことに一早く気が付いてしまえば、背後からの作戦は終わる。
ヤザの狙いは、そこではない。
崖の上にいる部隊と、トーチカの中で戦う部隊を分断させた次は、更にそのトーチカの中の戦力をも分断させる作戦なのだ。
背後の敵の布陣は、明らかに俺の注意を後ろに引き付けることが狙い。
だとすれば、次は膠着状態の正面から何かを仕掛けてくるはず。
ぼやぼや出来ない。
伏せている敵を8人狙撃して倒したときに、ブラームの叫び声が聞こえた。
「敵、突撃してきます!!」
直ぐに敵の怒涛の様な叫び声が聞こえた。
「ジェイソン、ボッシュも応戦しろ!ここを踏ん張り切れなければ全滅するぞ!」
後ろを振り返らずにボッシュの方に向けて拳銃を投げ、俺はあと2人を狙撃して倒してから正面に向きなおった。
射撃位置を正面に戻すとき、最後部の木々に隠れていた敵兵が突進してきたのが見えたが、奴らがここに到達するにはまだ30秒以上はかかるはず。それまでに正面からの突撃を食い止めなければならない。
先ずは手榴弾を投擲して敵の出鼻を挫くつもりだったが、効果はあったものの、圧倒的に数が違う。
倒したはずの敵の後ろから、屍を踏みつけながら次々に敵が突進してくる。
おそらく崖の上の攻撃はSEALsを中心とした部隊を、引き付けるために仕掛けられたフェイク。
ヤザの目的は最初から一貫して、このトーチカに絞られていたのだ。
左手を負傷しているモンタナがマガジン交換をしようとして、HK-416を下に落としてしまった。
拾おうとするモンタナに、落とした銃は拾わずに、拳銃で応戦するように指示した。
拾ったところで、彼の負傷した手ではマガジン交換するのに更に時間が掛かる。
ここ10秒が勝負の分かれ道。
その間に、どれだけの銃弾を敵に浴びせる事が出来るかが、俺たちの運命を決める。
SIG-P320なら、この10秒の間に17発撃てる。




