決戦②
崖の下に到着すると、直ぐにブラームが普通科部隊の兵士たちを連れて来た。
負傷兵が居る中で、鮮やかなほど迅速な行動。
負傷していない兵士たちの中には、自分も残って戦うと申し出てくれる者も居たが、俺はそれを断った。
「今回は困難な状況下で、良く戦ってくれた。この成功体験を生かして、今後も優秀な兵士として頑張って欲しい。そしていつの日にかLÉMATに来るようなことがあれば、その時はいつでも厳しい任務を与える」
そう言って肩を叩いてキースたちに兵を預けた。
「スタンレー中尉、SEALsの皆さん。ご協力感謝する」
俺が敬礼をするよりも先に、向こうから先に敬礼された。
“ありがとう……”
心の中で、そう言って俺も敬礼を返す。
「さあブラーム。行くぞ!」
「了解。隊長」
SEALsの援護を受けながら、俺とブラームは走って丘に登りオープントップのトーチカに飛び込んだ。
「やあ軍曹、お待ちしていました」
「やっぱ、ナトーが来なくっちゃ、戦争をしている気がしねえな!」
「兄貴の言う通りだぜ」
「ああ、まったくだ」
「土産だ!」
担いでいたリュックを降ろして、銃弾を渡す。
「さすが軍曹、これは有難いです。なんにしても銃弾は戦場で一番の土産物ですから」
「モンタナ。そう思うなら、もっと大事に使えよ」
「フランソワ、まあそう言うな。機関銃を派手に撃つことで敵の行動が抑え込めるのだ。俺たちはその隙を狙って隠れそびれている敵を潰していけばいいんだ」
「そうそう。相乗効果ってヤツだ」
「じゃっ、頼んだぜ」
フランソワがモンタナの肩をポンと叩いて、射撃位置に着く。
そろそろ、逃げ帰って来る敵の足音が近づいて来た。
なんだかんだ言っても、こいつらは生粋の戦争屋だ。
「軍曹!敵先頭、間もなく正面左30度に現れます」
「よーし、この先頭が右30度を通り過ぎてから一斉射撃を開始する!」
「了解!!」
この左右30度の範囲が、SEALsたちの居る崖の上からは死角になる。
ここを通り過ぎると崖の上から援護が期待できるが、一人一人確実に狙撃するか重機関銃でないと森の木が邪魔をしてナカナカ当てることは難しい。
そして俺たちの方も余り早く撃ち始めると、敵の先頭が止まってしまい、行き場を失った敵が速く散らばり過ぎる。
少しくらい通しても、なるべく流れは堰き止めない程度の方が良い。
しかしどうコントロールしても、敵兵はこの丘を俺たちが占拠しているせいで、丘の周りに溢れてしまう事は避けられない。
「モンタナは左側に敵を回り込ませないように軽機関銃で牽制しろ!しかしタイミングを間違うなよ。早くから撃ち過ぎて、一番肝心な時に弾切れでは困る」
「へい!承知しました」
「ジェイソンとボッシュはフランソワの指示に従って、なるべく同じ集団を短時間で潰せ」
「了解しました!」
「ブラームと俺は敵の狙撃に徹する。敵の狙撃兵や、何か障害がある場合は言え!」
「了解!」
「頼んます!」
そろそろ敵の先頭が右30度に差し掛かる。
「総員撃ち方用意!――っ撃て!」
狭いトーチカの中で一斉に発射音が響き、空薬きょうが飛ぶ。
次々に敵兵が倒れて行き、次第に敵の流れが止まり、渋滞が始まる。
逃げ帰る場所に戻れなくなった敵が、その一番の障害であるこのトーチカに集中攻撃を仕掛けてくる。
「RPG!!」
ジェイソンがRPBの発射を確認して大声を上げる。
皆一斉にトーチカの中に身を隠す中、左にバックドラフトを確認した俺は、RPGの射手を狙撃して一足遅れてトーチカに潜った。
RPGの初速は秒速115m。
発射して10mの距離で固体ロケットに点火し、秒速295mまで加速して行くから、敵との距離が300m以上あるここでは2秒ほど時間の猶予がある。
わりと近い所で爆発音が聞こえ、大量の砂の雨に襲われる。
「モンタナ!銃は大丈夫か!?」
「銃は大丈夫ですが、弾に砂が掛かってしまいました!」
「よし。全員フルオートで敵の突進を阻止!モンタナは早く砂を落とせ!」
軽機関銃は短時間に大量の銃弾を発射できる利点はあるが、銃弾がマガジンに収納されていないので砂や土が掛かった状態で撃つとトラブルの原因になりかねない。
射撃中にトラブルと、どんなに落ち着いている兵士でも、その場で直そうとする。
そうなれば、敵の格好の的になる。
だから、モンタナには安全な場所で確りメンテナンスさせてから撃つように命じ、その分俺たちの銃でカバーすることにした。
「ちきしょう、200じゃなかったのかよ!」
「前線基地の野郎共、全然数を減らしていねえじゃないか!」
ジェイソンとボッシュが文句を言いながら射撃している。
確かに、殆ど減ってはいない。
しかしそれも最初から分かっていたこと。
戦車が動員できる前線基地の戦力は、歩兵のみのザリバンにとっては相当な脅威なのだ。
だから奴らは退却を始め、前線基地に近い入り口は防御のために早々に閉められ、トーチカで守られて安全なはずのこの付近にある入り口に殺到したのだ。
安全であるはずのトーチカが我々に占拠され、入り口に向かえなくなってしまった敵は必死でここを落とそうとしていている。
<ザリバン地下壕本部>
前線基地の攻撃から退却して来たヤザが黒覆面の男に向かって怒鳴る。
「馬鹿野郎!トーチカが敵に占拠されているじゃないか!」
「そんなバカな。偵察の報告では確かに偽装状態のままだったと……」
「だから、小隊規模で偵察に出せと言ったんだ! いらんトラップなど仕掛けるから、こんなことになる」
「トラップ……しかし爆発音は誰も聞いていないが、奴らはどうやってトラップを解除したんだ??」
「グリムリーパーだ!」
「グリムリーパー……伝説の狙撃兵。でも、そいつはザリバンの味方じゃなかったのか?」
「昔はな。でも今じゃ奴は敵だ。あの不時着した輸送機を守り抜いたのも奴で、その奴ならお前が考えた胡散臭い仕掛けなど簡単に見破ってしまう」
ヤザはRPGを手に取り、その場から出て行こうとする。
「どこへ行くつもりだ」
「とりあえず戦車を1両片付ける。トーチカの方に回り込まれると厄介だ」




