決戦①
崖の下ではブラームたちがトーチカを囲もうとする敵に対し、横から回り込んでダメージを与える事でモンタナたちトーチカ組を支え、逆にモンタナたちもブラームたちが行動しやすいように援護射撃をして相乗効果を高めて、少ない人数にもかかわらず多くの敵の動きを封じ込めていた。
しかし崖の上に続く抜け道を抑えるキースたちの方は、かなり苦戦を強いられていたのでSEALsに支援を頼むことにした。
「スタンレー中尉、頼みがある。一時的でいいから、抜け道をこちらで占拠して貰えないだろうか」
「それは?」
「前線基地部隊の右翼を攻撃するために出撃した敵部隊は、間もなく蹴散らされて又ここに戻ってくるはず。その時は狭くなっている崖の下に大勢の兵があふれてしまう」
「じゃあ撤退させるのですね」
「ああ、普通科の兵士だけは撤退させたい」
「じゃあLÉMATの守るトーチカは?」
「あそこを手放してしまうと崖の上からでは大きな死角が出来て敵の撤退を阻む事が出来なくなるし、この崖の上も直接狙われてしまうから放棄は出来ない」
「四方八方から囲まれます。危険過ぎます。撤退してください」
「ありがとう。しかしSEALsがどんな困難な任務でも必ずやり遂げるように、そこを守り抜くのが我々LÉMATのプライドだと思ってくれ」
スタンレー中尉は、もう止めずに只分かりましたとだけ言うと、部下に敵を蹴散らす指示だけを出した。
「僕たちも行きます!」
キースとハバロフ、それに衛生兵のメントスが、俺と一緒に崖の下に行くことを申し出てくれたので承諾した。
ただし、3人には下に行って普通科の兵士の引き上げを手伝う所までだと伝える。
当然一緒にトーチカに入って戦うと申し出てくれたのは分かっている。
だが普通科部隊の撤収を迅速に行わなくてはSEALsにも戦傷者が出る可能性もあるし、まだLÉMATに来て日の浅い若い3人を死なせるわけにはいかないので、普通科撤退のサポート任務に専念するように命令した。
もう第二のミヤンは出したくない。
ブラームにレシーバーで退避するように指示した。
『OK!普通科の連中も良く頑張ってくれましたが、彼等はここまで。と、言う事ですね』
さすがに、よく分かっていやがる。
こっちの意図が丸分かりなのも少し癪に障ったので「お前も上がって良いぞ」と言ってやると「御冗談を……」と返された。
「トーチカに入っている普通科の奴らも拾って来てくれ、なんならモンタナ達にも上がるかどうか聞いてくれ」
『OK!意地でも上がるとは言わないと思いますが、一応聞くだけ聞いてみます』
『軍曹。無線筒抜けですぜ!俺たちが上がれば、敵の行動は自由になる。そうでしょ?だから俺たちは上がりませんぜ!』
モンタナが俺とブラームの無線に割って入って来た。
「死ぬかもしれんが、それでも良いのか?」
『なぁ~に、LÉMATの隊員になった時から、その覚悟はできてまさあ。ところで軍曹、来られるのですか?』
「ああ、そのつもりだが、嫌か?」
無線の向こうで、フランソワたちの歓喜が沸き上がる。
『聞きましたか?戦略の女神アテナが来れば、負けるわけがないとこっちは勇気百倍でさぁ!』
「馬鹿!ハンドマイクだから大丈夫だが、女神とは何なんだ?!」
『いけねぇ!トーニのが移っちまった』
モンタナがそう言うと、フランソワやジェイソンとボッシュの笑い声も聞こえて来た。
これから死ぬかもしれないと言うのに、俺が来る事を喜んでくれる。
“こいつらを死なせてなるものか!”
俺の中で、その決意の火が燃え上がった。
「では、行きます」
「ああ」
スタンレー中尉が攻撃の号令を上げると一斉にグレネード弾が発射され、そのあとは軽機関銃を中心とする援護射撃と手榴弾の投擲が始まり、その爆発と同時に部隊が飛び出す。
その中に俺とハバロフ、キースにメントスも続く。
崖の下では、ブラームがトーチカのある丘の上まで登り普通科の兵士を受け取り、素早く丘を下って抜け道の方へ急いだ。
SEALsの突撃は素早い行動と、走りながらでの正確な射撃、そして目まぐるしく突撃と援護を交代して進む鮮やかさがあった。
敵は走ってくるアメリカ兵に狙いを定めても、撃とうとした瞬間には遮蔽物に隠れてしまい、タイミングをずらして違う兵士が襲って来る。
狙いが定まらい間に距離は見る見るうちに狭められ、戦うべきか退くべきなのか迷いながら射撃してしまい照準が定まらくなる。
SEALsは、そうやって前進を止めないことによって、敵の反撃の威力を削ぎ落して、次々に倒して行く。
勿論俺たちも、その様な訓練は常日頃からしてはいるが、全員の射撃精度が違う。
我々LÉMATの中で、こいつらと同じ様に戦えるのはハンスとブラーム、そしてモンタナとフランソワなど数名しかいないだろう。
俺は彼らのチームではないので、援護のサポートをあえて受けない。
この様な戦法は、ペアと呼吸が合っていないと旨く行かない。
だから自分1人で突撃と、狙撃を交互に繰り返しながら付いて行く。
抜け道の坂を下りきった所で、もう敵は塵尻になり、一時的な拠点の確保は出来た。
「噂には聞いていましたが、さすがですね軍曹」
「噂?」
「ええ。LÉMATに、かつて中東地域の多国籍軍を震撼させた伝説のスナイパー“GurimReaper”を凌ぐ射撃の名手が居ると聞いていましたが本当だったんですね。スタンディングは勿論、ランでもメッチャ正確な射撃で驚きました」
スタンレー中尉に言われて、忘れかけていた事を思い出してしまう。
そう、俺はハンスのお兄さんを殺してしまったグリムリーパー。
半ば死ぬつもりで、ここに来たと言うのに幾つも有ったそのチャンスを逃してしまい、まだこうして生きている。




