前哨戦④
8時50分。
「軍曹!カナダ軍から無電。西の崖から現れた敵、約100と交戦中とのことです」
ついに来た。
兵力差4倍近い敵だが、地形的には断然有利な場所だから阻止できるはず。
しかも地形を知っているゴードンとジムも居る。
もう直ぐここも激しい戦闘が起きるが、今は圧倒的に人員が足りない。
だが、あの場所をカナダ軍が抑えてくれている限り、囲まれることは無い。
もしも人員確保のために彼等をここに呼び寄せていたら、東側の正面の敵本体と西から来る100人の敵に挟まれていた事だろう。
「こっちも来るぞ!SEALsは、あと何分で到着する!?」
「あと15分後だそうです!」
「モンタナ、ブラーム、15分粘れ!」
レシーバで崖の下の二人を鼓舞する。
『了解!』
「軍曹!敵、出てきました!」
「キース!5名連れて抜け道を守れ!誰も通すな! 他の者はグレネードの準備!なるべく密集しているところを狙っておけ。攻撃は引き付けてから、俺のバレット射撃迄待て」
指示を出した後、俺はバレット M82のスコープを覗く。隣にはHK416を置く。
敵兵が3人縦に並んだ瞬間を狙いトリガーを引くとズドンと重い音が響き、一気に3人が倒れた。
続いて崖の上から一斉にグレネード弾が発射される。
直ぐに寝転んだ体を右に回転させHK416に持ち替えて、敵兵の脳天目掛けて弾を打ち込んでいく。
この距離ならHK416の方が射撃間隔を短く取れて使いやすい。
いちいち敵兵の生死など確認しないで、次々に照準を定めては撃っていく。
日ごろ鍛えた自分の腕を信用するしかない。
「軍曹!ジェイソンさんから、敵の重機関銃発見とのことです」
まだ音はしていないと言う事は、俺たちが占拠したトーチカに設置するために運んで来たところなのだろう。
あれを撃たれたら、応戦できなくなる。
ハバロフにレシーバーを耳に当ててもらい、ジェイソンと話しながら狙撃を続ける。
「北を0時として7時30分の方角でトーチカから300だな。何とかやってみるから、着弾観測の指示を出せ。ハバロフ!グレネード付きのM16を寄こせ!」
トーチカの正面は、その丘の高さのせいで崖からは死角になる。
だから指示された位置に向けてグレネード弾を発射して着弾までの間、左右に見える敵の狙撃を続ける。
「右に15、手前に10です!」
ジェイソンからの情報を修正し、次弾を発射してまた狙撃を続けた。
「敵が吹っ飛びました!」
「銃は?」
「重機関銃は台座ごと倒れています」
「着弾地点と、銃の位置関係を教えろ! 銃を壊さなければ、誰かが起こして又使う」
「左に2、奥に1です」
今度は続けざまに3発のグレネード弾を発射して、銃をHK416に戻し狙撃を続けた。
少ししてジェイソンから重機関銃に直撃弾があり、パーツが散乱しているとの報告が有った。
「キース!状況は!?」
『2人負傷!手ごわいです!』
「ひとりで抱えるな!4人応援に出す。メントス手当を頼む」
広い崖の上には俺とハバロフの2人になった。
崖の下からRPGのバックドラフトの明りが見えたので、体を左に回転させてバレットで発射機ごと敵兵を粉砕した。
「ブラーム、被害は!?」
『銃撃で1人、今のRPGで2人負傷!』
「お前は防戦して、他の者に負傷者を安全な場所に避難させろ」
『了解!』
バレットに持ち替えたところで、木の幹に隠れている敵を狙って撃った。
弾は幹を引き千切るようにして、敵を倒した。
「ジェイソン。状況は!?」
『普通科の1名は肩を打たれ重傷。もう1人はビビっちまいやがって戦力になりません。モンタナが軽機を撃ち続けているおかげで、なんとか俺たちも撃っているけど、軽機の弾が切れたら顔も出せないくらい派手に囲まれていますぜ』
「よし、重点的に囲みを解くように援護する」
『頼んます!』
場所を移動してトーチカを攻撃する敵の主力と、トーチカの延長線上の位置を取った。
そして、ここでは左にHK416、右にバレットを置いた。
理由は、ここから見た場合左側の敵は体を晒しているが、右側の敵は木の幹に隠れているから。
先ずは、数をさばき易い左側の敵から料理することにした。
8人倒したところで、やっと俺の狙撃に気が付いて崖の上を撃ってくるようになったので、今度は体を右に回転させてバレットで右側の敵を料理する。
姿は殆ど木に隠れているが、銃身は見えるので、そこから頭の位置を予想して木の幹ごと倒してゆく。
撃ちながらキースの状況を聞くと、3人負傷したと言っていたので、負傷兵にも武器を持たせて戦わせるように言った。
かなりマズイ状況。
キースが抑えている道を突破されでもしたら直ぐにこの崖の上も取られて、トーチカは四方八方から取り囲まれてしまう。
トーチカの中に入っているモンタナ達は、それでも少しの時間は持ちこたえる事が出来るだろうが、その丘の斜面を遮蔽物にしているブラームたちは丸裸になりあっと言う間に全滅してしまう。
敵を撃ちながら、もう片方の目で敵兵の流れを注意深く観察していた。
最初トーチカの周辺に群がっていた敵兵だが、その殆どは東に移動して前線基地の部隊への攻撃に流れて行き数は減って来た。
つまり補充がない状態だと言う事。
敵を倒せば、その分だけ数が減って楽になる。
この状況は、おそらくキースの守る抜け道も同じ状況だろう。
積極的にトーチカ周辺の敵を狙撃していたせいで、その囲みの殆どが解け、モンタナの軽機関銃も静かになった。
「軍曹、SEALs到着します」
有難い。
これで、作戦の第二段階に入る事が出来る。




