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フルメタル  作者: 湖灯
死闘‼ザリバン高原!
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敵の中枢へ②

 俺たちはブラームとキースを先頭にして森の中を進んでいた。

 輸送機を出発してから、もう直ぐ3時間が経とうとしていたところで、ようやく死の匂いが感じられるようになった。

 特に死を追い求めている訳ではないが、死の匂いがあるということは、そこ戦闘があったということ。

“敵が近い”

 はじめはザリバンの兵士、それからアメリカ兵の死体。

 ここに来るまでの間、銃声は聞こえなかった。

 もう戦闘が終わって生きているものがいないのか、それとも生き残ったアメリカ兵が救助を待っているのか、あるいはザリバンが俺たちの来るのを物陰に隠れて待ち伏せているのかも知れない。

 残された死体の、ひとつひとつをチェックする。

 それがアメリカ兵の場合は首からぶら下げた認識票も取っておいて、まだ息が有るか、死後どのくらい経つか確認した。

 殆どの死体が既に血も乾き、体温も失っていた。

 死後硬直も、早い者では既に全身が硬直しているものもいて、遅い者でも既に上半身の硬直が始まっていた。

 死後硬直の始まる時間は、この時期だと死後3時間から首を起点に上半身より下に順番に下がって行く。

 全身が硬直しているものは戦闘初期に死亡した者で、最後に戦死した者でも3時間ほど前。

 ハバロフの言った19時40分にアメリカ軍部隊の無線が途絶えた事と照らし合わせれば、つじつまが合う。

 しかし、問題が二つある。

 アメリカ軍部隊は全滅してしまったのかと言う事と、敵は何処に行ったのかということ。

 敵が引き返したとしたならば森のどこかで敵に遭遇してもおかしくはないし、違うルートですれ違ったとしても、あの輸送機の周辺に戻るなら味方に見つかる可能性だって考えられる。

「ハバロフ、カナダ軍から何か連絡は?」

「出発して30分後に輸送機の味方に合流した旨、連絡があっただけです」

 ということは、まだ敵がそこに辿り着いていないのかも知れない。

 地図を開いてズット見ていた。

 なにか重大な事を見落としている気がしてならなった。

 そして、ふとある事が気になり、直ぐに無線でモンタナに森を偵察するように命令した。

 周囲を探っていたフランソワたち3人が戻って来て、敵の居る様子がない事を伝えてきた。

「死体の認識票を無線で本体に知らせる、通信はモールス信号を使え。そして撃ち終わる前に俺に代れ」

「了解」

 ハバロフが全ての認識番号を打ち終わったあと、俺がモールス信号を打った。

「なんて打ったんですか? 暗号ですか?」

 隣でその信号を聞いていたハバロフが俺に聞いてきたので和文で打ったと答えた。

「アメリカ軍は和文も使えるんですか?」と聞かれたので、分からなければ本国へ問い合わせるだろうと答えて、小休止を取る事にした。

 23時00分。

 小休止の間、俺はズット地図を見ていた。

 暗い夜の山道では、たった数メートル離れているだけで気が付かない事もある。

 特に森にガレ場が混ざり、高低差の大きいここの地形では、なおさら。

 しかも、相手はヤザ。

 死と隣り合わせの世界で、生きていくために必要な“悪”と、幼かった俺に戦う本能を叩き込んだ男。

 そしてその戦場で、もう15年も最前線で戦い、生き残っている男。

 重要なことを見逃しているはず。

 その鍵は屹度モンタナが見つけてくれる。

「軍曹、モンタナ伍長から連絡が入りました」

「よし、替われ」

 無線機を取ると、モンタナの大きく陽気な声が耳に響く。

「やあ軍曹元気ですか!? もう敵はもうやっつけちまったんですか?」

「いや、遭遇していない。それより捜索の結果は?」

「あっハイ。捜索中に軍曹たちがジェリーたちを助けた崖の上に潜んでいた敵兵を森で捕まえました」

「森で? 直ぐ傍の森か?」

「そうです。おおかた帰って来ない味方を心配してノコノコ出てきたんじゃないかと思いますが、それとも腹が減ってお家に帰ろうとしていたかどちらがでさあ」

「闘ったのか?」

「いや、全然。どうやら腹ペコで戦意喪失していたみたいで、俺たちと出くわした途端直ぐに銃を捨てて降伏しました。何を言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、俺たちがレーションを喰っているのを物欲しそうに見ているんで腹は減っているのは確かでさあ」

「捕虜と変われ」

「了解」

 無線機の向こうから“俺たちのボスに正直に話をしたら飯を喰わせてやる”と言うモンタナの声が聞こえたあと、マイクを手に取る音がした。

「إلى أين أنت ذاهب؟ 」(どこへ行くつもりだった?)

『مكان صديق』(仲間のところ)

「ZARIBANهل هو؟من هو صاحبك؟.」(ザリバンの仲間か?)

『نعم』(はい)

「أين هذا المكان؟」(その場所は、どこだ)

『لا أستطيع أن أقول لأني أقسم بالله』(神に誓って、それは言えない)

「في مكان ما!」(それは、どこだ!)

『لا أستطيع أن أقول』(言えない)

「هل يوجد الكثير من الاصدقاء أنا أفهم」(わかった。……仲間は沢山居るのか)

『هناك الكثير』(沢山います)

「أكل الأرز والراحة ببطء فهم」(分かった。ご飯を食べてゆっくり休め)

『شكرا لك』(ありがとう)

「هل أبناء الله طيبون؟」(神の子は優しくしてくれるか?)

『نعم. إنه لطيف جدا.』(はい、とても優しいです)

「أيهما أفضل ، "يازا"؟」(ヤザと、どっちが優しい?)

『"يازا" أمر مخيف』(ヤザは怖い)

 そう言って、捕虜の男は笑った。

 再びモンタナに代って、彼らに飯を喰わせるように言った。

 神に誓っている以上、彼らは仲間の居場所は教えない。

 だけど、彼等の居場所には“神の子”、つまりザリバンの総帥『アサム・シン・レウエル』が居ることは確かなようだ。

 すると、やはりここにザリバンの本拠地があるのか。

 地図上に並ぶ、1号機と俺たちの2号機が墜落した場所、それと到着するはずだった前線基地にするはずの高地。

 それらを結ぶと、1号機の墜落現場を一番西にして、東へ向かう一本の線になる。

 東に向かうと、川があり、その先には小さな村がある。

 ジェリーたちの小隊は、その手前にある1号機の墜落現場に向かおうとしていた。

 おそらく今夜到着したカナダ軍も。

 ヤザが俺たちの乗った輸送機を攻撃したポイントは、その村と墜落現場との中間点。

 だが、この作戦の情報は予め漏れていて、敵は再三タクルガルの戦いを仕掛けてきている。

 屹度、何か隠されている事実が有るはずだ。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
 ナトーちゃんのイラスト見ると、おっぱいとお尻オバケ。笑笑  砂時計みたいな体型で、なにゆえここまで胸とお尻を巨大にするのだろう、と不思議でした。笑  地形や敵の動き方とかナトーちゃんの行動とか、凄く…
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