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フルメタル  作者: 湖灯
死闘‼ザリバン高原!
192/700

トムとジュエリーの救出①

 17時00分。

 ジェリー伍長と通信兵のトム1等兵を助けに行くために、用意を始めた。

 先ずは折りたたみ式の担架、それに銃弾……。

「リュック2つに可能な限り多くの銃弾を詰めろ。あとレーション3箱に水筒は2つ。暗視装置も忘れるな」

「リュック2つも?」

 驚いてゴードンが聞き返した。

「ああ、前後ろに担ぐ」

「でも、そんなに銃弾を持ったら、重くて動きにくくなりますよ」

「分かっている。だが戦場で銃弾が切れたら命の糸も切れてしまう」

「……分かりました」

 ゴードンが納得していないのに返事を返したのは、良く分かった。

 なにせ銃弾を2個のリュックに詰め込んだことで、弾帯などを含めた装備品の重量は、ゆうに100㎏を超えている。

 言ってみれば、ふた昔前の空挺部隊が重い落下傘を担いだまま戦場を歩き回るようなもの。

 万が一、森の中で白兵戦にでもなれば、イチコロだ。

 あと、この輸送機を捨てることになった際に、敵に利用されないように自爆装置を拵えたので少尉にそれを伝えた。

 本当なら軍曹に伝えたかったけれど、負傷しているので仕方がない。

 少尉ともう1人の兵に、ヤクトシェリダンに仕掛けた装置の起動と時間のセット方法を教えた。

 起爆装置にはトランシーバーを使っているので、もしもセットする余裕のない場合は、対になるトランシーバーでの爆破も出来るようにしてあることと、その方法も教えておいた。

「凄いですね軍曹。こんなこと知りませんでした。どこで習ったんですか?」

 まさか反政府テロ組織に居たときに覚えたなんて答えられるはずもないので「戦場に長く身を置くと自然に覚える機会に出くわすだろう」と答えておいた。

 質問をしてきた兵は俺の話をよく聞いたが、相変わらず少尉の方は聞く気は全くないような感じだった。

 まあ気に入らないのは仕方がないが、兵たちが可哀そうに思えた。

 もともと彼らの目的は、1号機の墜落現場に行くことが第1の目的ではなかったはず。

 俺たちの救出が迅速に行われるようにするためと、それが終わった後は、おそらく付近の哨戒活動。

 そして、他の部隊到着の後に協力して1号機の墜落現場に行くというのが、最初与えられた任務であったろう。

 それを、この少尉は抜け駆け的に、哨戒活動中に何らかの理由。おそらく敵部隊と出くわして、交戦中に逃げる敵を追っていて1号機の墜落現場まで辿り着くシナリオを考えていたのだろう。

 運よく敵に出くわすことは出来たが、蹴散らすはずが、逆に蹴散らされてしまったわけだ。

 しかし、腑に落ちないことが有る。

 それは、どうして通信兵のトムが、仲間に取り残されるほど前に出ていたのかということ。

 ベトナム戦争の教訓で、通信兵は真っ先に狙われることは分かっている。

 だから分隊の真ん中からやや後方の、比較的安全な位置に居るのが普通。

 この配置を守っていたのなら、先に森を出た兵たちが敵を発見するはずだし、発見していなくても敵の方が焦って先に撃ってくるはず。

 反動の強いAK47で銃撃戦を行う場合、彼らにとって距離はハンデとなる。

 遠距離での打ち合いでは、M16系やHK416を持つ方が射撃精度は高く有利になる。

 だから彼らは身を隠せる限り、相手との距離を詰めておきたいはずなのだ。

「……」

 出発する間際に、もう1つの銃に手を伸ばした。

 手にしたのはバレットM82。

 それに12.7mmを1マガジン10発と弾丸を更に10発持つ。

 それを見たジムが「俺が持ちます」と手を差し伸べてくれた。

 M82は銃単体で13㎏もあるから、さすがに女性に持たせるのはマズイと思ったのだろう。

 だけど、ここは戦場。

 俺だって動けなくなるほど、欲張りはしないので断った。

 M82を背負い、手にはHK416を持ち、指を2本立てて2人に合図する。

「さあ、出発だ!」

 俺たちは20メートル間隔で、後部ハッチから出て森の中へ入った。

挿絵(By みてみん)

 森の中へ入ってからは、俺とジムの2人が前を警戒しながら歩き、ゴードンは援護のため少し離れて着いてこさせた。

 少しの物音も逃がさないように、少しの物音もさせないように用心深くゆっくりと進む。

 聞こえるのは、まだ遠い銃声と、鳥の囀り。

 捕虜にした敵の居た窪地に到着した。

 ゴードンが担いでいるリュックを1つを下ろさせて、そこに埋めた。

「持っていくんじゃなかったんですか?」

「いいや、デポ(補給所)だ」

 それぞれのリュックを森の3か所に分けて埋め、森の端まで来ると、低い木立の向こう側に少尉たちの部隊が進んだ山の急斜面を削って造られた道路が見えた。

 敵に見つからないように茂みの陰から双眼鏡で探ると、道路下の崖から谷に向かって伸びるガレ場の渓谷を7人のザリバン兵が降りて行くのが見えた。

 道の上にも10人居て、その上にある崖にも数人居る。

 この少尉たちと同じように道を進むと、敵からは丸見えで、隠れる場所もない。

 ゴードンとジム、順番に双眼鏡を渡し敵の位置を説明するとともに、見逃している敵が居ないか確認させた。

 どうやら、確認できた場所以外、他に敵はいないようだ。

 ゴードンとジムのリュックをここで下ろして身軽にさせた。

 ゴードンに左側の尾根に登って、安全なルートがないか偵察に行かせることにした。

 ジムにはゴードンの援護として、10m間隔を開けて着いて行かせる。

 その間俺はジェリーたちを捜索して見る事と、狙撃で敵の人数を割くことを伝え、2人を送り出したあと直ぐにM82の準備を始めた。

 谷にまだ発砲音がしないということは、ジェリー伍長たちはまだ見つかってはいないということ。

 どこかの茂みに身を隠しているのだろう。

 スコープを覗いて注意深く探る。

 ……見つけた。

 ジェリーは、意図的にここから見えやすい位置に身を隠していた。

 危険を承知で、仲間が助けに来ると信じて見えやすいようにしている。

 トムはその奥に居るようだが、木の枝で覆っているのだろう、ここからは確認できない。

 ただジェリーの首が何度も茂みの奥に向くので、そこに居ることだけは確かなようだ。

 しかし、もう敵は発見できる位置まで近づいてきている。

 おそらくジェリーも、敵を確認しているはず。

 確認していながら敵を撃たないのは、見逃してしまうという僅かな可能性に賭けているのだろう。

 だとすればトムの方は戦える状態ではなく、且つジェリー伍長自体もどこかに怪我をしている可能性が考えられる。

 ジェリーの直ぐ横を敵が通り過ぎる。

 気が付かない。

 その後ろからも、もう1人。

 もしも通り過ぎた前の奴が後ろを振り向けば、必ずジェリーは見つかってしまう。

 そして都合の悪いことに、身を潜めているジェリーが前の男を撃つためには姿勢を90度以上変えなければならず、そうすると当然隠れている茂みから音が立つ。

 挟まれた状態だから、前の敵を撃てば後ろの敵に撃たれるし、逆に後ろの敵を撃てば前の敵に撃たれる。

 そろそろ、こちらも限界だ。

 ターゲットを前の奴に絞り、スコープを調整する。

 撃ち損じた場合の猶予は殆どないけれど、M82なら500mで打ち損じることは先ず無い。

“ズドンッ!”

 1発目を発射して直ぐに照準を後ろの敵に合わせ、先に撃った男に弾が届く前に、後ろの奴の予想される行動位置に向けて次弾を放つ。

 俺の思惑通り、前を進む仲間が倒れたのを見て、後ろの奴はその場に身を屈めた。

 500mだと、音が届くまで1秒半ほど掛かる。

 俺は1秒間に2発撃ったから彼も1人目と同じように、銃声を聞くことなく死んだ。

 ジェリーたちに最も近づいていた2人を射殺した後は、一旦道路に出ている敵兵を射殺していった。

 谷にはまだ5人の敵が降りているが、これに固着すると、相手にこちらの意図を伝えることになるから上の奴らを優先して射殺していく。

 谷の下の奴らは殆ど隠れる事は出来ないのだから、ジェリーに近付かない限りは生かせておいてやる。

 と言っても、ただ数分長生きが出来るだけなのだが……。

挿絵(By みてみん)

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