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フルメタル  作者: 湖灯
死闘‼ザリバン高原!
191/700

新米少尉の救助部隊②

 その他の味方は、まだ来ない。

 敵が少しずつ押されてこちらに戻ってきているので、もうこの一帯にヘリを寄こすことはしばらくないだろう。

 俺たち3人では、この輸送機を守ることは出来ない。

「ジム。キャビンの中央にヤクトシェリダンを入れてくれ」

「了解! でも、なんで?」

「ビックリ箱を作る」

「?」

 ゴードンにレーション(携帯食料)の在庫確認を頼み、確認したものは一箇所にまとめておくように指示した後、ジムに武器・弾薬の在庫確認を指示し、俺はヤクトシェリダンに乗り込みチョッとした細工を施した。

 派手に撃ちまくったため、重機関銃と軽機関銃の弾丸は僅かしかないが、小銃弾はまだ沢山あった。

 それに手榴弾も。

 その手榴弾を使って、各入り口付近にトラップを仕掛けておいた。

 そして2人をコクピットに呼ぶ。

「これから、どうする?」

 2人が聞いてくる。

「とりあえず、寝よう」

「寝る?」

「ああ、まだ先は長そうだ」

 そう言って、横になった。

 銃声は、まだ遠い。

 どのみち、さっきの少尉も直に戻ってくるだろう。

 そして、ここはまた戦場に戻る。

 いつまでも神経を尖らせていては、本当に必要な時に必要な行動はとれない。

 だから、休めるときに休む。

 1時間ほど過ぎたころ、割と近い距離から銃声が聞こえた。

 さっきの少尉たちが向かった方向から、直線距離にして約1,5キロと言ったところか。

 銃声の特徴としては、かなり速いスピードでこっちに向かって来ている。

 おそらく敵の部隊と鉢合わせして、慌てて逃げかえって来ているのだろう。

「ジム、すまないがトラップを外して正面のシェリダンⅡの重機関銃に弾を補充して待っていてくれ」

「ゴードンは軽機関銃を持って俺と散歩に行く」

「了解!」

 なんだか2人とも、少し楽しそうに見えた。

 この輸送機に帰って来るにしても、本来ならギリギリまで森を進み一旦奥の岩場に迂回して来るのが妥当なルートだろうけど、聞こえてくる銃声からするとかなり慌てている。

 屹度、無茶にこの正面の草原を突っ切って来るはず。

 そうなると輸送機からの射撃は遠すぎて、彼らをただの十字砲火の真ん中に置くだけのことになり、威力の強い重機関銃以外ほとんど意味をなさない。

 狙撃以外で有効な射撃は、大体草原の真ん中付近まで。

 それを突っ切ろうとして逃げる彼らは、敵にしてみれば格好の的だ。


 ゴードンと俺は、敵の作ってくれた遮蔽物を逆向きに利用して、2丁の軽機関銃を構える。

 おそらく軽機関銃用の銃弾は、この援護射撃で使い切ってしまう。

 だから、背中にはHK416も担いできている。

 しばらく待っていると、あの捕虜の居た見通しのいい場所から、真っ先に少尉が飛び出してきた。

 それに続いて、真ん中に足を負傷した兵士を挟んで抱えるようにして走る2人の兵士。

 続いて、後ろを気にしながら銃を構えて2人。

 その2人と、ポジションを入れ替えるように出て来た2名。

 そして、銃を撃ちながら出て来た1人……こいつは負傷している。

 負傷しながらも、待っていた2人に走るように指示を出す。

「さあ、そろそろ来るぞ!」

 ゴードンに、そう声を掛けたとき、ちょうど少尉がその傍を通った。

「おかえりなさい。急いでどちらへ?」

 ゴードンが通り過ぎる少尉にそう声をかけ、俺の方を振り返って笑った。

 続いて負傷兵を抱えたグループが通り過ぎようとしたので、「ここに伏せておけ!」と声を掛ける。

 一瞬担いでいた2人が戸惑った顔を見せたので「好い的になってしまうぞ、輸送機にはあとで俺が連れて行ってやる」と言うと、素直に伏せた。

 負傷しながら銃を撃っていた1人が、もう一発喰らい、それを助けようとした者も倒れた。

 もう1名は、その場で伏せて応戦していた。

 2人が倒れたのは、遮蔽物のない場所だったので、俺の近くに居た海兵隊員に「敵が出てきたら、俺の代わりにこれで応戦しろ」と言って倒れた2人に向かって走って行った。

 先ず応戦している奴のケツを叩き協力を求めて、負傷した2人のベルトを掴んで銃弾の陰になる場所まで運んだ。

 俺の周りには3人の負傷者を含めた8人の兵士が集まり、そして敵が出て来た。

 2丁のM249軽機関銃が火を噴き、飛び出してきた敵を一網打尽にした。

 残りの敵は木の幹などに身を隠して、応戦して来る。

 しかしそれも輸送機からジムの撃つM2重機関銃の12.7mmが、木の幹ごと敵を薙ぎ倒した。

 ジムに射撃の中止を合図して、ゴードンとアイコンタクトを取り、銃声の納まった森に向かって2人で突撃した。

 戦意を失いかけている敵に追い打ちをかけることで、戦意を更に削ぐのが目的。

 追いながら何度も威嚇射撃をして、蹴散らした。

 これで当分、戻っては来ないはずだ。


 森を出て、3人の負傷兵をゴードンと他の者で急いで輸送機に運ばせて、俺だけはその搬送が終わるまでさっきまで応戦していた位置に残って警戒にあたっていた。

 敵が戻ってこないようにゴードンと追い打ちをかけたが、確実に戻らないという保証はない。

 もしかしたら森の中から狙撃しようと、息を潜めて狙っているかも知れない。

 だから赤外線感知機能のあるAN/PVS-22暗視スコープ(AN/PVS-14の後継機で架空のスコープ)で森の中を探る。

 鳥は発見したが敵らしきものは見当たらなかったので、伏せたまま安全な距離まで下がり、そこからは森に背中を向けないように用心しながら後ろ向きに輸送機まで戻った。

「お疲れ様」

 前部の扉から登ろうとしたときにジムが手を差し伸べてくれ、その行為に甘えて手を取ると軽々と引き上げられた。

 陽が傾き始めたとはいえ、夏の日差しはまだまだ強い。

 それでも、あまり日の差し込まない機内は薄明るい程度だが、この部隊の暗さはただ事ではない。

 負傷兵は横たわったまま。

 他の者も規律なく、ただ床に腰掛けている。

 負傷した兵士の持っている応急処置キットを使って、直ぐに傷の手当てを始めた。

 1人は銃弾で骨をやられていたので木で固定した。

 11人いたはずの部隊だが、輸送機にたどり着いたのは9人。

 そのうち3人が負傷している。

「残りの2人は、どうした?」

「やられた」

 少尉がそう答えたあと、負傷しながらも仲間を援護するために戦い、さっき2発目を喰らった男が「やられてはいない!」と叫んだ。

 肩の階級章から、この男は3等軍曹。

「どういうことだ?」

 軍曹に聞くが彼は悔しそうに歯を食いしばるだけで、その後のことは話さない。

 いや、悔しさで話せないのだ。

 みんなに向かって同じことを聞いた。

 静まりかえった機内で、若い1等兵が喋り出した。

「俺たちが森を抜けて崖沿いを歩いていたとき、いきなり敵と出くわして、まず通信兵のトムが撃たれて崖から落ちた。ジェリー伍長がトムを助けるためロープで崖の下に降りて俺たちは応戦していたけれど、なんの遮蔽物もない所で撃ち合う事になり直にマイクが足を撃たれ、それを助けた軍曹が負傷すると、そのあとは……」

「もういい。済んだことだ。我々は味方が到着するまで、ここを死守する」

 1等兵の言葉を遮るように少尉が言った。

 軍曹が俺の腕を掴んで「ジェリーとトムを助けて欲しい」と小声で言ったので「分かった」と答えた。

「やめろ!俺たちはここを死守すると言ったはずだ。これは命令だ!」

「却下する」

「たかが軍曹の分際で、少尉の俺の命令に背いていいのか!」

 少尉が激しい口調で怒鳴った。

「君が来たとき最初に言った通り、組織が違う。だから君の命令は正式には君の国の上層部を通してもらう必要がある」

「非常事態だ」

「俺を含めた3人は多国籍軍第3特別混成部隊第2中隊の所属。君たちに帰属するかしないかは、この非常事態で中隊長代理を務める俺の判断により決定でき、そして残念ながら俺は少尉の要望を却下する」

 俺がそう答えると、少尉は拳銃を抜いて、それを俺に向け機内に緊張が高まる。

「君たちが逃げたおかげで敵は追うことに夢中になり、崖から落ちた2人はそのままになっている。今もその方向からは銃声が聞こえないということは、まだ生きている可能性は大きい。だがそれも時間の問題だ。敵も直ぐに崖を降りて2人を見つけるだろう」

「そんなこと分かるものか。そう言って貴様たち、逃げるつもりだろう!」

「どこへ?」

 少尉は俺の問いに黙った。

 周囲を敵に囲まれて孤立している状況、基地は遥か彼方。

 救援部隊はこっちに向かってはいるが、そこを目指したとしても、その間には敵の部隊が居る。

 逃げ場などない。

「ここを死守する!」

 威嚇なのか、焦って指が動いてしまったのか、少尉の拳銃がパンと乾いた音を立てた。

 久し振りに機内に広がる火薬の匂い。

「戦場で最も大切な事、それは誰も見捨てないと言うことだ。その信頼無くして、作戦の遂行は不可能。だから俺は君たちに代わってトムとジェリーを助けに行く」

 ゴードンがククッと笑いそうになるのを堪えた。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

CH-53K キングスタリオン

全長:30.2m

高さ:8.46m

主回転翼直径:24.1m

発動機:ゼネラル・エレクトリック T408-GE-400(GE38-1B)(7,500shp(5,600kW)×3

機体重量:33.600t

貨物室:914x262x198cm

速度(巡航):315km/h

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