裏の岩場への攻撃④
「待て!」
行こうとするジムを止めた。
「どうした?」
激しい銃声の中、微かにエンジン音が聞こえたので、それを伝えて耳を澄ます。
しかしエンジンの音は聞こえない。
“気のせいか?”
と、次の瞬間、俺たちの直ぐ近くで激しい爆発があった。
舞い上がる埃と、降り落ちてくる石の破片に身を伏せる。
「チクショウ!もう一発持っていやがったのか!」
ゴンザレスが、そう言ったあとジムが違うと言った。
「こりゃあ120㎜野戦砲だ」
戦車兵などの砲科の奴らは、砲弾の飛翔音で弾の種類を当てると聞いたことが有るが、さすがだと思った。
「野郎!大砲まで持っていやがったか!」
「違う。ヤクトシェリダンの野戦砲だ」
「じゃあ、輸送機が敵の手に――」
ゴンザレスの言葉に、一瞬ジムの表情が曇る。
“まさか、捕虜の男が!?”
一瞬、俺もそう思いそうになったが耳を澄ませると、聞きなれた銃声も交じっていた。
「違う。敵のAK47に交じって味方の軽機関銃の音も交じっている」
ゴンザレスが耳を澄ませて「確かに」と言った。
続いて2発目が来た。
岩に潜り込むように身を伏せたが、着弾音は遥か手前。
今度は敵の居る正面の陣地に着弾し、何人かが爆風で吹っ飛ばされるのが見えた。
“何故、1発目は俺たちを狙ったのか?”
敵か?味方か?判断が付きにくい。
しかし、答えは敵が教えてくれた。
俺たちに背を向けて、発射音がした戦車のほうを撃ちだした。
「見方だ!」
更にもう1発。
今度も敵の居る正面の陣地に着弾して、また爆風で何人か吹っ飛ばされた。
俺たちは、背中を見せる敵を撃った。
まだ見えないヤクトシェリダンからも、M249軽機関銃の5,56mm弾の発射音が聞こえ、再びエンジン音が近づいてきた。
「ジム、銃を替えてくれ。ゴンザレス、マガジンをよこせ」
そう言ってジムにAK47を渡し、HK416を手に取り、ゴンザレスから最後のマガジンを取った。
「軍曹!」
「お前たちは、ここに居ろ!」
そう言って、陣地から飛び出して猛然と敵に向かって走る。
走りながらセレクターを連射に変え、見える敵を撃ちまくる。
正面の岩場に取り付いた時には最後のマガジンも切れて、銃床で敵を殴った後、腰から拳銃を取り出して撃った。
そして、岩場の裏に回り、そこに居た敵も次々に撃ち、制圧した。
「やあ軍曹。ご無事で」
戦車が止まり顔を出したのは負傷兵の3人。
「よくやった!直ぐ向こうの岩場に2人居る。直ぐまわしてくれ」
「OK!」
岩場なので歩く程度のスピードしか出ないが、それでも負傷したゴンザレスを担いで戻るよりも楽だし、何よりも装甲で覆われた車内は安全だ。
ジムが乗るときに、相棒の負傷兵に「お前が撃ったのか?」と聞いていた。
「はい。3発までなら好きに撃っても良いと軍曹に言われていたので」
自慢げに答えると、ジムが「そのうちの1発目は、俺たちの陣地のすぐ近くに着弾したから、危うく死ぬところだったぜ」と言った。
相棒は少し、しょぼんとしたが、ジムは「まあそれ以降はよく修正して見事な砲撃だった。無事に戻ったら正式に俺の相棒になってくれ」と陽気に相棒の背中を叩いて労うと、相棒は「そうさせてもらいます」と元気に言った。
まだ数人ほど残っている敵が銃を撃ってくるが、小銃弾を通すほどヤクトシェリダンの装甲は薄くなく、俺たちは銃弾を跳ね返す音を聞きながら悠々と戦場を後にした。
輸送機に着くと直ぐに負傷したゴンザレスを下ろして、レイの所に向かう。
「救援ヘリは!?」
「連絡したので、もう直ぐ来ます」
「そうか。これで楽が出来るな」
そう言って負傷していないほうの肩を軽くポンと叩いた。
 




