4人の敵①
有効な武器になるのであれば、何でも使う。
敵は少人数の男で、俺は女。
個別に引き込めれば、旨く行きそうだ。
奴らはここに来る前に、2号機の墜落現場を見てきているに違いない。
あの炎の様子からだと、ほぼ絶望的な状況だと言う事は分かるが、航空機事故と言うものは稀に意外な生存者も居たりするもの。
俺は、弱った生存者に成り済まして奴らを片付けようと思い、一旦森の奥に戻りボディーアーマーと上着を脱いでTシャツも脱いだ。
脱いだTシャツに死体の血を擦りつけ、ズボンや靴にも同様のカモフラージュを施す。
もちろん顔や腕にも。
弾倉ベルトと銃を置き、ナイフ2本をブーツに忍ばす。
脱いだTシャツの胸の辺りと裾を破り、それを再び着て、上半身のボディーラインが目立つように短くなった裾を縛る。
Tシャツの破り取った裾を利用して太もも辺りを縛り、杖に良さそうな木の枝を持ち、負傷兵の出来上がり。
離れた場所から、わざと枯葉や木の枝を踏みながら歩いた。
見つかり次第銃を構えられても、逃げて応戦できるように銃を持った死体のそばをゆっくりと注意深くうろついた。
人の歩く音に気が付いて、早速2人が様子を見に来た。
銃を構えている。
「Help, help me(助けて、助けて)」
二人は案の定、俺の姿を見てニヤッと笑い近づいて来た。
「Help, help」
俺は怪我をした、か弱い敵の女性兵士。
怯え切った表情で2人を見て、膝をついて蹲る。
「どうした、ねえちゃん」
1人が直ぐ傍まで来て、舐め回すように俺の周りを1周して、武器が無いことを確認した。
そして正面に回り込み俺の髪を掴み、体を起こそうとする。
ビックリして怖がっている振りをして、体の向きを変え、もう1人の男の死角に入る。
助けてと涙を見せながら男にしがみ付く際に、相手に気付かれないようにAK-47のセレクターレバーをセーフティーに切り替えた。
しがみ付かれた男は、慌てて俺を突き飛ばす。
反動で地面に転がりながら、ブーツに隠していたナイフを取る。
「Help me, don't kill me!!(助けて、殺さないで)」
哀れな女を突き飛ばした男が、もう見張っていた男を振り返って笑う。
しかし、見張りの男は笑わない。
いや、正確には、もう笑う事が出来ない。
目の前にいる男にしがみ付いて突き飛ばされた時、俺はその反動を利用して見張っていた男に向けてナイフを飛ばした。
放ったナイフは、的確に男の心臓を捉えていたから。
見張りの男が殺されたことに気が付いた男が、銃を構えて撃とうとした。
トリガーに指を掛ける。
しかし、それは今、直ぐには引けない。
さっきしがみ付いた時にセレクターレバーをセーフティーに切り替えているから。
そのことをこの男が気付いたかどうかは分からない。
何故なら、銃身を避けるようにして男の懐に飛び込んだ俺が、溝おちから心臓を目掛けてナイフを突き刺していたから。
男の指は、まだセレクターレバーには届いていなかった。
これで残る敵は、あと2人。




