入隊テスト⑤
イヤープロテクターを付けて室内の射撃場でP320とHK-416で50m先の的を撃つ。
全弾命中。
そのあと、野外の射撃場に移動してHK-416を使い100mの的、その次はスコープを付けて300mの的を撃ち、いずれも全弾命中。
その後は離れた疑似市街戦場までジープで移動した。
「ここでゲームのように出てくる的を10分以内に撃ち取り街から脱出する試験をする」
ハンスがゲームの説明を始める。
ルールは、こうだ。
出てくる的は敵ばかりではなく、子供や女性、普通の民間人の的もある。
厄介なのは、その普通の民間人の的が銃や手榴弾を握っている場合も有るってこと。
もちろん武器を持った民間人は敵側の民兵として撃たなければならい。
それから、武器を持った中には味方となる多国籍軍と反乱軍兵士も混ざって居るから、ユニフォームや装備で判断しなければならない。
標的は自分の動きに対して連動して動くモノではなく、予め決められたタイムスケジュールによって動くモノなので、定められたコースを間違えたり想定された以上の時間が掛かってしまえば追えなくなる。
撃ち漏らしや、誤って撃った場合は減点になり、市街地をどのように進むのかコースを説明された。
「いいか?」
「分かった」
「終了の合図は、この街の教会の鐘の音だ」
言い終わるとハンスはスイッチを入れた。
真っ先に出てきたのは私服の民兵のボード。
銃をこちらに向けている絵が2人。
単発で二人の心臓を撃ち抜き、次へ進むと、その先に出てきたのは民間人と警官。
警官は銃に手を掛けてはいないから、スルーする。
前に進むと左手にある建物のドアが開き、女と子供のボードが出て来て右手側に移動する。
それと同時に右手の建物から多国籍の兵士、そして女と子供のボードの最後の列に反政府軍の兵士が出てきたので、反政府軍の兵士だけを撃つ。
なかなか良く出来ている。
通りを少し進むと、壊れた塀の影から5人の民兵が出て来たので、銃を単発からフルオートに素早く切り替えて一気になぎ倒す。
撃ち終わるや否や、今度は反対側の塀から民兵二人に挟まれた男。
男は手を上げているので、オートから単発に切り替えて民兵2人を撃つ。
撃ち終わって直ぐに、手を上げている男の後ろの窓に銃を持つ2人の民兵が現れたので、これを撃つ。
先に進む前に、弾倉を交換しておく。
外した弾倉には、まだ弾が2発残っていたが、この状態で2人以上の敵が現れるとマズい。
弾倉から外してポケットに入れておいた。
そうやって幾つか敵兵のボードを倒して進むと、メイン通りらしい十字路のある広場に出た。
正面奥には高い教会がある。
ルートでは、この十字路を前に進むとあるが、そうすると四方から敵が出てくるはず。
今の所タイムラインから外れていない様なので、出てくるタイミングは直ぐだろう。
ただ、気になるのは正面の教会。
塀の影から少し見ただけでは分からないので、装備してあるスコープで覗いてみると、思った通り狙撃兵が隠れていた。
しかも反政府軍。
そのまま狙撃し、一気に通りを駆け抜けようとすると左前の窓から子供たちに混じった教師らしいボード、そして右前の窓には民兵2人とドアから更に3人の民兵が飛び出してきた。
窓の2人を単発で射貫き、ドアから出て来た3人を連射で片付け、通りを抜けて振り向くと来た方の家の左右から8人の民兵が飛び出してきた。
それも連射で打ち抜くと、背後で小さな音がふたつ。
咄嗟に腰に付けたホルスターからP320を出すと、手前は女性の顔だけで、奥側の男は拳銃を構えていたので撃った。
ここで弾倉を替えるタイミングだが、そのままにして歩き出すと狭い路地の二階の窓が開き子供の顔が飛び出し、そのタイミングでさっきの女のボードが銃を持つ姿に変わったので女の方を撃った。
弾倉交換した後、少し余裕があると思ったときにはポケットに片手を突っ込んで空いた弾倉に弾を詰めながら歩いた。
ひとりの場合、敵の前で弾を打ち切ってしまうことは、死を意味する。
屹度、このゲームを作った人間の思想も俺の考えと同じはず。
いよいよ街の出口に近付いた。
残る弾倉はひとつ。
P320の方も残る弾は2発しかない。
このまま一気に走り抜けて、ミッションを強制終了させるか?
それとも、ここで最後まで戦うか?
戦う場合、残りの弾薬数が気になる。
使い果たせば、疑似的と言えども、俺は死ぬ。
ここまで来たのだから、それなりの評価を下されるのか?
いや、違う。
生きて帰ってこその評価。
ミッションを強制終了させてでも生きてこの街を出るか、戦ってミッションを完了させて街を出るか、二つに一つ。
まだ入隊試験の結果が出ていない以上、戦うしか道はない。
街の出口へと近づくと、直ぐに窓の向こうに人の姿が立った。
ボードは女。
いや、その後ろに銃を構えた男が居る!
単発で、その男の額を打ち抜くと、ドアが開き年老いた老人が出てきた。
片手をポケットに入れ、もう一つの手には煙草。
後ろでガチャリと音がした。
振り向くと、大きな箱の乗った台車が俺に向かって転がって来る。
注意がそっちに向いた途端、前の爺さんがポケットに入れた手を抜く。
その手に握られているのはハンマー。
銃ではないが咄嗟に、そのハンマーを撃った。
すかさず横のドアが開き8人の民兵が一斉に飛び出したので、これをフルオートで撃つ。
近づいて来る台車が気になるが、立て続けに男女2人と、その間に挟まれた子供が出てくる。
3人とも俺に拳銃を向けていた。
俺は2発しか残っていないP320 で男と女を撃ち、子供の額へ向けて弾のキレた銃を投げつけた。
丁度、投げ終わったタイミングで向かってくる台車の影から反政府軍の兵士が飛び出てきて、それに続いて台車の中から本物のAK-47を構えた人形が起き上がる。
俺は台車に向かって走りながら台車の影から出て来た反政府軍の兵士を撃つと、そこで弾が切れ、そのまま銃床で台車の人形を叩き持っていた本物のAK-47を奪う。
その動作とほぼ同時に、家の影から4人の民兵が出て来たのでフルオートを確認して打つ。
撃ち終わると同時に、後ろのドアが開き2人の多国籍軍兵士に挟まれた1人の男が出て来た。
2人の兵士は肩に小銃を掛けていて、2人に挟まれた男はその後ろにいて手は見えない。
反射的に、その男の額に一発お見舞いした。
少しだけ静かな時間が過ぎると、街の教会の鐘が鳴り出した。
俺は街に背を向け出口へと向かう……。
そう見せかけて振り向くと、思った通り、家の屋根の上に2人の民兵が立ったので、これを撃つ。
そして鐘が鳴り終わるのを待って、出口に向かった。