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フルメタル  作者: 湖灯
死闘‼ザリバン高原!
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ハンスの居ない訓練日①

 次の日から、また厳しい訓練が始まった。

 とは言っても、担当将校はハンスではなくてマーベリック少尉だから、思ったより厳しくはない。

 まあ俺も休暇を取っていたが他の者たちも休暇をとる者も多く、モンタナは未だアメリカから戻っていないし負傷明けのブラームも軽いメニュー、トーニは未だ本格的訓練には参加できない状態。

 言ってみれば、ダラダラとした空気が漂っていた。

 次の日はハンスに加え、マーベリック少尉も呼び出しを喰らい、その穴埋めにニルス少尉が訓練を担当した。

 ニルスは技術将校ながら射撃も体力も特殊部隊には相応しい成績を持つが、性格的には技術屋らしく自分の仕事に没頭してしまうタイプで、どう見ても訓練担当には向かない。

 射撃訓練にしても自ら射撃を楽しんでしまい、射撃訓練が射的大会になってしまいダラダラ感が半端では無い。

 LéMAT最強分隊であるはずの第4分隊は“お荷物”になってしまうので、3日目からは俺が率先して皆を引っ張って行くことにした。

 丁度モンタナも帰って来たので、訓練開始1時間前にグラウンドに集合して10キロマラソンのあと5分の休憩を挟んで15分のストレッチ。

 1時間のメニューのうち、ストレッチに使う15分は全員参加としたので、10キロを40分以内で走破しなければ、休憩も取れない。

 そして45分を越えても走破できなかった場合は、次の日は早出して時間内に走り終えることにした。

 初日からモンタナ、フランソワ、ジェイソン、ボッシュの4人が時間オーバー。

 時間内ギリギリに完走したハバロフも、朝食を吐いてしまう無様な有様。

「何がLéMAT最強分隊だ!10キロの世界記録は女子でも29分台なんだぞ!それにプラス10分もオマケしてやっているのに確りしろ!」

「軍曹は10キロ走に転向したら五輪に出られそうだけど、俺たちにはハードルが高すぎるぜ」

 ボッシュがクダラナイことを言ったので「馬鹿野郎!男子の世界記録は26分17秒だ!」と叱ってやった。

 次の日にはフランソワが時間内完走を果たし、4日後には最後に残ったモンタナが時間内完走を果たした。

 週明けの月曜日、待ちに待ったブラームが復帰して、それから戦死したミヤンの代わりに補充兵としてコンゴでバイク輸送に従事してくれたキース1等兵が入隊した。

「ブラーム、もう大丈夫なのか?」

「ああ、土産に貰ったハチミツのおかげで、負傷する前より元気になった」

 キースは体力的には左程問題は無さそうだったが、今まで普通科に居たので格闘技と射撃はマダマダだった。

「さあ、明日からの早朝訓練が楽しみだな」

 モンタナが、キースの肩をポンと叩いた。

 ところが翌朝の10キロ走では、キースはブラームに次いで3番目のタイムを出して結局この日もモンタナが最下位で、最下位脱出を目論んでいたモンタナはかなり精神的に落ち込んでいた。

 訓練が始まる前にマーベリック少尉から、通常装備状態での10キロマラソンを実施する事を告げられた。

 LéMAT全体の10キロマラソン。

 個人及びチーム戦。

 銃とヘルメットは着けないが、防弾ベストに30キロの背のうなどを付けた装備重量は50㎏と、実戦状態に近いもの。

 しかも履いているのは運動靴ではなくて、重いブーツだ。

 スタートの合図とともに、走り出す。

 他の分隊は、脚に自信のある奴がトップを狙い、ポイントを稼ぐ作戦。

 俺たちの第4分隊だけが落後者を出さないように集団で走った。

 ペースは俺とブラームが仕切り、前に出ようとするキースに後ろに下がるように指示した。

 序盤の位置的には半分よりやや後ろ、それが中盤になると少しずつ前の方になり、終盤に近付くと分隊全体で2nd集団を形成するようになる。

 この頃になると最初元気だったキースが遅れ始めるが、皆で後ろに下がらないように囲んで、更に声を掛けて励ましながら走る。

「キースは俺に任せろ! あとは軍曹とブラームで個人優勝を狙ってくれ」

 フランソワの合図で、俺はブラームとトップを狙う走りに切り替える。

「行くぞ、ブラーム!」

「了解、今日は負けませんよ」

「こっちだって、病み上がりに負けてたまるものか! モンタナ、後は頼む!」

「了解!完全優勝と行きましょうか!」

 モンタナは体重が重い分だけ、普通のマラソンは遅いが、荷重が付いたマラソンでも左程ペースは落ちない。

 普通科から上がって来たばかりのキースは、その逆。

 だが皆がサポートしてくれているから大丈夫。

 俺とブラームは、交替でお互いの風よけになりながら、先頭を追った。

 集団でペースを貯め込んでいたエネルギーを解放し、面白いように前を走っている奴らを抜いて行く。

 最後の1人を抜いた時は、もうゴールまで残り500mを切ったところ。

 このまま並走していたのでは、足の長いブラームにゴール前でスパートされる。

 短距離勝負では敵わない。

 久し振りだからとか、俺の作戦で怪我を負ったから花を持たせようなどと甘い考えは俺には無い。

 常に部下に強い自分を見せつけるのが軍曹としての使命。

 だから俺はここからペースを一気に上げた。

 直ぐに差は10m、20mと開いて行き、あっと言う間に50mまで開いた。

“おかしい”

 いつものブラームなら、そろそろ差を詰めてくるはずなのに……。

 差はそのまま開き続けているので、ペースを落としてブラームが追い付くのを待つ。

「どうした?」

「すみません。ペースを上げようとした途端、脚が思う様に前に出なくなってしまって……」

「そういう時には手で走れ!」

 手で走ると言うのは、手をより大きく振って走ると言う事。

 3位の選手も差を縮めて来る。

「軍曹、先に行ってください。このまま俺と一緒に居たんじゃ個人優勝を逃してしまう」

「馬鹿、個人優勝は誰にも渡さん。そして今回もお前は俺に勝てずに2位でゴールするんだ。いいな!」

 ブラームの目が笑うのが見えた。

「さあ、ゴールはもう直ぐだ!」


 結局、僅差だったが俺たちはそのまま1位と2位を守り切ってゴールをした。

 3位は他の分隊の奴に取られたが、4位には最後に猛ダッシュを決めたフランソワが入り、6位以下をモンタナ、ジェイソン、ボッシュ、ハバロフ、キースの順でゴールして、個人優勝とチーム優勝を勝ち取ることに成功した。

 8人全員が10位以内という圧倒的な勝利。

 モンタナがトーニが居なくて良かったと、皆を笑わせた。

 ゴールには、いつの間にかハンスと将軍も来ていて「よくやった」と褒めてもらった。

 やはりハンスに褒めてもらうのは格別に嬉しい。

 順位発表の後、将軍から話が合った。

 内容は、ハンスが正式に大尉に昇進した事と、そのままLéMATの隊長として留まる事。

 それと、これから中隊規模以下の作戦には特別な場合を除いて、ハンスが指揮を執る事が発表され、皆が一斉に喜んで拍手をした。

挿絵(By みてみん)

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