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フルメタル  作者: 湖灯
ウクライナ
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休暇の終わり③

 俺がシャワーを浴びている間に、お土産に買ってきたクワス(ライ麦と麦芽を発酵させたアルコール度数1~2.5%の微炭酸飲料)を冷やしておいてくれて、それにオードブルも作ってくれていた。

 もう一つのお土産のホリールカ(アルコール度数40%のウォッカ)もチャンとバーに飾って置いていてくれている。

 部屋に戻りクワスで乾杯をしたあと、ホリールカを楽しんだ。

 ミヤンの家でお世話になった事やベラルーシの綺麗な風景の話、夜行列車でウクライナに行ったときにKGBの局員につけられたこと、それをまくためにユリアが競争を仕掛けて来たことなど楽しく話していた。

「そうか。ナトちゃんは、ああいう可愛らしい美人が好みなのね」

「別に、そう言うわけではないけど、たしかにユリアは純情で可愛いよ」

「そうよね。あばずれの年増女とはエライ違いよね」

「やっぱり……」

「なにが?」

「空港で会った時から、おかしいと思っていたよ」

「だから何が?」

 意固地になっているエマをほっといて、一人でバーキッチンに向かいカクテルを作る。

 ブランデー、オレンジキュラソー、そしてオレンジジュースをそれぞれ40㎖ずつシェーカーに入れてシェイクして二つのグラスに分けてテーブルに置いた。

 それを見たエマが、驚いた顔をして目を潤ませる。

「ごめんなさい。私ったら……」

「いいんだ」

 エマが涙を拭って俺の隣の席に移り、俺の体を抱く。

 そして熱い、熱いキスをする。

 作ったカクテルはオリンピック。

 カクテル言葉は『待ち焦がれた再会』


 結局その夜はベッドで寄り添いながら、いつまでも旅の話をした。

 ミヤンの家の事や、ユリアの事も包み隠さずに話した。

「いい子ね。そのユリアって言う子」

「うん。まるで年上の妹みたいな人だった」

 まるで眠る事を忘れたように、いつまでも、いつまでも。

 空が白み始めたころに、どちらからともなく抱き合ったまま目を瞑り、そのまま眠りに落ちた。

 触れる肌が暖かく、優しい天使に導かれるような眠り。

 ハイファに抱かれて眠っていたのは5歳くらいまでだと聞いているが、それが本当に5歳くらいだったのかさえ定かではない。

 あまり記憶が無い。

 記憶と言えば、夜に寝ることを怖がる俺に毎夜お話しを聞かせてくれたこと、家族で笑いながら食べた食事のことくらい。

 ハイファが死んだあとは、食事をして笑う事もなく、いちいち寝ることなど怖がっていられない日々を過ごしていた。

 永続的な記憶を得る前にハイファに亡くなられたことで、母親に甘えた記憶が殆どない。

 だからサオリやエマなどの年上の女性の肌に憧れるのだろう。

 でも、一つだけ不思議なことがある。

 それはユリアの事。

 彼女も年上だけど、その感じ方はサオリやエマの時とは違い、好きだけど甘え過ぎてはいけない気がした。

 何となく姉妹のような存在。

 実際に俺には姉も妹もいないから、想像だけだけど。

 ユリアみたいに可愛いお姉さんが居たら、どんなに楽しい事だろう。


 昼過ぎにお互いに目が覚めて、レストランでランチを取って部隊の宿舎に送ってもらった。

「そう言えば、ハンスの大尉昇進の話ってどうなったか知らない?」

 車の中でエマに聞いた。

 いつもなら直ぐに答えてくれるのに、この時は他の車が気になったのか、考え事をしていたのか返事をしてくれない。

「ハンスの昇進ってどうなったか知らない?」

 もう一度聞くと、まるで観念したように「あー、大尉に決まるらしいよ」と答えてくれた。

 ハンスの昇進は嬉しい。

 大尉と言えば中隊長レベルだ。

 コンゴへの派兵が決まった時に、ハンスが派遣部隊の隊長だったなら、あんなに苦労しなくて済んだに違いない。

 ミヤンだって死なずに済んだかも知れない。

 少しのタイミングの差が大きな結果の違いを生む。

 だけど大尉と言う事は、もう小隊規模のLéMATの隊長ではなくなるのだろう。

 結局LéMATは小隊と言う編成形態をとっているが、それ自体で小隊を組むんで一つの作戦に取り掛かったことはまだ一度も無い。

 どの分隊も、LéMAT分隊のみの行動か、もしくは今回のコンゴでの活動のように、普通科などの支援として付いて行くことが多い。

 だから大尉に昇進したハンスがこのままLéMATに留まる理由は無い。

「大尉か、寂しくなるな……」

「……」

 俺の言葉に、またエマが反応してくれない。

 まあいい、独り言なんだから。

挿絵(By みてみん)

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