トラブルと反撃①
ドーンと言う地鳴りのような爆発音が響き衝撃波がコンテナを揺らす。
一斉に慌てて走る足音と騒めく声が静かな夜を喧騒の世界へと変える。
少しだけ開けたドアの隙間から夕焼けのような赤い光が漏れていた。
「敵は!?」
外に居るブラームに声を掛けると、兵士たちの一団が武器庫に向かうものと、それとは逆に遠ざかるものに分かれていると返事が帰って来た。
脱出の合図はブラームがタイミングを見計らって掛ける。
丁度3人の兵士が勢いよくコンテナの前を走って行って直ぐに、その合図が出た。
ハンス達は直ぐ近くに来ているはずだから、脱出する合図の代わりにコンテナの裏側に向けて拾っておいた石を投げた。
「よし、行くぞ!」
俺がドアを開けて飛び出す。
なるべく明かりを見ないように、AK-47を構え、周囲を警戒しながら最後尾を走る。
直ぐにコンテナの脇からハンス達も飛び出してきて合流する。
ハンスは先頭のブラームに付き、ハバロフは列の真ん中、そしてトーニが最後尾の俺の前に付く。
トーニの前には、捕虜として捕らえた2人の看守を連れたヤニス曹長たちが走る。
捕虜の二人は特に、隙を見て逃げようと言う素振りもなく抵抗もせずに、俺たちのペースに合わせて一所懸命に走っていた。
その真面目な態度は、捕虜なのについ好感を持って見てしまう。
おそらく、根は素朴なのだろう。
環境は人を育てる。
彼らに限らず屹度この国の人たちは、この緑の木々が豊かに生い茂る森の続く景色のように、豊かで寛大で素朴な心を持っているのだろうと思う。
その素朴さに付け込んで、一体誰が彼らを悪の道に引き込んでいるのだろう……。
「Acha!」
コンテナを離れ、その先のテントの角を曲がり終えた時、後ろから「待て!」と声を掛けられた。
振り返って銃を構えようとするトーニを「撃つな」と制する。
トーニの顔が“なんで?”と訴える間もなく、コンテナに仕掛けた手榴弾が爆発して、俺たちに制止の声を掛けた男は爆風で飛ばされたドアにより倒された。
コンテナからトラックまでの距離は左程なく、拍子抜けするほど早くトラックに着く。
「キー」
先頭で運転席に飛び乗ったハンスにキーを投げて渡し、皆を荷台に乗車させ、最後にトーニと乗り込んだ。
「Go!Go!Go!」
エンジンがかかるとトラックは勢いよく飛び出して、そのエンジン音に政府軍兵士たちが気付いて発砲を始めるが、直ぐに俺たちは道の曲がり角に差し掛かり地形的な保護を受ける。
角を曲がり終える直前に基地の車両のライトが付き追ってくるのが分かったが、この舗装されていない凸凹だらけの道路では、彼等の旧式のジープやトラックはこのTRM2000には追い付けないだろう。
「キャッホ~ィ、ざまぁ~みろ!」
トーニが立ち上がって喜んだ。
「馬鹿、揺れるから、立ち上がるな!」
俺が、言い終わる前に、後輪が大きな凹みを通り、その拍子に車が跳ねた。
座っていても、お尻が十数センチも浮いてしまうほどの反動。
気が付くいたときには、もうトーニは落ちていた。
「トーニが落ちた!」
ハンスに伝え、まだ動いているトラックから飛び降りて、道に倒れているトーニのもとに走る。
「トーニ、大丈夫か?!」
「めっ、面目ねぇ」
「走れるか?」
「ああ……」
そう言って起き上がろうとするが「痛てっ」と言ったきり、動かない。
ようやくトラックは止まったが、俺たちとの距離は50メートル以上離れた。
そして道の角からは、見る見るうちに明るさが増して来る追手のヘッドライト。
その間に俺と、動けないトーニ。
トーニを助けるためにトラックから1人で飛び降りてしまったのは、完全に俺のミスだ。
ハバロフは無線の係りなので運転席に一番近い荷台の奥側にいるから無理だとしても、せめて隣に座っていたヤニス曹長くらいは摘まみ出した方が良かった。
もっとも、40前のヤニス曹長をまだ動いているトラックから飛び降ろすことで、ケガ人が一人増えてしまう事は簡単に想像ついてしまう。
敵のヘッドライトが近づく。
トーニを担ごうとしたが、丁度この辺りは見通しが良く、隠れる所が無い。
担いで逃げるスピードでは、隠れ得る場所に辿り着く前に見つかってしまうだろう。
助手席からブラームが飛び降りたのを見てハンスに車を出した。
ここでもし、無理に俺たちを助けようとすれば、必ず打ち合いになる。
そうなると双方に犠牲者が出るばかりか、折角脱出に成功したにもかかわらず、車が使い物になら無くなれば部隊に戻る事さえ危うくなる。
ハンスも、それは十分知っているから助手席のブラームを降ろすと、直ぐに車を出した。
体勢を立て直すために、その場を離れたのだ。
ここに留まれば、全滅もあり得る。
例え全滅しなくても、最前線基地に無線で救援を呼び出すことになれば、折角今は落ち着いているムポフィに居る政府軍部隊を再び動揺させることにも成り兼ねない。
もし、この部隊が反政府側につく事態になれば、俺たちはもとより最前線にいる部隊も袋のネズミになってしまう。
道の端にトーニを隠し、俺はいったん離れる。
「すまん。一旦見放すが決して見捨てない。念のため認識票は預かっておく」
そう言って、トーニの首から認識票を取った。
「分かっているよ、ナトーは絶対に仲間を……いや俺を見捨てない。重いがこれも持って行ってくれ。それから、行く前にキスをして言ってくれ」
「すまん。荷物は預かるが、キスは却下する」
そう言って俺は全力で茂みのある方へ駆けて行った。
敵の追手は4台。
1台目のジープと2台目のトラックは、道の脇に隠したトーニに気が付かずに通り過ぎて行ったが、3台目のジープが気付いて止まった。




