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フルメタル  作者: 湖灯
地獄の戦場
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救出作戦①

 ブラームはハバロフを連れて、政府軍の軍服を調達するための、狩りに出かけた。

 ハンスとトーニは武器庫の爆破に必要なものの打ち合わせ。

 俺はリュックを持って、着替えるために少し離れたころに移動した。

 軍服以外に、もしもの時のために持って来ていた、私服のシャツとズボンをリュックから取り出す。

 もしもの時のためと言うのは休暇で市内観光とかがあった場合の事で、この様な事があろうとは全く想定していなかったので、何の変哲もない白いシャツとベージュのチノパン。靴はその時に買えば良いと思い、持って来なかった。

 これをそのまま着たのでは、俺の背丈(176㎝)から言って警戒される恐れがある。

 だからチノパンを股の辺りで切って短くして、シャツの下のボタンは付けずにお腹の上で結び、へそ出しルックにした。

 男は何故か、女性の肌の露出が好きみたいだから。

 準備が出来てトーニに見せると、案の定目をキラキラと輝やかせて、作戦の緊張感など吹っ飛んだ様子。

「おいおい、こりゃあ、たまげた。女装するとは言ったけれど、この姿を見せられた日にゃあ、ナトーの今までの戦士としての面影なんかこれっぽっちも想像できねぇ。まるで閉じていたシェル(貝殻)から飛び出したヴィーナスじゃねぇか!」

 男なんて、そんなものだと高をくくっていたはずの冷静な気持ちに、ポッと火が灯り何だかむず痒い。

 トーニにそう言ってもらいウキウキした気持ちになりハンスを見ると、こっちの方は俺の姿に気も留めていない様子で装備のチェックをしていて、折角高揚しかけた気持ちが萎んでしまった。

 ブラームとハバロフが狩りから帰って来た。

 手足を縛られて、口に猿轡(さるぐつわ)を付けられた太った下着姿の男をブラームが抱え、ハバロフはその太った男から剥ぎ取った服を抱えていた。

「ナトー……」

 ブラームが俺の姿を見て足を止めた。

「軍曹。まるでメンズ雑誌の表紙から抜け出してきたように綺麗です!」

 ハバロフが言うようにメンズ雑誌からと言うのは、結構エロいと言うことなのだろう。

 必要最小限の言葉は覚えてもらったが、それ以外のスワヒリ語を話せないブラームとの行動にとって鍵を握るのは”俺の見た目”が与える印象。

 その点でいえば、今のブラームとハバロフのリアクションは自信になった。

「さあ、結んでくれ」

 腕をクロスさせて捻った状態の両手をブラームの前に突き出す。

 この状態で結ぶと、捻った腕を逆に捻り返すだけで簡単に縄は解ける。

 準備は出来た。

 さあ、行くぞ!


 縄に縛られて、政府軍の恰好をしたブラームに引かれて敵陣に向かう。

 薄暗くなりかけた景色に、俺の白い肌が浮き彫りになる。

 直ぐに他の兵が寄って来て騒ぎだす。

「Usisumbue!Fungua njia!!(邪魔するな!どけ!)」

 兵は、たどたどしいブラームのスワヒリ語には気にも留めないで、俺の姿ばかり気にしている。

 まんまと、こっちの思うつぼ。

 そのまま司令部要員が捕らえられているコンテナの前まで辿り着く。

 守衛は二人。

「Mwanamke huyu.Makaazi ya pamoja(この女も一緒に拘束する)」

 ブラームがそう言うと、この二人も俺に気を取られてニヤニヤ笑いながらスンナリ扉を開けた。

 俺を連れて中に入るブラームに付いて、もう一人が一緒に中に入って来た。

 中に入るとブラームが外の兵士に「 Unaweza kunisaidia kidogo(少し手伝ってくれ)」と、ニヤリと笑って誘う。

 外に居た兵士は辺りをキョロキョロ見渡してから「Kuangalia mbele?(お楽しみか?)」と言ってズボンのベルトに手を掛けて入って来た。

 二人がコンテナの中に入ったのを確認すると、俺は直ぐに縄を解きブラームと二人の守衛を倒して縛り、ブラームはコンテナの外に守衛に成り済ますため出て行った。

 事の顛末を驚いた表情で見ていた司令部の連中は、今、目の前で起こったことが何なのか理解できていない様子。

「だ、誰?」

「LéMATだ。助けに来た」

 そう言って縄を解いても、彼等はまるでキツネにつままれた様子。

 救出しに行くのは、モールス信号で伝えられたと思っていたが、どうやらそれが届くより先にこのコンテナに閉じ込められたのだろう。

 コンテナの裏側の外壁にはハンスが来ているはずなので、作戦の第一段階が成功したことを、壁を叩いて知らせた。

 次はハバロフの番。

「LéMATは知っているが、君は誰なんだ?」

 縄を解かれたニール中尉が不審そうに、俺に聞いた。

「ナトー。LéMATのナトー軍曹です」

 ニール中尉だけでなく、司令部の一同がそれを聞いて「あーっ」と小さく頷く。

 肌の露出具合が違うだけで俺の事が分からなくなるなんて、こいつらの目は一体どこを見ていたのだろう……。


 にわかに外が騒がしくなり、数台のトラックとジープが出て行く音が聞こえた。

 第二段階のハバロフの偽情報に敵は引っかかった。

 あとはハンスとトーニの第三段階、武器庫の爆破とその混乱に紛れて上手く逃げ出すことに成功すれば、救出作戦は終わる。

挿絵(By みてみん)

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