地獄からの反撃①
「本当にこんな所でいいの? さっきの橋と同じ手口、使えるよ」
「ありがとう。協力に感謝する」
「今度、遊びに来て」
ユリアがメモを渡す。
おそらく個人的な連絡先を記したものだろう。
貰ったメモを、大切にポケットに仕舞いこんだ。
「それでは、また会おう!Good luck!」
そう言って縄を手に掴み、ヘリから降下した。
5人全員の降下が終わると、ヘリはホバリングを止め、旋回と上昇を始めた。
ユリアたちが地上の俺たちに敬礼してくれているのが見えたので、俺たちも準備の手を休め敬礼を返した。
ヘリは目立たないように低空を飛行し、あっと言う間に視界から消えた。
ハンスが地図を確認する。
俺たちが降りた地点は、司令部のあるニョーラの手前にある山の反対側。
これからこの山を登り、尾根を越えて司令部の救出に向かう。
夕方までには何とか片を付けないと、人質を盾に取られた状態というのは敵にとっても味方にとっても何かと動き辛いやっかいなものだ。
尾根を越えた時にユリアから無線が入った。司令部を拘束している部隊の無線傍受に成功したらしい。
『傍受した無線の内容を他国の部隊に決して教えてはいけないと言われたから言えないけど、バンドは言っても良いって了解を取ったので教えるね』
「有難い」
『じゃあ、いうね』
そう言ってユリアは無線周波数を教えてくれた。
さっそくこっちの無線でも傍受できるように周波数を合わせてみるが、今は使っていなくて何も聞こえない。
無線傍受の作業は相手の発信地を特定できない限り、非常に難しい作業になる。
ウクライナ軍が俺たちの無線を傍受できたのは、指向性アンテナを使っていたから比較的簡単に出来たのだ。
離れた二カ所に指向性アンテナを設置すれば、発信源の位置が特定できる。つまり場所の特定をしたいAと言う地域から発信された電波が、Bの指向性アンテナからどの角度で最大感度になるか?Cの指向性アンテナではどの角度で最大感度になるか?そしてBの角度とCの角度が交差する三角形の頂点がAの位置ということになる。
逆にAの位置が予め分かっている場合は、BとCのアンテナをAの位置に向けておけば、その周波数を特定する作業も楽になる。
俺たち使っている無線機のアンテナは、どこからでも受信できるような全方向性アンテナなので、雑多に飛び交う無線の中から目的の周波数を探すのは至難の業なのだ。
ハバロフに無線の傍受をさせながら山を下りた。
「軍曹、今発信しています」
直ぐにヘッドフォンを取りハンスと一緒に聞いた。
しかしうまく聞き取れない。
「ハンス、何か分かったか?」
通信が終わって聞くと「俺は実を言うと、スワヒリ語が全然分からない」と言った。
「でも戦闘の最後にバイクでやって来た時に、スワヒリ語で“手を上げろ”と言っていたじゃないか」と聞くと、「さすがに“手を上げろ!”くらいは言えないといかんだろう」と言った。
「お前は?」
「俺も勉強を始めたばかりで日常会話程度は何と関ると思うが、無線の様な雑音の入った状態での聞き取りは難しい。だけど通信内容に明らかに名詞と分かる言葉が混じっていたと思う」
「名詞?」
「そう、キディアバと言う名前。心当たりは?」
「……ない」
「大使館に情報を送ってみよう」
時計を見て、フランス大使館向けに暗号電文を送る。
“Beware Kidiaba(キディアバ、ニ、チュウイ)”




