煉獄の扉①
「来た!」
日が暮れた20時、暗視スコープで見張っていたジェイソンが敵を見つけた。
「どこだ?」
暗視スコープを付けていないモンタナは、それを確認できずに「闇に同化しやがっている」と言った。
闇夜に黒人部隊は見つけにくい。
子供の時から数々の戦場を体験してきた俺も、この経験は初めてだ。
「ペアーの片方は暗視ゴーグル装着し、銃には全員暗視スコープを装着しろ! ハバロフ、小隊本部に連絡!」
暗視ゴーグルを着けると暗い中でも敵がハッキリと見えるが、その代り視界が極端に狭くなる。いつどこから敵が現れるか分からないから夜間は2人1組で応戦するようにした。
「どうする、もう点火するか?」
俺と組んだトーニが、仕掛けた爆弾の起爆スイッチを持って構える。
「いや、まだだ」
銃に付けたスコープを覗くと、予想通り先行してきたのは少人数の斥候。
ここで爆弾を使うのは効率が悪い。
どうせなら後方に待機している本隊の突撃を効率的に阻止したい。
この丘を目指して上って来る斥候は木々の陰に見え隠れしているが3人だけのようだ、それに比べて下の道路伝いに村に忍び寄る斥候は10人ほど。
どうやら敵は、この陣地にはまだ気付いていない。
「ブラーム、俺と一緒に来て援護しろ。その間ミヤンはトーニに付け!」
俺はHK-416を置いて、SIG-P320にサプレッサー(消音機)を付けて斥候を片付けるためブラームと一緒に陣地を出た。
「2人で大丈夫ですか?」
ナトーの代わりに俺の横に来たミヤンが心配そうに言う。
「2人じゃねぇ、1人だ。ブラームは何かあった時の援護要員だからな」
「1人で?」
「ああ、ナトーなら大丈夫さ。この勇猛果敢な姿をビバルディーの野郎に見せてやりたいね」
「ブラーム、人数の確認だけは怠るな。夜の暗さにはなれたが、俺はゴーグルを着けていないから離れた敵の確認には不向きだ」
「了解、今敵は3人だけ」
「OK、横から回る」
ブラームに言ったのと同じことを、ヘルメットに装着したレシーバーでモンタナ達にも伝えた。
そして、音を立てずに敵の斥候に近付く。
“ドーン”と下で爆発音がして一瞬辺りが明るくなる。
俺は地面に目を向けて、なるべく光を見ないようにした。
“早い。敵の斥候に爆弾を使ってしまったのか!?”
爆発の光が消え顔を上げると、3人の敵の斥候が爆発した方向を見ていた。
爆弾を使ったのは早いが俺にとってはチャンス。
一度でも強い光を見てしまった目は、ナカナカ暗さには対応できない。
それを見てしまった敵と、見なかった俺の見える範囲は明らかに違う。
しかも、爆発に続き小隊は発砲も始めたから、足音も消される。
ブラームに待機させて、俺はジャングルを敵の斥候目掛けて走った。
そして至近距離から3人を狙う。
AK-47を持っているから、星空を見に来たわけじゃない。
明らかに敵の斥候だ。
申し訳ないが死んでもらう。
それが武器を手にして戦場に来てしまったお前たちの運命だ。
“何!?”
トリッガーを引いた瞬間、思いもしなかったものを見つけたが、もう遅かった。
結局俺は10発撃った。
そして撃ち終わったあと、その場に呆然として立ち尽くしてしまう。
「珍しいな、軍曹が3人の敵に10発近く撃つなんて。防弾チョッキでも……」
近づいて来たブラームも、そこで気が付き足を止めた。
俺の傍に横たわっている死体は3人じゃない。
死体は全部で10人。
その10人全ての手元には、主人を失ったAK-47が転がっている。
「こ……これは……」
隊内で一番冷静なブラームが、次の言葉を失っていた。
俺はライトを付けて死体の確認をした。
『どうした? 何かアクシデントか?!』
レシーバーからモンタナの心配する声が響く。
「いや、何でもない」
そこでレシーバの電源を一旦切った。
「子供連れ? じゃあ敵じゃぁなくて村の生き残りがピクニックに来たって事か?」
ブラームが俺にそう聞く。
「いや、大人3人に連れられた7人の子供も全員敵だ」
「子供が敵? じゃあこいつらみんな親子なのか?」
「親子かどうかはわかないが、少年兵である事だけは確かだ」
ブラームに、子供の腕につけられた真新しい注射の後を見せた。
「麻薬か……」
「ああ。ここアフリカでは、さらった子供をこうして手懐けて戦争の道具として使う。……厄介なことになった」
 




