密猟者①
「降りろ!」
そう叫んで、もう片方のミラーも撃つと、4人が両手を上げて降りてきた。
降りてきたのは黒人一人と、白人が三人。
白人のうち1人は30歳前後のケバイ女。
黒人の、みすぼらしい服装にサンダル履きとは違い、白人の方は三人共真っ白でパリッとした服装をして黒いブーツを履いていて、見るからに金持ち風。
“スポーツハンティング”
テレビで見たことはあったが、まさかこんな場所で目にするとは思わなかった。
威勢よく捕まえたのは良い物の、この後どうしたら良いのか分からず、俺は睨みつけているだけ。
白人の3人は何やらゴニョゴニュと煩いので、もう1発空へ向けて撃って黙らせた。
モンタナとミヤンが来て、俺たちの睨み合いもようやく終わる。
俺が銃を構えている間にモンタナとミヤンが武器と身体検査、それにパスポートのチェックと荷物を調べていた。
黒人はやはり地元のガイド。
そして白人は3人共アメリカ人。
バンの荷室から、棒に手足を縛られたゴリラの赤ちゃんが出て来た。
いつも落ち着いているミヤンが、見間違うほどの剣幕で密猟者を罵る。
このあとはモンタナのラリアットが飛び出るだろうと期待して見ていたが、奴はその伝家の宝刀を繰り出さない。
いったい何やってんだ!
白人の1人がモンタナの正体に気付き、急に馴れ馴れしく話しかけると、女の方も急に笑顔になり抱きつこうとした。
そう。
モンタナはアメリカンフットボールの名プレーヤーだった過去があるから、アメリカ人なら知っている奴は多いだろう。
だけど、いつものようにブロンドの姉ちゃんに抱きつかれて、鼻の下を伸ばしやがったら命の保証はしねぇ。
だがモンタナは抱きつこうとした女をゆっくりと跳ね退けて、鼻の下を伸ばすどころか、見たことも無いくらい怖い顔をして睨みつけた。
まるで白いマウンテンゴリラ。
「いいか、お前たちが犯した罪は密猟だ。しかも母ゴリラを殺している証拠も写真に撮ってある。この先に進むと反政府ゲリラが居る可能性が高くて危険だから、俺たちに同行するなら身の安全は守ってやる。嫌ならここをUターンした先のムポフィに向かへ。そこにはコンゴ政府軍と警察が居る。お前たちの事は無線で知らせておくから、そこで指示に従え。一応武器は応酬しないが、お前たちの獲物は預かる」
密猟者たちは同行を拒否したので、少し広い所でUターンさせて、俺たちは子供のゴリラの縄を解いてやり部隊の居るジャングルに戻った。
ゴリラの子供はモンタナの背中に乗ってご機嫌な様子。
屹度、これで母親の所に戻れると思っているのだろう。
しかし、戻ってももう、優しい母親はいない。
“チキショウ!あいつら、なんてことしやがったんだ”
「モンタナ伍長、他2名戻りました」
「ご苦労」
俺たちを迎えたのは、あの泣いていたナトーとは思えないほどシャキッとした軍曹だった。
「派手な銃声と、手榴弾の音がしていたが、抵抗されたのか?」
ナトーがモンタナに聞くと、奴は俺に答えるように肘で突いて来た。
“チッツ、自分で報告しろよ!って言うか、俺もモンタナに報告していねぇけど、モンタナも俺に何も聞かなかった。
まあこう言う抜けているところが万年伍長たる所以だ”
「トーニ、報告しろ」
ナトーに言われ、俺は停止に応じなかった事と逃走を図ろうとしたことを報告し、その際に停車させるためと身の安全のためフルオートでの威嚇射撃と、逃走を防止するために手榴弾を車の後方に投げたことを報告した。
「あとの2発は?」
ナカナカ車から出てこなかったから左右のミラーを撃ったと答えると、ナトーは困った顔をして、制止させる目的なら構わないが強制する目的で威嚇はするなと言った。
「さて、派手にドンパチやってくれたおかげで、俺たちが居ると言ういい宣伝になったかも知れない。交替で周囲を見張りながら、しばらく様子を見る」
ハンスを振り返り指示を仰ぐと、何も言わずに頷いた。
「いいか、これは休憩ではない。体は休めるが耳は澄まして気配を感じろ!」
休憩ではないと言っても、実質は休憩みたいな感じ。
それはこの場を和ませている子ゴリラの存在。
モンタナと遊んだり、ナトーの膝の上に乗ったりしながら、キョロキョロとして母親が戻って来るのを待つような仕草をしている。
ナトーは潤んだ目で、それを慈悲深い目で見つめている。
“パーン、タタタ、パーン、パーン”
和んだ空気を打ち破るような銃声が響く。
発射音は、そう遠くない。
皆に緊張が走る。
「モンタナ、メントス、ハバロフの三人はここに残れ、ハンス中尉はどうする?」
「俺も行く!」
モンタナは不満そうな顔をして「俺も行く」と言ったが、ナトーが「お前が行くとゴリラが付いて来る」と断った。
分隊はハンス、フランソワ、ジェイソン、ボッシュの4人と、ナトー、ブラーム、トーニ、ミヤンの4人の、二手に分かれてジャングルの中に消えて行った。