狸神は語る
何かが変わる訳でもなく、ただ無駄に日々は過ぎる。
何とかしなければならないと思うが何ともならない。
就活しても書類選考で落とされ返ってくる履歴書。
それが繰り返されれば気力も無くなる。
かといって自分で何か商売をしようにも何をしていいのか分からない。
全てが詰んでいる。
今は何もしたくないという気持ちが勝つ。
だから俺は何もしない。
ただゲームをして日々を暮らす。
それが実に楽だ。
人生終わっているとは思うが、このままでもいいか…と。
久しぶりに外を出歩く。
別に外に出ていない訳じゃない。
近くのコンビニで買い物はする。
しかし駅まで歩くのは久しぶりだ。
駅をうろつく。
駅には昼間はそれほど人はいないが、やはり人は歩いている。
引きこもりな俺には人の目が気になる。
まるで自分だけ取り残された人間みたいに思える。
確かに取り残されてる。
皆んなは進んでる。
俺だけが…。
「……」
駅を後にしトボトボと帰路につく。
「これは…」
まっすぐ家に帰るつもりがまたしても神社の前を通る道を歩いている。
無意識に足が向いているのか…または…。
そして神社の前に着き、足を止める。
ここに来たのは1ヶ月ぐらい前だ。
もうあれから1ヶ月近く経つのに驚く。
この前来た時には狸神と白蛇の神がいた。
そして俺に取り憑こうとする幽霊がいたようだ。
白蛇神の言う事を聞き暫く神社にいた俺だったが、結局幽霊は外でずっと待ち構えていたみたいで白蛇神が何とかしたみたいだ。
この神社に幽霊が出る事で俺はそれからここには来ていない。
「……」
1ヶ月前に来た時には霊界と繋がっていたと狸神は言っていた。
ならば今日はどうなっているのか?。
少々気に掛かった。
だから鳥居をくぐった。
本来ならもう来る気はなかったが。
「……」
鳥居をくぐった…。
特に何も感じない。
神社に入ったが境内も社も寂れた状態であり変化はない。
「狸神は…」
いつも境内の奥からモソモソと出てくる狸神を探す。
しかし境内を歩き回ったが狸は居なかった。
今日は居ないのだろうか?。
そう言えばいつもいる訳ではないみたいな事を言っていたな…と思い出す。
「今日はいないか…」
俺は溜息をつく。
ここまで来たのに無駄足になった。
他人と喋る事が殆ど無くなった俺にとっては久しぶりに誰かと喋れるチャンスだったが、居ないのなら仕方がない。
諦めて帰ろうと思った時、社の裏からガサガサと草を分ける音が聞こえた。
「…‼︎」
俺は振り向き社の奥を見る。
ノテノテ…ノテノテ…ノテノテ…
ずんぐりとした丸っこいフォルム。
短い手足にのっそりとした動き。
間違いなく狸だ。
「……」
俺はいつものように狸を観察する。
多分気づいてないだろう。
トコトコ…トコトコ…トコトコトコ…
歩いては立ち止まり何かを考えてる風に見え、そしてまたトコトコと歩きだす。
そして立ち止まり地面をくんくんと嗅ぐ。
間違いなくこっちには気づいていない。
そしてそのまま観察を続ける。
「ん?」
狸が顔をこちらに向け、ようやく俺の存在に気づいた。
そしてドロンと変化する。
「やぁ、悩める青年、久しぶりだね」
「だな」
「いつ以来だっけ?」
「1ヶ月ぐらい?」
「もうそんなに経つんだ」
「ああ、早いよな」
相手は神様だが少女の姿をしているため敬語が出てこない。
本来なら敬語で接するべきだが何かそれは言いにくい。
「この間来た時は幽霊がどうのと言われてたけどね」
「思い出した、霊界と繋がってる時ね」
「今日は?」
「特にどことも繋がってないよ」
「そうか」
俺は安堵した。
また幽霊に待ち伏せされていては敵わない。
「て事は今日も巫女さんは…」
「いないよ」
「そうか」
「なに?、オキツちゃんが気になるの?」
「いや…別に…」
遭遇してまたキツイ事を言われてはこれもかなわない。
「あの巫女さんって…半妖とか言ってたけど」
「そだよ、神域の巫女だよ」
「?、神域って?」
「神に近い存在なのさ」
「半妖だから?」
「オキツちゃんは半妖だけど日本には人間だけど神域の巫女さんがいるね」
「人間で…神に近いって?」
「私の知る限りで青森と京都と沖縄にいるよ」
「青森…と京都と沖縄?」
地域がバラバラでよく分からない。
少なくとも神域…神に近い力を持っている巫女さんがそれぞれ存在しているようだ。
「そんな力持ってるなら俺の運も戻せそうなもんだけどな」
「んーー、あのね、神にもランクがあってだね、ここに祀られてる神様は半端ないんだよ」
「かなり上って事?」
「そう、かなり上」
「んじゃ、無理なのか」
「そうそう、無理だね」
キッパリと断言されては諦めるしかない。
そもそも半妖の巫女さんにそんな力があるとしても、また何か叱られそうな気がして戻してくれと言うに言えないだろう。
「諦めるしかないのか…」
「何を?」
「削られた運だよ」
「ああ、それね」
「俺は一生このままか…」
「まぁ、それについては少しオキツちゃんに聞いたよ」
「え?、何て?」
「戻す方法は絶対に無い…訳じゃないみたいには言ってたよ」
「それって…」
「戻せる方法があるんじゃない?、多分だけど」
「本当に?」
「多分だけどね」
狸神の言葉を聞いて俺は何かかすかな光のような…希望のようなものが出てきたことに鼓動が高鳴った。