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かみかみかみ  作者: ナウ
4/10

神社と霊界

あれから随分経った。

巫女さんに厳しく言われて俺は家に引きこもっている。

ゲームばかりしている日々。

それはすごく楽だ。

一生このまま…何事もなくゲームをして過ごせれば…。

俺はひたすらゲームをする。

時間はあっという間に過ぎていく。

あれから一ヶ月近く既に経とうか?。

子供の頃には一ヶ月は長い時間だったが大人に近づいて時間が経つのが非常に早く感じる。

就活はしていない。

しても同じだ。

書類選考で落とされる、面接で落とされる。

そもそもやりたい仕事もない。

今時高卒で雇ってくれる所なんかあるわけもない。

あったとしてもいわゆるブラックな職場だけだ。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、全てが嫌だ、考えたくない、動きたくない、面倒だ、体がだるい、誰とも接したくない。


「………」


まったく家から出ない訳ではない。

近くのコンビニには行く。

しかしそれだけだ。

今日は久しぶりに、気分転換で街を歩いてみる。

相変わらずの風景。

相変わらずの人々。

相変わらずの世界。

仮想空間ではなく目の前に広がるのは現実世界だ。

実に下らない。

俺に取ってはまったく意味のない世界だ。


駅を回って家に帰る途中、神社の前までくる。

行きたくないし見たくもないので違う道を選んで帰ってきたつもりだったが、いつの間にか同じ道を歩いてきていたようだ。

まったく頭が働いていない。


「あれ…?」


確か違う道を選んで歩いて…ここに来る筈がない道だ。

なのに気がつけばここにいる…。


「おかしいな?」


首を捻った。

そしてそのまま通りすぎようとしたが、なぜか神社が気になった。


「何だろう…」


神社での不思議な体験。

半妖の巫女さんに狸神の少女、変わる境内と社に社から聞こえてきた歌声。

入ればまた何か起こるのか?。

分からない。

しかし俺は鳥居をくぐり境内に足を踏み入れた。


「さむ…」


境内の中はいつもの…普通の寂れた神社の風景だ。

違いはない。

違いはないが異様に寒い。

日は照っている。

鳥居をくぐる前まではそれほどでもなかった寒さが境内ではまるで雪国かと思わせられるほど寒い。

何ら風が吹いている訳でもないのに冷たい風が皮膚に当たったかのような変な感触もある。


「さむっ、何だ一体?」


何か異様な寒気がする。

何か…神社ではないような感じがした。


「いや、マジに寒いって…」


俺は体を震わせて息を吐いた。


「なんでこんなに…」


言いかけた時に社の裏手から動くモノが視界に入った。


「うわっ!…あ…違う…あれは…」


得体の知れない境内の状況に俺は少しビビっていた中に視界に動くモノを捉えてビックリしたが、落ち着いて見てみるとあれはタヌキだ。


社の裏手から現れたタヌキはトテトテトテ…ピタリ…トテトテ…ピタリ…トテトテトテ…と地面を嗅ぐように移動しこちらに近づいてきた。

しかしこちらには気づいていない。


トテトテ…ピタリ…トテトテトテ…ピタリ…トテトテ…。


俺はそれを暫く見ていた。

やがてタヌキは首を上げた。


「………」


目があった。

タヌキは「ん?」とした顔で俺を見る。


「………」


やがてタヌキはドロンという音と共に少女の姿に変化した。


「久しぶりだね、悩める青年」


「あ…えっと…そうだね…」


狸の神様らしいので敬語で話さないと駄目なのだろうが、見た目からして単なる少女なので敬語が出てこない。


「この前来た時っていつだったっけ?、ごめん、覚えてないや」


「多分…一ヶ月ぐらい前…かな?」


「一ヶ月か、それほど前でもないね」


「え…ああ…そうだね」


「で、今日はどうしたの?」


「いや、散歩に出てフラッと立ち寄って…」


「そうなんだ、間が悪いね」


「間が悪い?」


「ここは今は霊界と繋がっているからさっさと出た方がいいよ~」


「霊界?」


「そう霊界」


「霊界って?」


「霊の世界だね」


「えっと…幽霊とかの?」


「そうそう」


「えっ…幽霊?、神社なのに?」


俺は頭がこんがらがった。

神社なのに幽霊が出る世界…。

霊界と繋がっている…。

まったく意味が分からない。

確かに誰も管理しなくなって廃神社になった場所には悪い霊が出るとは聞くが…。


「神様がいなくなったの?」


「神様はいなくならないよ?、今日は不在だけど、というか私も一応は神だし」


「それじゃどういう…」


「あー、君呼ばれたんだね」


「え?」


狸神の少女は境内の端を指差す。

指差された場所は木が立っているがそれ以外は何もない。


「見えないだろうけど女の人が立ってるよ」


「え?」


「あー、あの人に呼ばれたんだね」


「呼ばれたって?」


「ちょっと待ってね」


少女はパンっと手を叩いた。

すると寒気が一気に無くなる。


「あ…あれ?」


「追い払っといたから」


「え?、追い払う?」


「んーと、説明すると幽霊の女の人があそこにいたのさ」


「あそこに?」


「そっ、それで君はその幽霊に呼ばれてここにやって来たってわけ」


「呼ばれて?」


「結構厄介な奴だったから憑かれてたかもね」


「憑かれるって…取り憑かれる!?」


「そう、多分前から目をつけられてたんだろうね君」


「神社なのに取り憑く幽霊がいるって、どういう…」


俺は何が何だか分からないまま混乱する。

さっきまであった寒さや寒気は引いた。

代わりに今度は変な汗が出てきた。

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