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かみかみかみ  作者: ナウ
3/10

半妖の巫女

特に何もしないまま時間だけが過ぎていく。

実に無駄な時間だ。

大学受験に失敗した俺は仕事を探さなければならない。

しかし今のご時世高卒に仕事はない。

俺は詰んでいた。

なぜこうなったのか…全ては不幸だ。

幸運というものがあれば俺の人生はもっと変わっていたはずだ。


狸神と自ら名乗る少女と会ってからまた時間が経った。

毎日朝と昼と夕方に神社に様子を見に行ったが変化はない。

同じように寂れた境内に大きくはない社。

またドロンと現れ消える狸少女はいないかと見渡すがただ静かな空間があるだけだった。


そういえば現れる時は空気が違った。

音も外の音が遮断されたかのようになる。

それに最初の巫女さんが現れた時は社も境内も新しくなったかのように見えた。

その現象は今日も起こらなかった。

俺はとぼとぼと神社を後にする。


家に帰り俺はゲームをやる。

全てうまくいかない今は現実逃避できる逃げ場所だ。

ネット上では自分を隠せる。

自分にはない力を引き出せる。

現実なんてない方がいい。

そうだ、現実なんてゴミみたいなものだ。

一生このままでいい。

疲れた。

このままゲームの中に綴じ込もっていれば楽だ。

とじ込もっていたい。

疲れた。

このままずっと…


晩ご飯を食べ風呂に入り、またゲームをして寝る。

本当に楽だ。

もう受験勉強をしなくて済む。

就活もしたくない。

疲れた。

このままこうやって生きていきたい。


………


寝て…夢を見た。

何かは覚えていない。

ただ何か嫌な夢だ。


俺は目を覚ました。

時計を見ると時刻は午前2時頃。

起き出してトイレに行き、1時間ほどゲームをしてまた寝た。


二度目も夢を見た。

実に変な夢だ。

辺りは暗く畑の中に立っている。

近くの小道を何か小さな光る玉が列をなして通っていく。

それをただぼんやりと見つめる俺。

夢は変な状態でも不思議とは思わないものだ。

俺はそれを見ながら…。

時計の音で目を覚ました。


起きてゲームをして朝飯を食べる。

歯を磨き着替えて家を出た。

どうせ今日も何も起こらないだろうと思う。

このままでもいいという諦めの気持ちが出てきている。


とぼとぼと道を歩く。

今日はいつものルートではなく遠回りし、人が多くいる駅を回って行く。

最近は人と接する事がめっきり減った。

だから少し人ゴミに混じろうと思った。


駅では朝の通学や通勤の人々が忙しなく歩いている。


………


道ですれ違う人が全員充実していて幸せそうに見える。

それに比べて俺は…。

やっぱり駅なんて来なければ良かった。

行き場のない気持ちになりながらも更にとぼとぼを歩く。

そして暫く歩きいつもの神社に到着した。


外観はいつもと同じ。

今日も無理だろう…と思い鳥居をくぐった。

その瞬間何か違和感を感じた。

この感覚は…。


そして足を踏み出した時に何か歌声が聴こえた。

高く響く女性の歌声。

何と歌っているのかは判らない。

凄く耳に心地よい。


俺は歩き出すと撒かれた小石がいつもより大きく鳴った。


チィン…チィン…チィン…


鈴の音が小さく鳴り響く。

その瞬間社の前に巫女さんが現れた。

間違いなくこの前に会った巫女さんだ。

俺はやっと会えたと思った。

削られた運を元に戻す方法、それが知りたい。

狸神の少女は伝えてくれているだろうか?。

俺が足を速めると頭の中に声が聞こえた。

最初耳から聞こえたと錯覚したが、それは頭の中に聞こえてきた。


「神前である、手と口を清めなさい」


「え?」


俺は巫女さんを見た。

すうっと指先を俺の横手に向ける。

指先を辿って見ると四方転びの柱の中に水が出てそれを受けている石桶があった。

その少し上には柄杓が乗っている

手水舎だ。


「あれ?、こんな所にこんなのあったっけか?」


この神社に手水舎は…片隅に水の出ていない張っていない使われていない小さな石桶はあった。

しかしこんなに立派な作りの手水舎がいつ出来たのか…。


俺は手を洗い口をすすぐ。

そして手水舎から境内に目を移して驚いた。

そこには広い境内が広がり、立派な大きな社が中央にある。

いつもの神社ではない。

明らかに境内の大きさが異なっている。


「歌声が…」


高く澄んだとても良い声。

この声の持ち主を見たくて俺の足が自然と社に向かう。

社の前には巫女さんがいた。


「あの…」


言いかけた俺を巫女さんは制した。


「暫く待ちなさい」


「あ…はい」


黙って社の中から聞こえてくる歌を聴く。

やはり何と歌っているのかは判らない。

しかしずっと聴いていたい歌だ。


どのくらい聴いていたのか。

体感的にはあっという間だったと思う。

そして歌声は消えた。


巫女さんは社に一礼し、こちらに向いた。


「話を聞きましょう」


「えっと、今の歌声は…」


「ここで祀られている主祭神様です」


「あ、女性の神様なんですね」


ここで俺はこの神社で祀られている神様が女の神様だと初めて知った。


「それで?」


「あ、はい、この間狸の女の子に話しまして…」


「削られた運を元に戻して欲しいと?」


「えって…あ…はあ、出来るんですか?」


「無理ですよ?」


一瞬の希望がきっぱり言われて俺の心は沈んだ。


「神様との契約は覆せません」


「やっぱりダメですか?」


「大病をせず五体満足…それ以上何を望むのですか?」


「人並みの幸運です、俺は不幸じゃないですか!!」


「アナタ以上に不幸な人間は数多くいますよ?」


「それは…そんな事ないですよ」


「僅かな時間しか生きていない者はそう考えます、少なくとも今のままでは話になりません、出直してきなさい」


ぴしゃりとした声が飛び、俺は眩暈を覚え目の前が真っ暗になった。

しゃがみこみ、回復を待つ。

やがて目の前が見えてきて立ち上がった俺の視界には寂れたいつもの境内と社が映った。

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