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かみかみかみ  作者: ナウ
2/10

狸神のおタヌ

俺の不幸はひい祖父さんのせいであったという。

それを近所にある古びた神社にいた巫女さんに教えられた。

しかもただの巫女さんではない。

半妖と呼ばれる巫女さんらしい。

何が何だか分からないままそれらは忽然と消え去った。

そして一週間が過ぎ去った。


それから俺は毎日その神社に行った。

夢のような出来事が本当にあったのかどうか、それを確かめたくてだ。

しかし毎日行っている結果は残念な事になっている。

古びた神社は古びた神社であり、無人は無人だ。

参拝者も殆どいない。

たまに近所の年寄りが来るぐらいで変化はない。


「今日も無理かな」


歯を磨き着替えて家を出る。

不思議な少女と半妖の巫女さんに再び会う為に。

聞きたい事は沢山ある。

運が無いという俺はどうすればいいのか…。

何より彼女達は何なのかという事。

ドロンと消えた少女も人間の姿はしていたが人間ではない。

妖怪なのか?、それとも幽霊?。

それを確かめたい。


トボトボと道を歩く。

途中、車に轢かれそうになる。

昔からだが、小さな事故や怪我は絶えずする。

これも全てひい祖父さんのせいか。


やがて神社に着いた。

しかし何ら変わる事のない外観だ。

俺は鳥居をくぐった。

その瞬間、不思議な感覚に襲われた。

何か…外の音が遮断されたかのような耳の感覚。

空気も何かいつもと違う。


神社の境内に足を踏み入れた俺の足下で小石がじゃりじゃりと鳴る。

踏めば鳴るのは当たり前だが、いつもは気にしない音が今日はなぜか耳につく。


社は…いつもと変わらない。

俺は賽銭箱に小銭を入れ鐘を鳴らし礼をして手を叩く。


「……」


特に変わった事はない。

鳥居をくぐった時に感じた違和感に何かを期待したが何事もなくガッカリした。

しかしその直後にそれは来た。


トテトテトテトテ…


社の横から何かが出てきた。

それが視界に入って俺はぎょっとする。

小さな何か。

モゾモゾと動いている。


「何だ?」


四足の動物。

毛むくじゃらののてっとした奴。


トテトテトテトテ。


それは俺に気づく事なく歩き回り地面をクンクンと嗅ぎ回る。


「狸だ…」


俺は驚いた。

山の中や田舎ならともかくこんな街中で狸が出るとは。

というか狸なんて動画ぐらいでしか見た事がない。


トテトテトテトテ。


短い足でのてのて歩く狸。

まったくこっちに気づいていない。


「……」


暫く観察する。

そのモソモソな動きはある意味ユーモラスである。


やがて狸は顔を上げてこちらを見た。


「!」


ん?、とした表情をして狸はじーとこっちを見ている。

そしてトテトテトテとこっちに近寄ってきた。


ドロン!!


煙が発生し狸を包んだかと思えばあの少女が現れた。


「はははは、うん、分かってたよ、君が来ている事は!」


何も言っていないが言い訳みたくそう言ってくる少女。

というかどこから現れたのか…あれ?、狸は?。


「名乗ろう、私は狸神のオタヌだ、よろしく!」


よろしくと言われても何がよろしくなのかさっぱり分からない。

しかし狸神…狐は聞くが狸の神なんて聞いた事がない。

というか神なのかこの子は…。


狸から人間の女の子に姿を変えたこのおタヌという子…あれ?。


そこで俺は今目の前で起こっている事にようやく驚いた。


「反応遅いね、君」


少女は笑った。


「どうしたのかな?、田中唯一君?」


「いや…あの…」


一週間少女や巫女さんに再び会う為に通ったが、実際に会うと言葉が出てこない。

やっと出た第一声が…


「狸…神?」


だった。


「そう、何を隠そう私は狸神だったのだー」


「狸の神様って…」


「何か変?」


「聞いた事ないし」


「数は少ないけどいるのだよ、唯一君」


「はぁ…」


俺はそう答えるしかなかった。

目の前で狸から少女に変化したのを見せられては信じるしかない。


「狸は本当に化けるんだ…」


ゲームやマンガ・アニメぐらいしか知らない狸の能力に納得する。


「自殺は思い止まったようだね」


「あ…」


そう、それを話にきた。

しかし狸の変化のインパクトが強すぎてすっかり頭からその事が飛んでいた。


「巫女さんは?」


「ん?おキツちゃん?、今日は来てないよ?」


「おキツって巫女さんの名前?」


「そう、狐の巫女だからおキツ」


「ていうか、いつもいる訳じゃないんだ」


「当然、忙しいからね」


「そうか…」


「何か話があるなら伝えておこうか?」


「え…ああ…えっと…」


巫女さんに聞くのが早そうだが少女に聞くのもありだと思った。


「運が無い俺はどうしたらいいんだろ?」


「分かった、伝えとく」


「え?、あ…ああ…」


少女に尋ねたつもりだったが、勘違いされたようだ。


「他には?」


「えっと…君はここに祀られている神様…なのかい?」


「まさかぁ、私はここの居候神だよ」


「居候って?」


「行く宛もなく放浪してたけど、ここに居場所を作ってもらった」


「ずっとここに?」


「毎日じゃないけどね」


「そうなんだ」


「じゃあね、君の話は伝えとくよ」


「え?…あ…頼む…」


ドロンと消える狸神。

何か落ち着きがない。


「あ…しまった…」


少女には会えたが、キチンとした話は出来ていない。

巫女さんに伝えておくとは言っていたが、巫女さんがここに現れるのはいつなのか…が分からない。


やはり色々と不明なまま、しかし今日は少しだけ進展があった日だった。

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