表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみかみかみ  作者: ナウ
1/10

不運

人生には行き詰まる時がある。

どうあっても努力では埋められない事がある。

そんな時、人は神仏にすがる。

神仏にすがり、何とか助けを求めようとする。

俺こと田中唯一もそんな一人である。


子供の頃から何をするにも上手くいかなかった。

親も貧乏で、貧乏な家庭に生まれ下級国民として辛酸を舐めた。

大学受験にも落ちた。

もう俺には何もない。

あとは無意味に行き長らえるか、自殺か。


とぼとぼと近所の道をふらつきながら歩く。

そんな俺の前に神社の鳥居が目に入った。

そういえばここには無人の小さな神社があった。

寂れている神社。

何を思ったか俺は神社に入った。

狭い境内には誰もいなかったが、汚くもなかった。

普段は無人ではあるが誰かは管理しているのだろう。


カランカラン


少し古びた社の前まで行き鐘を鳴らし手を合わせる。

こんな事しても何にもならない。

だが今は神にでも祈りたい気分だ。

いる筈のない神に。

そう、神や仏なんぞこの世にはいない。

いてたまるか。

小学生の頃には神社に手を合わせた事はある。

しかし何も良い事は一つとしてなかった。

だから神仏はいないと中学の時に悟った。

そして高校を経て今に至る。


「くそ!!」


俺は何をやっているのか。

馬鹿馬鹿しい。

拝んだところで何も起きやしないというのに。


「くそってゆーのはなーに?」


不意に横から女の声が飛んできた。

俺は驚いて声の方を見た。


女の子がいた。

年は…俺よりも幾つか下か。


「え…と」


聞かれた事に恥ずかしくなり頭を掻く。


「あの…」


何とか誤魔化そうと言いかけると女の子が先に言った。


「田中唯一君ね、なるほど、不幸のどん底真っ只中ってとこね」


「……え?、何で俺の名前…」


「削られた運はあと半生ね、大変だぁー」


「……は?」


何がなんだかである。

俺は女の子を困惑気に見た。


「つまりはー、君の運は無いのよ」


「運が…ない?」


「契約知らないのー?」


「???」


女の子が何を言っているのか分からない。

頭がアレな子なのか。

俺は関わるのを止めて神社から出ようと体を動かした。


「あー、気に触った?、ごめーん」


回り込まれて謝られる。

謝られても何の事がさっぱりだ。

しかしその瞬間、社の方から凛とした声が響いた。


「タヌ、その者は自分の運命を知らない者、安易に話しかけてはいけません」


声は聞こえるが体が動かない。

俺は金縛りにあったように体がぴくりとも出来ない。


「はーい」


そう言うと女の子は目の前からドロンと消えた。


「…え?」


人が目の前から消える。

あり得ない状況と体が動かない状況に俺は初めて恐怖した。


ぱんっ


手を叩く音かして、俺はハッと我に帰る。

動かなかった体が動くようになった。

急いで後ろを振り向き社の方を見た。

巫女さんの格好をした女性が立っていた。

年は俺よりは少し上ぐらいだ。

ただ異様なのは銀の長髪と赤い目、そして頭に生えている尖った耳。

それがじっと俺を見ている。


「…は?」


俺は驚いた。


「妙ですね、今日この日に立ち寄る運命にはなかった筈ですが、まさか死ぬつもりですか?」


「え…」


俺が言いかけた時、銀髪の巫女は制止して喋った。


「死ぬつもりなら止めておきなさい、契約を反故にしたと見なされ死後は地獄の苦しみを味わう事になりますよ」


「あの…契約って何の事ですか?」


「簡単に言えばここに祀られし神様と貴方のひいお祖父さんとの間に交わされた約束です」


「はぁ?、ひい祖父さん…て」


「貴方のひいお祖父さん田中茂吉と神様との契約です」


「ひい祖父さんなんて名前も知らないんだけど?」


「でしょうね、人の寿命は短いですから」


「そもそも貴女は誰です?」


「巫女ですよ、巷では銀髪の巫女、もしくは半妖の巫女とも言われていたりしますが」


「半妖って…」


「妖狐と人間の間の子です」


「……」


色々と理解が追い付かない。

とりあえずそれは置いておいて契約について聞いてみた。


「俺のひい祖父さんが神様と契約したってのは何です?」


「大金持ちになるのが田中茂吉の願いでした、そしてそれは叶えられました」


「…確かに昔は金持ちだったって聞いた事あったけど…」


俺が聞いたのは祖父さんの若い頃ぐらいまでは金持ちだったという。

しかし祖父さんの晩年はガタガタで親父もまたどん底まで落ちた。


「契約に従い田中茂吉は大金持ちになりました、その代償は子孫の幸運です」


「は?」


「それは貴方のお祖父さん、お父さん、そして貴方の半生の運を削り成就されました」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!!」


「どうぞ?」


「それって、つまりは今俺が不幸の原因って」


「ひいお祖父さんである田中茂吉が原因です」


「………」


俺は頭が真っ白になった。

俺が不幸な原因はひい祖父さんにあるらしい。


「え…と、それは…」


俺が言いかけた時、銀髪の巫女は目をすっと閉じた。

その瞬間辺りは誰もいない神社に変わった。

立っていた巫女もいない。

しかも社も巫女さんが現れた時からなぜか新しく建てたかのように綺麗であったのに、今は元の古びた社に戻っている。


「何だ?…一体?」


辺りを見渡してみても誰もいない。

まるで狐に化かされたかのようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ