Trick or Treat 前編
これの時系列は婚約パーティーの少し前ぐらいです
今日は朝からみんな出払う日。と言っても昼には帰ってきて、仮眠を取り夜にまたパーティーがあるので、一日中自由という訳でもない。
貴族は大抵この日に、自分が寄付金を納めている孤児院にお菓子を持って訪問する。今回もグラスを除く家族全員で孤児院を訪問するようだ。
グラスは毎日同じ時間に起床する。その時にはもう、エリザベートやイサナたちは起きて準備をしていた。
「今年もやってきましたね、この日が」
「そうだね。お昼みんなが寝ている時間にいつもの、やっちゃおうか」
「そうですね。昨日のうちにちゃんと料理長に話を通しておきました。ちゃんと用意してくださるって」
「そう。毎回忙しいのに手間を増やさせてしまって申し訳ないけれど、今日くらい楽しみたいものね」
ココと雑談しながら身支度を整える。今日はポニーテールだ。みんなが出払うまで部屋で待機する。そうすればつかの間の自由時間が手に入る。待つの離れているから、別にしんどいとは思わなかった。
一時間ほど経ち、みんな出払ったことをココから報告を受ける。
「じゃあ、いきましょ」
「はい」
ココに手を取ってもらい、一緒に部屋を出る。
厨房に向かうと、既に材料と器具が用意してあった。
「今年も、作りましょう」
「「ハロウィンのお菓子を!」」
二人の声が重なる。くすくすっと笑いあってから、エプロンを身につけ準備をする。
グラスとココは毎年ハロウィンの日になると、みんなが出払った頃にお菓子を作る。そして夜、パーティーが開かれている頃に、ココと自室で自分たちだけのささやかなお茶会をするのだ。
「まずはクッキーから!」
「型がいっぱい用意されてますね。アイシングもしたいです!」
「そうだね、私もしたい。でも、細かいところはココに任せることになっちゃうけど……」
「それぐらいなんてことありません。グラス様と一緒にこうやってお菓子を作るのが楽しいので」
「ありがとう」
ココが材料を計量しボウルに入れ、グラスは混ぜたり伸ばしたり。
伸ばしたクッキー生地をあらかじめ用意されていた型でくり抜く。弱視だけれど全く見えない訳では無いから、これくらいできる。まあ、最初のうちは失敗ばかりだったが、回数を重ねるうちにどんどん上達して今では綺麗に抜ける。
型はオバケ、星、かぼちゃなどなど。ハロウィンに合ったものが用意されていた。毎年のことなので料理長が気を利かせてくれたらしい。
ほぼ関わらないと言っても、こうやって時々自分のわがままを聞いてくれる。それがとても嬉しい。
型抜きした生地をオーブンへと入れる。
「次は何を作りますか?」
「そうだね……カップケーキを作ろうか。まだ材料は余ってるよね?」
「はい、果物も少し用意されていますね」
「じゃあ決定!」
カップケーキを焼いている間に、焼けたクッキーをデコレーションする。
大元はグラスがやり、細かいところ──目や口──はココが描く。
カップケーキが焼けると、ホイップクリームでデコレーション。チョコや果物をトッピングする。
それからブラウン、マカロンも作った。できたお菓子から、いくつか料理長にお礼としてラッピングしメッセージカードと共に置いておく。
これは毎年のことだ。
次の日には、何かしら書かれたメッセージカードが部屋に置かれているだろう。
「じゃあ、夜までこれは隠しておいて……」
「時間が空いてしまいましたね」
「でもそろそろあの人たちが帰ってくる時間だ。早く部屋に戻ろう」
「はい」
早く夜にならないかな。
今夜は表では盛大なハロウィン《仮装・仮面》パーティー。たくさんのお客様がこの屋敷に招待され、玄関ホールと中庭が解放される。魔法を使った演出で浮世離れした世界観が生まれる。
けれど、私には関係ない。
でも、それを悲しいとは思わない。騒がしい、社交の場は面倒くさい。なら、ココと二人で自分たちだけのパーティーを開こう。
ふわふわと気持ちが浮き立つ。
今夜は少しだけ着飾って、自分たちだけのささやかなパーティーを。
皆さん、Trick or Treat!楽しいハロウィンをお過ごしくださいね。