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打ち明け話

今回紹介しようと思うのは、話すべきではないのではないかと度々思いとどまった議題です。正直言って人によっては重い、シリアスすぎると感じるかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

私は生まれつきある病気を持っています。病名は脳性小児麻痺。簡単に説明すると脳からの伝達がある一部分だけうまくいかず、その結果その一部分が正常に動かない病気です。人によっては運動障害や言語障害を引き起こす病気です。私の場合“麻痺”が起こっているのは右足です。右足のアキレス腱の部分です。アキレス腱が伸び縮みすることで人は足首を動かせます。そのアキレス腱がどういうわけかずっと引きつった状態で、動かしにくいのです。

試してもらった方がわかりやすいかもしれませんが、椅子に座って足を床から離して見てください。もしくは足が地面につかないところに座ってください。今足が宙に浮いていてブラブラとしてる状態だと思います。その状態で足首だけを上下させて見てください。その間にアキレス腱に触れて見てください。足首が上を向くと、アキレス腱が引っ張れているように感じませんか。逆に足首を下に向けるとアキレス腱が和らいでいるように感じませんか。これが私の場合、ほとんど和らぎません。常に足首が引っ張れているような状態です。

さてこの状態で何が悪いのかと言うと、うまく歩けません。人は歩く際必ずアキレス腱を使いますよね。私の場合、アキレス腱が常に足首を上に引っ張り上げているので、かかとが中に浮き、そしてそれが地面につかないまま歩いています。要は常にハイヒールを履いている様な感じです。意識すればかかとをつきながら歩くことはできますが、疲れます。しかしちゃんとみなさんと同じ様に歩いておかないと様々な”副作用”に見舞われます。まず、つま先を酷使している状態なので、つま先だけがだんだんと大きくなって行きます。正確に言うとつま先の皮がどんどんと厚くなっていて、マメやタコができています。その間かかとは小さく比較的柔らかいです。次に右足の使い方がおかしいためかふくらはぎなどに筋肉がつきにくいです。つまりは右足と左足で成長速度が異なると言うことなので、右足と左足で太さや長さが異なります。太さに関してはあまり気にはなりませんが、長さに関しては明らかに違うことが自分でもわかります。足を延ばすと膝から下が左足と比べて右足が短いのです。しかもこれは成長すればするほどその差がどんどんと開き、今では約五センチ違います。

そうなると当然困るのが靴です。足の大きさも多少違うのですが、問題はそこではありません。私は履ける靴と履けない靴があります。基本的にローカットと言うんでしょうか、足首と靴紐を結べる場所が広いと、私の場合右足が脱げてしまうので、履けません。なので必ずハイカット、足首に近いところまで靴紐を通せる穴があるものを選んでいます。これで少し嫌だったのが日本の学校でした。私は日本の学校、もしくは日本人学校に小学校一年生と二年生、そして三年生の一学期だけいました。小学校で靴といえば上履きですが、私は上履きが履けませんでした。なので一人だけ白い靴、マジックテープなどで足首を固定できるものを履いていました。

副作用は足だけにとどまりません。右足のかかとが常に浮いていて、左足は普通につま先もかかとも地面にぴったりくっつけられるとなると、立ったり歩いたりするとどうしても左足に体重が乗ってしまいます。その結果体の重心が真ん中からずれてしまっています。なので私は若干二十一歳ながらよく腰が痛くなります。腰痛は中学生の時からあり、そしてその痛みは年々増してきていると思います。日本にいた頃はよく整骨院や鍼灸治療を受けていました。言い訳になるかもしれませんが、修学旅行のスキーが一向に上達しなかったのは、このせいではないかと思われます。このまま何もせずに歳を取れば当然こう言った副作用も悪化していくと思われますので、いつ歩けなくなるかと考えると正直不安です。今ではもう六年生のラグビーの時のように走ることもあまりできなくなりました。

しかしもちろん今まで何もしてこなかったわけではありません。これに治療法があるとすればリハビリでしょうか。半強制的にかかとを地面につけさせる装具を足につけて歩く。私の場合装具は当初家の中だけで、外で歩く時などは何も着けずにしていましたが、高校生になると体育がある日以外は学校でも装具を着けていました。今でもその装具は寮の中ではつける様にしています。が、その頻度は減っています。おそらくこのままだと右足はアキレス腱が引きつった状態で硬直し、かかとを地につけて歩くことはできなくなるでしょう。私と似たような装具をつけていた患者さんの中には装具を外して普通に歩ける様になった人がいる様ですが、私には一向に変化が起きず、今に至ります。おそらく努力と治したいという意思が欠如していたのでしょう。あまり事態を重く捉えていなかった私の自業自得ですね。親にも念を押され、いつだったかI氏にも本気で治した方がいいと忠告されましたが、私は聞き流していました。いつか治るだろうと慢心していました。徐々にですが確実に悪化しているのを感じている今ですら、なぜか意欲が湧きません。馬鹿なんでしょうか。

このことを伏せようかと迷ったのはみなさんから憐れみの視線を私に向けて欲しくなかったからです。私のこの病気はそれほど珍しい病気ではありません。そしてわたしの症状は他の人のそれと比べて軽い方です。その証拠に私は身体障害者ではありません。小児麻痺を患っている人の中には両足を動かせない車椅子の人や口周りの筋肉の伝達がうまくできずうまく話せない人もいます。中には四肢全てに麻痺が起こり寝たきりの人もいます。そんな人たちとちょっと歩き方がおかしい私を同等視しないであげてください。彼らは私なんかよりもはるかに辛い経験をしながらも懸命に生きているのですから。なので私を努力不足だと蔑むのならまだしもかわいそうだと憐れむのはお門違いです。そういってもらえるのは個人的にはありがたいですが、私よりもさらに重い症状の人たちに申し訳が立ちません。何卒よろしくお願いします。

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