運命の相手が変態すぎてどうすればいいですか?
この国で生まれた貴族の女性は、十八歳の成人を迎えると、運命の相手を探す儀式を受けることになっている。
王都にある大聖堂には、運命の相手を映し出す水晶が置かれ、触れることで輝き出し、生涯結ばれる相手が浮かび上がる。
その運命は絶対で、抗うことはできない。
映し出された相手が誰であれ、一度見てしまったら、結ばれなくてはならない。
長く続く古い仕来りに従って、私も水晶に手を触れる。
運命の相手は、どんな人だろう?
優しい人だと嬉しいなぁ。
男らしさとか、格好良さよりも、私のことをちゃんと見てくれる人が良い。
ううん、それも私には贅沢な望みだろう。
だから……そうだね。
せめて変な人でなければ――
「見えました。レイネシア嬢、あなたの運命の相手は……ふっ」
「え?」
今、小さく笑われた気がした。
水晶を覗き込みながら、その女性はニヤニヤと笑みを浮かべて言う。
「あなたの相手は、アレクト殿下です」
名前を聞いた私は言葉をなくし、周囲の人たちはクスクスと笑いだす。
その名を知らない者など、この国にはいない。
ユーラシア王国第三王子、アレクト・ローレアン様。
またの名を……変態王子。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チュンチュウと小鳥の囀りが聞こえる。
右を見ても緑、左を見ても緑。
上を見上げると、木々間からちょっぴり青い空が見える。
私がいるのは、王都郊外の森の中。
道と呼べる道ではなく、草をかき分けながら進む。
動物たちの声がたくさん聞こえる森は、昼間の明るさがあっても不気味で、少し怖かった。
「ほ、本当にここなの?」
運命の相手を知った私は、今まで住んでいた屋敷を出て、その相手がいる家に向っている。
今日から一緒に住むことになっていて、相手側に連絡もされているはず。
そして指定された場所が、この森の中にある別荘だった。
一応は王国が管理している森で、安全性は保障されている……らしいけど。
ガサガサガサ――
「な、何?」
何かが蠢いている。
木々を揺らし、背の高い草が音を鳴らす。
それは徐々に近づいてきて。
ついに、私の前へ姿を現したのは、灰色の巨大狼。
「ベイルウルフ!?」
それは紛れもなく魔物一種だった。
強靭な牙で、自分より大きな獲物すら捕食する。
凶暴さと狡猾さで有名なベイルウルフが、私のことを睨んでいる。
グルグルと唸り声をあげ、今にも襲い掛かってきそうな――
「い、嫌!」
私は一目散に逃げた。
持っていた荷物を放り投げて、生まれて初めて全力で走った。
後ろを振り向かなくても、追いかけてきているのがわかる。
音は徐々に迫ってきていた。
当然ではある。
ウルフの足に、ただの人間が勝てるはずはない。
わ、私こんなところで死ぬの?
運命の相手にも会えないまま、殺されちゃうの?
嫌……そんなの嫌だよ。
涙がこぼれ落ちる。
潤んだ瞳で見据える先は、わずかに開けていて――
「え――」
たどり着いたのは、綺麗な花畑に包まれた白く幻想的な建物だった。
黄金の鐘が鳴り響く。
私は思わず見惚れて、その場に立ち尽くした。
一瞬、後ろから迫っている恐怖も忘れてしまっていた。
大きな音と共に振り返る。
私の背後にはウルフがいて、凶悪な口を開けていた。
絶望と後悔が脳裏をよぎる。
「待て!」
途中まで見えていた走馬灯が、力強い声にかき消された。
ウルフが襲い掛かるのを止めて、声を主に顔を向ける。
「無暗に人を襲ってはいけないよ。いや、ああ、わかっているさ。俺のためだったのだろう? その気持ちは嬉しいよ」
「あ、貴方は……」
「君か? 駄目じゃないか、勝手にここへ入っては」
「え?」
「君が勝手に入ってくるから、彼は勘違いしてしまったんだよ。俺に悪さをしにきたんじゃないかとね。何をしに来たのか知らないけど、用がないなら早く帰るんだ」
彼は私に背を向け、建物のほうへと歩いていく。
「ま、待ってください! 私はレイネシア・シルバです!」
立ち去ろうとした彼が立ち止まり、背を向けたままぼそりと言う。
「レイネシア……どこかで……ああ、手紙に」
そう言って、彼は再びこちらに顔を向ける。
青く澄んだ瞳と、灰色の髪を靡かせて。
「そうか。君が……俺の運命の相手か」
「はい。アレクト殿下」
これが、私と彼の初めての会話だった。
「そ、その……今日からここでお世話になります」
「……君、荷物は?」
「え? あ、追いかけられた時、落としてきてしまって」
「はぁ」
彼は大きくため息をこぼした。
私がお世話になると言った時も、露骨に嫌そうな顔をされたし、ちょっと嫌な気分になる。
「まぁいい。君はこっちへ。荷物は彼に取りに行ってもらうよ」
「彼?」
「いいから」
「わ、わかりました」
説明されないまま、私は白いテーブルと椅子が並んだ場所へ案内される。
途中で気が付いたけど、一緒にいたはずのウルフがいない。
もしかして、彼というのはウルフのことだったの?
さっきもウルフと会話しているような感じだったし……噂は本当なのかな?
「ここで座って待っていてくれ」
「はい」
案内された椅子に腰かける。
彼は一人で、建物の中へ入って行ってしまった。
一人になった私は、キョロキョロと周りを見渡す。
不思議な雰囲気の場所だ。
幻想的で、神秘的で、どこか別の世界みたいな感じがする。
最初は落ち着かなかったけど、ゆっくり眺めていると悪い気分はしない。
吹き抜ける風も気持ちよくて、日差しの温かさで眠くもなる。
ただ、異様に視線は感じるから、安心して眠れそうはなかった。
しばらくすると、建物から彼が出てくる。
手には二つのカップを持っていて、片方を私の前に置く。
「紅茶、ですか?」
「ああ」
「もしかして、ご自身でお淹れに?」
「そうだが?」
そう言って、彼は私の向かい側に腰を下ろす。
ずずっと紅茶を一口飲んで、カップをテーブルに置く。
私も一口頂くことにした。
「美味しい。あ、あの殿下、お伺いしたいのですが」
「何だ?」
「その、他の方はいらっしゃらないのですか?」
「ここにいる人間は俺一人だ」
「え? 使用人は?」
「いないぞ」
「で、でしたら食事はどうしていらっしゃるのです?」
「そんなもの自分で作っているに決まっているだろう? 俺一人しかいないと言ったばかりじゃないか」
彼は当たり前のように、呆れた顔でそう言った。
だけど、彼は一国の王子だ。
それなのに使用人を雇わず、こんな森の中で一人暮らしているという。
噂程度でしか知らなかったことが、徐々に確かになっていく。
「き、危険ではないのですか? せめて護衛を雇われた方が」
「必要ない。ここには皆がいるからな」
「皆?」
「ん、戻ってきたな」
足音が私の後ろから聞こえる。
振り返ると、ベイルウルフが戻ってきていた。
口に私のカバンを咥えている。
「ありがとう。助かったよ」
「ほ、本当に……持ってきてくれたのですか?」
「見ての通りだよ。君もお礼をいったらどうだ?」
「は、はい。ありがとうございます」
私は頭を下げてお礼を言った。
するとウルフは、ワフっと鳴いてその場に伏せる。
「どういたしまして。さっきは追いかけてごめんなさい、と言っている」
「え、そ、そうなのですか?」
「ああ」
殿下は動物の言葉がわかる。
そういう噂を耳にしたことはあった。
ただの噂でしかないと思っていたけど、本当に意思疎通が取れているように見える。
何より――
「他の皆も挨拶したいそうだね」
「こ、こんなに……」
動物、魔物、幻獣……
たくさんの生き物たちを共存している事実が、私には信じられなかった。
「ユニコーンに……ドラゴンまで」
「皆、俺の大切な友達だ」
「友達……」
アレクト殿下、彼が変態王子と呼ばれている理由。
その一端が、人間を避けて動物たちと暮らしていることにある。
彼は成人する前までは、王城で普通に暮らしていたそうだ。
幼い頃から活発で、自由奔放な方だったと聞く。
よく兵士たちの目を盗んで、王城を抜け出して遊んでいたという話も聞いていた。
当時から彼は、珍しい動物を見つけては王城で飼っていた。
そして成人して以降、王都から離れたこの森で、動物たちと暮らしていたようだ。
「で、君が俺の運命の相手なんだね?」
「は、はい。儀式でそう出ました」
「……最初に言っておくけど、俺はあの儀式を信じてない。勝手に相手を決められて、一緒にいることを強要されるなんて……我が国ながら古臭い風習だと思っている」
「は、はい……」
「何より、なぜ俺が人間なんかと一緒にいなくてはないけないんだ? せっかく皆と楽しく暮らしていたというのに」
「も、申し訳ありません……」
な、何で私が謝っているの?
私だって、好きでこんな場所に来たわけじゃないのに。
「どうせなら、せめて人間以外だったら良かったんだがな」
「そ、それは……」
「わかっているさ。あの儀式で映し出されるのは人間だけだろう? 全くくだらない。人間の女のどこがいいんだか」
そこまで言われると、さすがに少し腹が立つ。
でも、こういう反応をされる予想はあった。
彼が変態王子と呼ばれる理由。
ただ動物好きというだけで、変態なんて呼ばれるわけがない。
本当の理由、それは――
「あぁ、やはり動物は良い。とても可愛いし、魅力的だぁ」
「……」
行き過ぎた動物愛。
彼は人間に興味がなく、動物に欲情するという……まさに変態だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、殿下の屋敷で新しい生活が始まった。
と言っても、大して今までと変わらない。
殿下からは――
「俺は君に興味がない。決まりだから一緒にいるが、極力関わらないでくれ」
そう言われている。
要するに、勝手に一人で生活してくれ、ということだった。
別にそれは良い。
屋敷の物は好きに使って良いし、足りない物は買ってくれるそうだから、以前よりも快適ではある。
ただ……
「興味ないって……さすがに酷いよ」
元からそんなに期待はしていなかった。
それでも、真正面から言われると、さすがに悲しくなる。
私は一人、中庭で腰を下ろしてため息をこぼす。
するとそこへ、ベイルウルフがテクテクと歩み寄ってきた。
「え、あ、あの……こんにちは?」
襲ってくる様子はない。
私はびくびくしながら挨拶をすると、ウルフは小さく頷いたように見える。
そのまま私の前で伏せる。
「え、え?」
すごく近くまで来た。
手の届く距離にいて、風で毛並みが揺れる。
見た目だけでも、ふかふかしているのがわかって、ちょっと興味が湧いた。
「さ、触ってもいいの……かな?」
警戒はされていないみたい。
頭は私の方に向いていて、目を瞑っている。
私はこっそり、頭に手をのばす。
そうして触れた瞬間、ふわっとした毛並みの柔らかさが伝わった。
「フワフワだ」
「驚いたな」
「へ、あ、で、殿下!?」
声が聞こえて、思わず手を離してしまった。
ウルフも目を開けたけど、伏せたまま殿下と私を見つめている。
殿下は私の隣に歩いてきて、腰を下ろしウルフを撫でる。
「彼が俺のいない所で他人に身体を委ねるなんてな。こんなことは初めてだ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。以前に騎士団の連中が来た時は、問答無用で襲い掛かったよ」
「え……」
それは普通に怖い。
「だが君は大丈夫のようだ。もしかすると、波長が似ているのかもしれないな」
「に、似ている?」
「ああ。君の雰囲気が、動物に似ているのかもね」
「……」
動物に……似ている。
そう言われて、私には思い当たることがある。
考えたくないし、思い出したくない。
ただ、運命の相手が彼だということも、関係していると思える。
「ん? どうかしたか?」
「な、何でもありません。私、ちょっとお散歩に行ってきます」
「あ、いやちょっと待て」
「へ?」
「そこは草で隠れているが、水たまりが多くあるから気を付けた方が良い」
水たまりという言葉が聞こえた時には、もう手遅れだった。
私の片足は地面の硬さをすり抜けて、冷たい水に浸かっていく。
バランスを崩して倒れ込み、一緒に水を被ってしまう。
し、しまった水が!
「すまない遅かったな。次からは――なっ」
殿下は驚いて目を丸くする。
見られた。
ついに見られてしまった。
殿下は知らない様子だったから、隠し通せると思ってのに。
水を被ったことで姿が変わる。
狐の耳と尻尾が、私の頭とおしりから伸びる。
「君……」
「……」
「先祖返りだったのか?」
遠い昔の世界では、人間以外にも多くの種族が暮らしていた。
長い歴史の中で争い、今では人間だけになってしまったけど、稀に先祖の特徴をその身に宿した子供が生まれることがある。
それが先祖返りだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は上級貴族シルバ家の長女として生まれた。
本当なら、生まれた時から幸福な未来が約束される地位にある。
だけど私には、あってはならない物がついていた。
「そ、そんな……我が家から、汚らわしい動物の混ざり物が生まれるなんて」
先祖返りの特徴が現れたのは、私が三歳になった頃だった。
それまで両親にも可愛がられていたけど、狐の耳と尻尾をみた途端に血相を変え、ひどく怒鳴られたことを覚えている。
先祖返りは、種族によっては貴重な存在として注目を浴びる。
ただし基本は、人間になりそこなった半端な生き物として、世間から冷たい目で見られていた。
家から半端者を出したなど、上級貴族の恥でしかない。
だから私は、本宅から遠く離れた別荘で隔離されて育った。
自立するまでは面倒を見てくれたけど、途中から広い別荘で一人ぼっち。
外に出れば笑われて、哀れまれる。
いつしか私は、他人の顔を見るのが怖くなった。
口を開けば悪口に陰口。
誰も信用できない。
両親も、妹も、肉親さえ私のことを笑うのだから。
醜い、醜い、醜い……
そう言われ続けて、ずっと生きてきた。
運命の相手に、動物しか愛せない彼が映し出された時。
驚きはしたけど、心のどこかで納得していた。
だって私は……人間ではない半端者だから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そうか。シルバ家……どこかで聞いた名だと思っていたが、先祖返りの娘というのは君だったんだね」
「はい……」
「しかしどうして、水を被った途端に変わったんだ?」
「それは私にもわかりません。小さい頃は人間の姿を保てなくて、大きくなるにつれてコントロール出来るようにはなったんです。でも……どうしてか水にぬれると戻ってしまって」
「ほう。先祖返りについてはわからないことも多いからな」
私は彼に、自分のことを話した。
見られてしまったら、説明しなくてはいけないから。
「申し訳ありません……黙っていて」
「別に良いさ。それより――なぜ泣いている?」
「だ、だって……私、また失敗して……こんな中途半端で醜い姿、見せたくなかったのに」
「……ああ、そうか。君もなのか」
「え?」
ぎゅっと、温かさが伝わる。
気付けば私は、彼の胸の中に包まれていた。
「で、殿下?」
「君も、人間が信じられないんだね」
「え、君もって……」
「俺もそうだ。少しだけ昔話をしよう。俺がまだ、王城で暮らしていた頃だ」
知っての通り、俺には兄が二人いる。
年は少し離れているが、全員が次期王の候補で、その資格を持っていた。
誰が次の王になるかと、周りも色々話していた。
だが俺には正直どうでも良かった。
当時の俺はまだ幼くて、そういう責務とかしがらみを軽く考えていた。
その頃から動物が好きだった俺は、よく王城を抜け出して遊んでいたよ。
変わった生き物を見つけては、王城に連れ帰って、よくメイド怒られていた。
特に仲が良かったのは、肩に乗るくらいの小動物だった。
フィーと名付けたそいつは、狐と猫の中間みたいな見た目をしていて、白い毛並みが美しかった。
たくさんの動物に囲まれて、ただ遊んでいるだけで幸せだった。
だが……俺は思い知った。
自分の立場と、それを快く思わない者がいることを。
いつもように王城を抜け出して遊んでいた俺は、暗殺者に狙われた。
護衛もいなかったから抗えなくて、心臓を一突きされた。
正直もう駄目かと思ったよ。
それでも生きているのは、フィーのお陰だ。
フィーは精霊だったんだ。
死にかけの俺の心臓を、フィーが自分の命と引き換えに治してくれた。
「その時の傷がこれだ」
「こ、これ……」
「酷いだろ? いや、本当に酷いのは……暗殺者を差し向けたのが、俺の兄だったことだよ」
「え……」
王位継承権を争う兄が、俺を邪魔者だと判断して、殺すために暗殺者を雇ったんだ。
それを後から知って、俺は絶望した。
証拠があっても、相手は第一王子で、訴えた所でもみ消される。
それだけじゃない。
第二王子である兄上からも、食事に毒を盛られたり、色々されていた。
「うんざりだった……もう嫌だった。人間の欲に振り回されるのは」
「……だから、ここに?」
「ああ。王位に興味がないことを示し、無能を演じれば二人も俺を脅威とは思わなくなる。世間が見放してくれたお陰で、俺は狙われなくなったよ」
そう言って彼は笑う。
どことなく、悲しそうに。
「動物の言葉がわかるようになったのも、フィーに心臓を直してもらってからだ。彼らは本当素晴らしい。素直だし優しいから、一緒にいて落ち着くよ」
「……なら、私はやっぱりいないほうがいいですね」
「ん? なぜだ?」
「なぜって、私は人間でも動物でもなくて……中途半端で……醜いですから」
「……はぁ、君は馬鹿だな」
「なっ……」
「俺は誰よりも動物が好きなんだ。その俺が、今の君を見て醜いなんて思うわけないだろ?」
殿下は私の髪に触れ、そのまま耳に触れる。
他人に触られるなんて初めてで、くすぐったかった。
それと同じくらい、優しい触り方だった。
「殿下?」
「良い、実に良いよ。すごく綺麗だ」
「へっ、き、綺麗?」
「ああ。先祖返りを見るのは初めてだが、とても魅力的だよ。これは大発見だな」
「魅力的……今の私がですか?」
「他に誰がいる? うーん、常にこのままでいてくれると嬉しいな。というか、今からそうしてくれ」
このままでいて良い。
ありのまま、先祖返りの姿を見せて。
醜いと罵られてきた姿を、生まれて初めて褒めてもらえた。
「私……ここにいて良いんですか?」
「ああ、むしろいてくれ。俺も君も、人間の社会に馴染めない半端者で、人間を信じられない。だからこそ、俺は君なら信じてもいいかなと思えるよ」
「殿下……」
「アレクトでいい。君は……えっと、レイネシアだったな」
「はい」
初めて彼が、私の名前を呼んでくれた。
優しく頭を撫でてくれる。
たぶん、動物に触れるような感覚なのだろうけど、それでも嬉しかった。
優しくて、大きな手に触れて、安心感が包み込む。
「運命の相手か……」
そして彼は、私に触れながらぼそりと口にする。
「確かに、運命を感じてしまうかもな」
そう言って彼は笑顔を見せた。
今まで見せてくれたどの表情よりも輝いていて、心が揺れる。
まるで、真っ暗闇に差し込んだ光のように。
この日、私は本当の意味で、運命の相手に出会えたのだろう。
「いやしかし可愛いな~ しっぽの付け根とかはどうなっているんだ? 見せてくれないか?」
「え、ちょっ、それは……」
変態だけど、優しい彼に。