打ち明けずとも打ち解けるなら、酒と女に気を配れ
その後は懸念していた襲撃もなく、俺達は無事に近くの町まで辿り着いた。門をくぐり喧噪に紛れたところで、トビーが俺達に……気持ちティアの方に……向けて話しかけてくる。
「それじゃ、とりあえずは宿を取りましょうか。僕としてはこの後色々と必要な道具を仕入れて、明日の昼前辺りには町を出たいと思うんですけど、ティアさん達もそれで大丈夫ですか?」
「あら、随分急ぐのね。まあ私達は平気よ。ねえエド?」
「そうだな、それで問題ない」
もしも長旅を終えた直後というのなら二、三日は休みたいところだろうが、俺達は今さっきこの世界にやってきたばかりなのでこれっぽっちも疲れていない。大事なものを運んでいるトビーが急ぐ気持ちも理解できているから、反対する要素は無い。
「わかりました。じゃ、宿を取ったら一旦解散して、さっきのお礼は夕食の時にでもということでどうでしょう?」
「了解だ。ならサクッと宿を決めちまおうぜ」
トビーの言葉に頷いて返し、俺達は大通りを歩いて行く。どうせなのでトビーと同じ少しお高め、でも防犯がしっかりしてそうな宿に俺達も部屋をとり、俺達は俺達で軽く保存食なんかを追加購入しながら過ごせば、約束の時間はあっという間に訪れる。
「それじゃ、僕達の出会いに!」
「「乾杯!」」
ごく普通の大衆酒場の一角、ガツンと木製のジョッキを打ち付け合って俺達は乾杯をする。その衝撃で溢れた琥珀が少しだけテーブルにこぼれ、俺とトビーは慌ててジョッキに啜りついた。
「ハァ、美味い! 特にタダってのが格別だな!」
「ははは、遠慮しないで飲んでください。昼間は本当に助かりましたから」
「そう言えば、結局あの人達って誰だったの?」
一人だけエールではなく果実酒を飲むティアが、口を湿らせ料理をつまみながら何の気なしにそう問い掛ける。演技の苦手なティアにはあえて何も教えていないので、これは純粋な好奇心からの問いだ。
「あの人達は……一言で言ってしまえば泥棒ですね。とある人の依頼で荷物を運んでいるんですけど、それに目をつけられた感じです」
「ふーん。何を運んでるのか……は聞かない方がいいのよね?」
「はい。すみません」
軽く頭を下げるトビーに、しかしティアが軽く首を傾げて言葉を続ける。
「うーん、でもそれ、意味があるの?」
「へ? 意味ですか?」
「そう。別に喧伝して回るつもりはないけど、私達はもう『トビーが何だか貴重なものを運んでる』って情報を知ってるでしょ? それどころかトビーを襲った人達は、トビーが何を運んでるのかもっと詳しい情報を知ってるんじゃない? その状況で私達に詳細を隠す意味がどのくらいあるのかなって」
「うぐっ!? それは確かに……?」
おお、それは確かにいい着眼点だ。「荷物の詳細はわからない」という結果を知っている俺なら思いつかなかったであろう問い掛けに、トビーが腕組みをして難しい顔をする。
「むむむ……いや、でも、やっぱり……」
「ああ、言いたくないなら本当に言わなくていいのよ? ただこれからもあの人達が襲ってくるって言うなら護衛はいてもいいと思うし、それなら既に関わっちゃってる私達に依頼するのが一番秘密を守れるじゃない?
で、守るならその守る対象が何であるかを知ってる方がやりやすいかなーって、そう思っただけだから。トビーが嫌がるなら無理に同行するつもりも無いし」
「嫌なんてそんな! ティアさんと旅ができるなら僕としても凄く嬉しいですけど……護衛、護衛かぁ。考えてもみなかったけど、まさかこんなに早い段階であんな大物に目をつけられるなんて思ってなかったし……うぐぐぐぐ」
「まあまあまあまあ! そう難しく考えるなよ! とりあえず今は美味い飯を食って酒を飲んで、結論はその後でもいいだろ? とりあえずは次の町までは一緒に行くって話だったし。ほら、飲め飲め!」
悩むトビーの肩をバシバシと叩き、俺はトビーのジョッキを持ってその口に近づける。緊急ならそのまま追い込んで結論を出させるのも手だが、今はそんなやり方をする必要はない。むしろこうやって打ち解けて、じっくり警戒心を薄れさせていく方がいいだろう。
「ありがとうございますエドさん……見た目は僕と変わらなそうなのに、何だかすっごく慣れてる感じですね。冒険者ランクはどのくらいなんですか?」
「ん? ああ、こんな感じだ」
トビーからの問い掛けに、俺は腰の鞄から深い緑色をした金属製の板きれを取りだして見せる。その板きれには楕円に削られた水晶が取り付けられており、そこには淡い光が四つほど灯っている。
「あれ、まだ四なんですか? あいつらを追い返せる腕なら、最低でも六か七くらいはあると思ったんですけど」
「ははは、そいつは光栄だな。俺達としても実力はあるつもりなんだが、如何せん実績がな……ちなみに俺は二〇歳で、ティアは……」
「二一歳よ! 私の方が年上なんだから!」
「お、おぅ、そうだな。ティアの方が年上だ」
俺達の会話に勢いよく食い込んできたティアに、俺は軽い苦笑を浮かべる。何故ティアはこうも年上に拘るのか……エルフ心はよくわからん。
とは言え、そんな俺達の言葉にトビーは納得の表情で頷く。
「なるほど、確かにその年齢だとランクアップは難しいですよね。若いってだけで割と下に見られたりしますし」
「そうなんだよ。まあこればっかりは焦っても仕方ねーし、じっくりやっていくさ」
「ですね」
グビリと酒を飲む俺に、トビーもそれ以上は追求してこない。
なお、この冒険者ギルドのカードは実のところ偽造品だ。今日この世界に来た俺達がこの世界における身分証など持っているはずがない。
トビーと別れてすぐにギルドに顔を出して登録は済ませたが、俺達みたいなのが今日登録したばかりの見習いだなんて言ったら信用も糞も無い。なので近くにいた適当な冒険者のカードを追放スキル「半人前の贋作師」で写し取ったのだ。
無論、偽造品なのでちゃんと見れば違和感に気づくし、冒険者ギルドでも使えない……というか使おうとした瞬間に捕縛されるような代物だが、酒の席でまじまじとカードを見たりしないし、何らかの理由で依頼を受ける場合は登録したばかりの本物のカードを出せばいいので、その場しのぎとしてはこれで十分だと判断した結果である。
騙しているようで……というか思いっきり騙しているのでトビーには悪い気がしなくもないが、それを言い出すと俺達の存在なんて基本嘘の塊みたいなもんだからなぁ。
「とは言え、箔をつけるためにランクをあげておくのは悪くない。手強い依頼は大歓迎だぜ? 今なら相場より大分安く契約できるしな」
「わかりました。ちょっと真剣に考えてみますね」
「おう!」
「フフッ、一緒に旅が出来たら私も凄く嬉しいわ」
「……ええ、はい。凄く真剣に考えてみます」
俺の時は普通に頷いただけなのに、ティアに言われたトビーは酔いとは違う意味で頬を赤らめ深く頷いてみせる。うーん、トビーの反応がわかりやすい。
「なあトビー。ひょっとしてお前、あのお嬢さんが手を握って『荷物を渡してください』って懇願したら、あっさり渡したりしないよな?」
「うえっ!? そ、そんなこと無い……ですよ?」
「何で言いよどむんだよ……あんまりしつこく言うつもりはなかったけど、トビーお前、本当に俺達を雇った方がいいと思うぞ?」
「か、考えるよ……うん、本当に」
内心の動揺を抑え込むようにして、トビーがグビリと酒を飲む。一周目の時は気づかなかった勇者トビーの一面に、俺は思わず苦笑いを浮かべることしかできなかった。




