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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
序章 終わった話の向こう側

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無理に取り繕った笑顔だろうと、泣き顔よりはずっといい

「……落ち着いたか?」


「うん。ごめんねエド。ありがとう」


 ズビズビと鼻を啜るティアが、目を真っ赤に腫らして笑う。その顔はあまりにも痛々しいが、それでもティアは続きを話し始めてくれる。


「私が出たのは、ノートランドのお城にある秘密の部屋だったの。取り乱す私をお城の兵士さん達が取り押さえて、ようやく落ち着いた私から事情を聞いた王様は、もの凄く怖い顔でこう言ったわ。『君は戻ってこなかった。勇者パーティは魔境を越えたところで全滅したことにする』って。


 最初は何でそんなことを言うのかって怒鳴りつけそうになったけど、王様の悲しそうな顔を見たら、そんな気力も無くなっちゃったわ」


「そっか……まあ、うん。妥当な判断だろうな」


 アレクシスの最後の行動は、実に身勝手で間違った選択だ。勇者であるアレクシスさえ健在ならば新たに仲間を集めて勇者パーティを再結成し、再び魔王の討伐に乗り出すこともできただろう。


 だというのに、自分の矜持のためにアレクシスはティアを助けた。それは世界の未来と仲間の命、あるいは自分の矜持を天秤にかけて後者を選んだということで、力を持つ者として絶対に選んではいけない選択だ。


 だが、ああだが。己の命を犠牲にしてでも人を助けたいという思いを、一体どうして否定できるだろうか? 勇者として最低の選択と誰よりも勇者らしい行動を同時に示したアレクシスを、ただの自己中の馬鹿だなどと俺は決して揶揄できない。


 とはいえ、それは俺が曲がりなりにもアレクシスと行動を共にした間だからであり、世間は違う。愚かな選択をしたアレクシスと、アレクシスの代わりに助かったティア。正義と正論を振りかざし「お前が死ねば良かったのに」とティアを叩く者は幾らでもいただろうし、何よりティア自身が強い自責の念に駆られているのだ。


 もしティアの生存を公表したら、自分と他人の両方の悪意をその身に受け止め、せっかくアレクシスが命を捨てて守ったティアは自ら命を断っていたかも知れない。そう考えれば王様の判断は実に適切だったと言えるだろう。


「ん? じゃあこんな辺鄙な場所に一人で住んでるのは……」


「そう。私の生還を世間から隠すため。特に私はエルフでしょ? 五年や一〇年なんかじゃ容姿が全然変わらないから、完全に人の来ない場所に引き籠もることしかできなかったの。三回行われたっていう遠征軍にも参加できなかったし……」


「遠征軍?」


「あれ? 知らないの? アレクシスを救出(・・)するために、ノートランドを中心とした連合国が魔境に軍勢を派遣したの。でも一度として突破することはできず、それどころか戦力を大きく消耗したせいで一気に魔王軍との戦いが劣勢になっていって……それが今の状況じゃない。私でも知ってるのにエドが知らないって、貴方本当に何処にいたの?」


「い、いや!? それはまあ、あれだよ。ここより更に辺境というか、ほんっとーに何の情報も入ってこない田舎っていうか……」


「何よそれ! フフッ……ハァ、随分と長くお話しちゃったし、ちょっと疲れちゃったかも」


「悪かったな、辛い話を強引に聞いちまって」


「それはいいわよ。私もエドになら話したかったし……というか、今更だけど貴方どうやってここに来たの? 私の居場所を知ってる人なんて、本当に何人かしかいないのよ?」


「うぐっ!? いや、実はその、ちょっとした人捜しの魔導具みたいなのを手に入れてさ。それでアレクシス達のことを調べてみたんだけど……二人の反応が無くて……」


「そう……じゃあやっぱり、アレクシス達は死んじゃったのね」


 観測されない事象は確定しない。アレクシスが生きている間に強制転移されたからこそ、ティアはアレクシスやゴンゾの死を確認していなかった。


 だが今、誰も知るはずのない自分の場所を訪ねてきた俺が、二人の反応がなかったと言ってしまった。それはつまり俺の行動が二人の死を確定させてしまったということだ。


「ぐっ……か、重ね重ね間の悪い感じで……」


「いいわよ。っていうか、むしろスッキリしたし。そうか、やっぱり二人とも、あの時に死んじゃってたのか。だったらもう、私も――」


グゥゥゥゥゥゥゥゥ……


 何かを言いかけていたティアの言葉が、大きな腹の音で遮られた。途端にティアの顔が尖った耳の先っぽまでほんのり赤く染まっていく。


「あ、あはは……これはほら、違うのよ? ちょっとした手違いというか……」


「へいへい。それで? 何か食べたい物とかある?」


「えっ? エドが作ってくれるの?」


「まあな。材料も色々持ち歩いてるから、よっぽど無茶なものでなければ大丈夫だぞ?」


「そうなんだ。うーん、でもなぁ……」


「ん? 何だよ、遠慮なんかいらねーぜ?」


「そうじゃなくて、私最近あんまり食欲がないから、スープとかそういう感じのものしか食べられないの」


「え? あんなに盛大に腹を鳴らしたくせに?」


「エドの馬鹿!」


 軽く身を乗り出したティアの指が、俺の鼻先をブニッと押し潰してくる。何と言う非道な暴力! だが俺はこの程度じゃ屈しないぜ?


「何よ、ニヤニヤしちゃって! そんな悪い子になっちゃったエドには……そうだ! 前に何回か作ってくれたシチュー! あれ作ってくれる?」


「シチュー? ああ、いいぜ」


「やったー! じゃ、お願いね」


「了解。ではしばしお待ちくださいませ、お嬢様」


「うむ! よきにはからえー!」


 席を立って小洒落た一礼をしてみせる俺に、ティアが楽しげに笑って言う。その内心は落ち着いているわけじゃないだろうが、見た目だけでも元気に振る舞ってくれるのはいい傾向だ。


「っと、そういうことなら腕によりをかけましょうかね」


 そのまま調理場のところに歩いて行くと、俺は彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックスに手を突っ込んで中に放り込んである食材を漁っていく。えーっと、シチューってことなら必要なのはミルクにバターに小麦粉に……


「ね、ねえエド? エドの手が消えてるように見えるんだけど、気のせいかな?」


「ハッハッハ、何を言ってるのかなティアさん? 人間の腕が消えるわけないじゃないか」


「そうよね。でもさっきから消えたり出たりしてるし、後食材がドンドン出てくるんだけど?」


「そりゃ料理してるんだから、食材は必要さ。それとも何か? 俺に空気を調理しろとでも言うつもりかい?」


「そんな事言わないけど、そうじゃなくて!」


「ハッハッハッハッハ!」


「むーっ!」


 適当に笑って誤魔化す俺に、背後からティアのむくれた声が……聞こえてこない。そうとも、今の俺は料理に徹する魔導具なのだ。決して説明が面倒臭いとか腹一杯にして昼寝でもさせりゃ忘れるだろうとか、そんなことは一切考えていない。


 さーて、それじゃこのミルクを……状態保持器(マギストッカー)の使用期限切れてないよな? 魔法で状態を保持するって言っても限界はあるし、そろそろ一度完全チェックを……いやだ奥さん、何百個あるかわかりませんよ?


「GYAOOOOOOOON!」


「ふぁっ!?」


 不意に家の外から、でかくて重い物が落ちてきたような振動が伝わってくる。そこから一瞬遅れて響くのは、甲高い獣の鳴き声。


「GYAOOOOOOO!」


「な、何だ!? あ、おい、ティア!?」


 一目散に家を飛び出していくティアを追い、俺も家の外に出る。するとそこに居たのは……


「ドラゴン!?」


「GYAOOOOOOO!」


 真っ赤な鱗に覆われた体で生臭い鳴き声を叩きつけてくるのは、紛れもなく魔獣の王、ドラゴンであった。

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