男の性に年齢は関係ない。秘するか表するかの違いがあるだけだ
「ヒャッホウ! 俺様が一番乗りだぜ!」
小舟が砂浜に辿り着くと、ピエールがそう叫んで飛び降りた。その様子を目の当たりにした全員が思わず苦笑してしまう。
「ピエール、そんなガキみたいなことを……アンタ幾つだい?」
「ケッ、わかってねーなぁ。男なんざみんなこんなもんなんだよ! 歳は四二……三だったか?」
「えぇ……そうなのエド?」
「……ノーコメントだ」
はしゃぐピエールの後に続いて、俺達も船を下りる。念のため小舟を陸まで運んでから、俺は改めて周囲を見回していく。
「周囲が深い森ってのはまだいいとして、道があるんだな」
「みたいだねぇ。石畳とはなかなかに豪勢じゃないか」
「チッ、宝島ってんだから、砂浜の砂が全部砂金でもいいだろうに、ケチくさい島だぜ」
「……………………」
「ティア?」
「……ううん、何でもない。それより進みましょ?」
「? そうだな」
メンバーで唯一厳しい表情を浮かべるティアの事が気になりはするが、かといってここで立ち止まっていても何も変わることは無い。とりあえず道なりに進んでみると、程なくしてティアがぽつりと言葉をこぼす。
「……やっぱりおかしい」
「さっきからどうしたんだティア?」
「エドはおかしいと思わない? これだけ木があるのに、動物の鳴き声が全然しないのよ?」
「っ!? 言われてみれば……」
「魔物よけみたいなのがあるんじゃないのかい? 動物よけってのは流石に知らないけど」
「だな。俺の船にだってつけてたぜ? まあクラーケンにはこれっぽっちも効かなかったけどよぉ」
驚く俺に対して、レベッカとピエールの二人はあまり気にした様子がない。が、それはティアの能力を知らないからだ。卓越した精霊魔法の使い手であるティアの感知能力は、元々それに優れるエルフに比して尚高い。そのティアの感覚を持ってして何も聞こえないというのは、相当な広範囲に渡ってただ一匹の動物すらいないということだ。
『どう思う?』
『わかんない。危険はないと思うけど……多分この島全体が作られたものなんだと思う。感じられる精霊の力が全然違うもの』
そっと指を絡ませた俺に、ティアが「二人だけの秘密」で答える。なるほど人工島……これはいよいよ以て神的な何かの関与が濃厚だな。
「まあ何もいないって言うなら、化け物がわんさかいるよりはいいだろ。とりあえずは警戒しつつ進もうぜ」
レベッカは勿論、ピエールだって適当な言動を繰り返してはいても歴戦の海賊であることには違いない。俺の言葉に同意するように頷くと、そのまままっすぐに続く道を歩いて行く。すると程なくして蔦の絡んだ石造りの建造物の前へと辿り着いた。
「これはまた……何かの遺跡かい?」
「でしょうね。一応聞きますけど、どうします?」
「馬鹿か新入り!? ここまで来て中を見ずに帰るわけねぇだろうが! ……先頭は譲ってやる」
「そこは慎重なのね……エド?」
「へいへい、お任せ下さいお嬢様方。ピエールは知らん」
「お前、俺にだけやけに冷たくねぇか?」
「自分を殺しにきたオッサンに優しくしてやるほどお人好しじゃねーんでな……ふむ」
ポッカリと口を開けた遺跡の中に踏み入ると、ひんやりとした空気が俺の頬を撫でる。中は完全に真っ暗で、照明無しでは進める気がしない。
「ティア、頼む」
「わかったわ。光を集めて照らすのは黄を讃える満月の玉、鈍の光を宿して象る一対二眼の精霊の瞳! 輝き瞬き暗きを砕け! ルナリーティアの名の下に、顕現せよ『フェアリーライト』!」
詠唱を終えたティアの手から、光の玉がフワリと飛び立つ。それは俺を追い越して遺跡の奥へと進んでいき……だが五メートルほど進んだところで、パチンと音を立てて弾けてしまった。
「えっ!?」
「どうしたんだ?」
「わからない……多分、結界? 手応えからして、無効化じゃなくて阻害……障壁系のやつだと思う」
「ふーむ、覗き見厳禁ってところか。なら、あー……」
しまった。「彷徨い人の宝物庫」の中にはランタンが入っているんだが、腰の鞄から取りだしたように見せるには些か大きすぎる。何食わぬ顔で出せば流してくれるかも知れないが、突っ込まれると後々が面倒臭そうだし……どうすっかな?
「ん? なんだ、灯りが欲しいのか? なら……ほっ!」
左手を挙げたピエールが声をあげると、その鉤爪が淡い光を放ち始める。それは暗闇を照らすに十分な光量で……え、何それ凄い。
「うわっ、光った!? 見て見てエド、フックが光ってるわよ!?」
「あ、ああ。光ってるな」
「ピエール、アンタ相変わらず変な仕込みをしてるんだねぇ」
「うるせぇな、俺はいつだって万全を期してるんだよ! あと光る鉤爪とか格好いいじゃねぇか!」
「わかる……」
「エド?」
「あ、いや、違う。何でも無い」
くっ、ちょっとだけ格好いいと思ってしまったが、これは所謂気の迷いというやつだ。でも暗闇を切り裂く光る鉤爪……何でも無い、何でも無いぞ。
「ハッハッハァ! ようやく俺の偉大さがわかったか!? ならここからは俺が先頭を歩いてやろう! 見た感じ罠も無さそうだしな」
上機嫌になったピエールに先導され、俺達は遺跡の中を進んでいく。ティアの魔法が消し飛んだ場所を越えてもピエールの鉤爪は光ったままなので、何でもかんでも消し飛ばすというわけではないようだ。
「条件は何なのかしら? ちょっと調べてみたいけど……」
「それは流石に後にしろよ。帰りに時間があったら、その時のお楽しみにしとけ」
「そうね」
「おーいお前等! 何か扉があるぞ!」
俺とティアが話しながら歩いていると、前を行くピエールから声がかかる。すぐにそちらに顔を向けると、そこには美しい装飾の施された石の扉が立ち塞がっていた。
「こいつはスゲーな」
「ふんぬぅぅぅぅぅぅ…………駄目だ、ビクともしやがらねぇ」
「そりゃそうでしょ。何か仕掛けがあるんじゃない?」
「そうなんだろうけど、それっぽいものは見当たらないねぇ」
キョロキョロと周囲を見回すが、一見してわかるような仕掛けは何も無い。一本道の通路だったのでそれほど調べる場所もなく、三〇分ほど探してみるも新たな発見はない。
(こりゃ埒が明かねーな。なら……)
俺はこっそりと皆の死角になるような位置に移動し、「失せ物狂いの羅針盤」を起動する。対象を「扉を開く仕掛け」にすると……んん?
「…………?」
「何だい? アタシの顔に何かついてるかい?」
「いや、そうじゃなくて……なあ船長。ちょっとその扉を開けてみてくれません?」
「は? アンタ、アタシがそんなに怪力に見えるってのかい?」
「いやいやまあまあ、そこはほら、試しですよ」
「ハァ。まあいいけどね」
曖昧に笑って言う俺に、レベッカが軽くため息をついてから扉に手を掛ける。そのままグッと力をかけると、分厚い石の扉が音を立てて開いていく。
「な、何だい!? 何で突然!?」
「うっそだろ!? レベッカお前、胸とケツがでかいだけじゃなく、馬鹿力まであったのか!?」
「ふざけんじゃないよ! そんなわけ……おいエド、こりゃ一体どういうことだい!?」
「俺に言われてもわからないですよ。一応全員試してみようって思っただけですし」
眉を釣り上げ怒鳴りつけてくるレベッカに、俺は慌てて顔の前で手を振って言い訳を口にする。実際には「失せ物狂いの羅針盤」がレベッカを指し示したからなんだが……これはつまり勇者しか開けられない扉ってことか? となるとこの奥にあるのは……
「まったく。で、中には何……が…………………………」
開かれた扉の中を見て、その場の全員が言葉を失う。息が詰まりそうなほどに澄み渡った空気のなか、石の台座の上にプカプカと浮かぶのは、長い蝋燭の取り付けられた三つ叉の銀の燭台であった。




