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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第三章 海賊勇者の冒険譚

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相手が裏を読むのなら、読まれる裏を用意せよ

「……ここ?」


「ああ、そうだ……多分な」


 ティアを引き連れ俺が辿り着いた先にあったのは、何とも言えない重圧を放つうらぶれた酒場。少なくとも好奇心だけで足を踏み入れるには些か以上に抵抗感を感じるその店に、俺は迷うことなく入っていく。


 一周目の時はこういう場所があると聞いただけで実際に来たことはなかったんだが、この独特の空気感は勘違いしようがない。


「……………………」


 キィッという軽い音を立てて開いた扉をくぐれば、昼間から酒を飲んでいるであろう人相の悪い男達がこちらを注視してくる。が、俺は勿論勇者パーティとして活動していたティアもその程度の視線で怯んだりはしない。そのまままっすぐ進んでカウンター席に腰を下ろすと、店員の中年男が無愛想な顔つきのまま重い声で話しかけてくる。


「ここはお前達みたいなガキの来るところじゃないぞ」


「おいおい、見た目で判断するのかよ……と言ってもいいんだが、その辺のやりとりはめんどくせーから省略してもいいか?」


「……ハァ。一体何が――」


「おいおい、ここはいつから子守をするように――ぐへっ!?」


「だからそういうのはめんどくせーって言っただろーが」


 絡んできたごろつきが、俺の裏拳一発で伸びる。魔獣相手ならともかく、人間を気絶させるのに大した力は必要ない。的確に急所を打ち抜く技量と、当たり所が悪くて死んだりしてもいいやという割り切り、あとは「円環反響オービットリフレクター」みたいな追放スキルがあれば楽勝である……割と積んでるか? まあ気にするほどのことでもないだろう。


「てか、あれか? 俺達はレベッカの船に乗ってるって言ったら、そっちの方が早いか?」


「……そういうことは最初に言ってくれ」


 のびたごろつきをそのままに、苦い表情で店員が首を横に振る。どうやらそっちが正解だったらしい。もし三周目があるなら覚えておこう。


「で? どんな仕事が欲しいんだ? 言っとくが、うちが扱ってるのは大した仕事じゃ無いぞ?」


「いいんだよ、本格的な殺しだの何だのを振られてもこっちだって困るし。そうだな、長くても二、三日で達成できる内容で、難しくてもいいが稼ぎもそれなりの仕事が欲しい。ただし直接(・・)誰かを傷つけるのは無しだ」


「ならこの辺だな」


 ペラペラと都合のいい条件を並べ立てる俺に、店員の男がカウンターの下からヨレヨレになった紙を取り出す。黄ばみきったその紙に視線を落とせば、そこには角の生えた馬のような絵が描かれているのが見て取れる。


「魔獣? ユニコーン……じゃないわよね?」


 俺の肩越しにその絵を見たティアが小さく呟くと、店員の男が軽く苦笑しながら首を横に振る。


一角馬(ユニコーン)なんてこんなところにいるわけないだろ。これはラブルドンキーっていう、言ってしまえば角の生えたロバだ。足はユニコーンより遅いが、その分力が強い。冒険者ギルドなら六級指定の魔獣だな」


 この世界にもご多分に漏れず冒険者ギルドというのが存在する。そして六級というのは熟練の戦士が当たるような難易度だ。つまるところこいつはなかなかの強敵ということになる。


「こいつの角を持ってくれば、一本あたり銀貨四〇枚で買ってやる。どうだ?」


「こいつの生息地は? ってか、普通の魔獣なんだったら何でここで?」


「生息地は町を出た東の森だが……こいつの角は討伐証明(・・・・)に指定されてる」


「なるほど、そういうことか」


「え? どういうこと?」


「わかった。邪魔したな。行くぞティア」


「え、え!? えっと、どうも?」


 さっさと歩き出した俺に、ティアが慌ててついてくる。そうして怪しげな酒場から出ると、改めてティアが俺の顔を覗き込んできた。


「ねえエド、今のどういうこと? っていうか、そもそも何でこんなところで仕事を受ける必要があったわけ?」


「何でって、金が無きゃ買い物もできねーだろ?」


「それはそうだけど、でもほら、私達船長さんにお金貰ったじゃない? 手持ち(・・・)から出すわけにはいかないにしても、あれだけあれば日用品くらいは買えるでしょ?」


 高価な回復薬を湯水の如く消費するような勇者パーティとして活動していると忘れがちだが、金貨一枚というのは結構な大金だ。世界によって物価は違うが、ここなら一般庶民の半年分の給料になる。確かにそれだけあれば船で生活するのに必要な日用品くらいは買えるわけだが……


「あのなティア。多分すっかり忘れてるんだろうが、俺達は偉くてこわーい誰かから逃げてるんだぞ? そんな奴が逃亡先で期せずして大金を手に入れたとして、無計画に散財すると思うか?」


「うぐっ!? わ、忘れてない、けど……必要なら使うんじゃない?」


「まあ使わねーとは言わねーよ。とはいえいつ見捨てられるかわかんねーんだから、軍資金は稼げるときに稼げるだけ稼いでおきたいと思うのが普通だろ? でも冒険者ギルドなんて人を探すなら真っ先に当たる場所だ。そんなところに顔なんて出せねーから、必然的に仕事を受けられるのはこういう薄暗い場所しかない」


「うーん。それはわかるけど、本気で見つかりたくないならそれすらしないんじゃない?」


「フッフッフ、そこだよ。確かに本気で見つからないようにするなら、海賊船から一歩も出ないで船の中に留まる方がいい。でもそこまですると、俺達を探してる相手の手は主要な港全部に人を張り付かせて、出入りする全ての人間を見張れるほどに長いってことになる。


 だがそんな監視が出来る相手を敵に回してるとレベッカが(・・・・・)判断しちまうと、流石に船を降ろされる可能性が高い。だから俺達は裏で仕事を受けることで、冒険者ギルドには顔を出せなくても、ちょろっと町をうろついて仕事をする程度ならばれないくらいの相手から狙われてますよってアピールするわけだ」


「……つまり、ここで仕事を受けることで、私達を狙ってる相手の力量を船長さんにわかってもらうのが目的ってこと?」


「そういうことだ。更に言うなら、仕事をこなすことで俺達の実力を改めて実感させられるし、金を稼いだって実績があれば多少多めに使っても怪しまれない。これをせずにでかい買い物をした場合、どこからその金を引っ張って来たんだって勘ぐられちまうからな。


 一度くらいなら『いざという時のために持っていた宝石を売った』なんてので誤魔化せるだろうが、それをやると『他にもまだ隠してるんじゃないだろうか?』と延々と疑われ続けることになる。まだまだ長旅をする必要のある船の中で安心して眠れなくなるのは嫌だろ?」


「はー……」


「な、何だよ?」


 ポカンと口を開けているティアに、俺は思わず眉根を寄せて問う。するとティアは開けていた口をキュッと閉じ、笑顔でそれに答えてくれた。


「ああ、ごめんなさい。変な意味じゃなくて、感心してたのよ。前も思ったけど、エドって本当に色々考えて行動してるのね」


「そうか? このくらいは普通だと思うけど」


「絶対普通じゃないわよ! 戦場で敵の動きを読むことならできるけど、人の動きをそんなに深く予測して行動するなんて、私にはとても出来ないもの。何をどうしたらそんなことができるようになるの?」


「……強いて言うなら、経験か?」


 一〇〇の世界を越えて来たのは伊達じゃない。ワッフルの時の大臣なんて可愛いもんで、権謀術数を駆使した嫌がらせの数々はいっそ芸術と言いたくなるほどだ。昔は散々絡め取られたりしたが、今ならスルリと抜け出したうえでこっちから噛みついてやれるんだろうが……


「……何か、エドが悪い顔をしてる気がする」


「うぉっ!? そ、そんなことねーよ?」


「そう? フフッ、人の事散々言ってくれるけど、エドだってすっごくわかりやすいと思うわよ?」


「そりゃあ――」


 抗議の言葉を口にしかけて、俺はそのまま黙り込む。


「そりゃあ、何?」


「ハッ。何でもねーよ。さ、それじゃさっさと仕事を片付けちまおーぜ」


――そりゃあ、ティアだからに決まってるだろ……そんな恥ずかしい言葉を口にするつもりは無いのだ。

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