どんなに可愛い相手でも、大量に来たら恐ろしい
書籍化に伴い作品タイトルが変更となりました。また第1巻の発売日が2022年2月1日に決まりました。是非とも応援よろしくお願い致します。
活動報告の方も更新しておりますので、良ければそちらもご覧ください。
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「……よし、ついたな。すぐに来るはずだから、しっかり体を守れ!」
「うん……」
新たな世界に降り立った瞬間、俺はティアにそう指示を飛ばす。だが当のティアの反応は今ひとつ鈍いというか、納得していない感じだ。今回もヌオーの加護でこの世界の事が事前にわかっていたので、警告を込めてきっちり説明したんだが……やはりあの脅威は、実際に体験してみなければ伝わらないのだろう。
「っと、来たぞティア! 構えろ!」
「え、もう!? わ、わかったわ!」
そんな事を話している間にも、周囲を囲む森の向こうからざわめきが伝わってくる。木々の葉擦れとは全く違うその音は加速度的に大きく近づいてきて、接敵はもはや時間の問題だ。
一周目の時、何も知らなかった俺は為す術もなくそれに蹂躙された。だが今は違う。足を広げて腰を落とし、顔の前で腕を交差して完全な防御態勢を整える。そんな俺の元に洪水の如く押し寄せてきたのは……
「「「ヨソモノだー!!!」」」
俺の手のひらほどの大きさの、妖精の大軍であった。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ヨソモノだー! ホンモノだー!」
「くろーい! でっかーい!」
「でもちょっとくさーい!」
群がる妖精達は好き勝手なことを言いながら、俺の髪を引っ張ったり頬をつついたり、尻を蹴ったり脇腹をくすぐったりとやりたい放題にやってくる。思わず叫びながら両腕を振り回したい気持ちになるが、それは悪手。
何故なら、そんなことをしたら妖精的には「遊んでくれている」ということになってしまうからだ。悪戯は激しさを増し、振り回す腕をヒラヒラとかわしながら更なるちょっかいを長時間にわたって受けることになる。
なので、ここはジッと我慢。こちらが何の反応も示さなければ、すぐに飽きて立ち去ってしまうことを、俺は一周目の経験で知っているのだ。
「ヨソモノだー! ホンモノだー!」
「しろーい! キラキラしてるー!」
「でもちょっとくさーい!」
「く、臭くないわよ! きゃぁぁぁぁ!?」
「あ、馬鹿!」
それをきちんと伝えてあったはずなのに、どういうわけかティアは妖精の言葉に反応してしまった。腕の隙間から見える光景では、目を輝かせた妖精達が激しくティアを弄んでいるのが見える。
くっ、助けたい……が、許せティア。ここで俺まで動いたら、何かもうしっちゃかめっちゃかになってしまうのだ。相棒がボロボロになっていく様を、俺は涙を飲んで耐え忍び……そして五分後。
「あーたのしかったー!」
「ヨソモノ、またねー!」
「ばいばーい!」
満足した妖精達が、フワフワとその場を飛び去っていく。それを確認した俺は、そっとティアの側へと歩み寄った。
「あー、大丈夫かティア?」
「うぅぅ、もうお嫁にいけないわ……」
ぺたんと地面に座り込むティアが、シクシクとすすり泣いている。その美しい長髪には無数の変な結び目がついており、顔には赤や緑の線で落書きが描かれ、舐められたのか長い耳の先がベトベトになっている。
「だからちゃんと守れって言ったろ? これほどけるのか?」
「イタッ!? そんなに強く引っ張らないで!」
「あ、悪い。でもこれ、結び目が小さくてな……」
妖精の小さな手で結ばれた髪は、俺の手ではなかなかほどけない。「白い世界」に戻れば全てが元通りになるので、いっそ切ってしまうという手もなくはないのだが、ティアが自分の髪をきっちり手入れしているのを知っているので、その提案はなかなかしづらい……というか最後の手段だ。
「ハァ…………妖精ってあんななのね。私はもっとこう、ちっちゃくて可愛い感じを想像してたのに……」
「それはそれで間違ってねーとは思うぜ? 一匹二匹……いや、一人二人なら実際そんなもんだろ。ただ、あの数はなぁ」
それこそ数人程度であれば、こっちも余裕を持って対応できるだろう。差し出された花を受け取ってみたり、悪戯をする妖精を指先で突いてお返ししたり、それはティアの想像する通りに微笑ましい光景のはずだ。
が、三桁の数で押し寄せられたらどうしようもない。泣き叫んで暴れ回っても全身にまとわりついて離れない妖精の群れは恐怖以外の何物でもなく、全周囲から聞こえるケタケタ笑いと甲高い声は襲われている俺の精神をこれでもかと削ってきた。
あれは本気で怖かったな……マジで「このまま食われて死ぬ」と思ったし……
「って、そうか! 今なら『不落の城壁』を使えば悪戯も防げたのか!? くっそ、失敗した……てか完全に頭から抜け落ちてたぜ」
妖精のあれは、あくまでも悪戯であり攻撃ではない。だからこそ「攻撃を防ぐ」という発想が浮かばなかったのだ。
「よし、次は忘れねーぞ」
「ふふ、エドも大分面白い感じにされてるものね?」
「……まあな」
防御に徹してはいたが、かといって俺も何もされなかったわけじゃない。髪の中には無数の木の実がしまいこまれているし、腰の鞄のなかには何かベタベタしたものが詰め込まれている。悪戯はしても嫌がらせをしないのが妖精なので、多分妖精的には素敵な何かなんだろうが……まあ、うん。後で掃除を頑張ろう。
「…………よし、これで大体ほどけたか。つか、これ以上は無理だ」
「ありがとうエド。それにごめんなさい。私の認識が甘かったわ」
「はは、いいって。それにちゃんと攻撃はしないでいてくれたろ?」
「それはまあ、ね。でも最初に話を聞いてなかったら、きっと反撃しちゃってたと思うわ。うん、本当に聞いておいてよかった」
ここは第〇二四世界。当時の俺はまだ弱っちかったのと、焦りのせいで逆に剣を抜かずに暴れたため、結果として妖精を傷つけることはなかった。
が、ティアが事前情報なしでさっきの状況に陥ったならば、間違いなく精霊魔法で撃退していただろう。熱しやすく冷めやすく、無邪気で悪戯好きな妖精としてではなく、突然襲いかかってきた謎の羽虫の大群として対処したなら……今頃ここには、大量の妖精の死体が転がっていたはずだ。
想像すると、ぞっとする。今後のこの世界での活動がどうとかじゃない。多くの仲間を理不尽に失った妖精達の悲しみと、友になれる相手を大量虐殺してしまったと知った時のティアの心を思えば、この程度の悪戯なんてむしろ笑って大歓迎だ。
にしても、前回といい今回といい、加護をもらったヌオーには本当に感謝しかない。礼のひとつもしたいところだが……神様だし、祈っとけばいいんだろうか? ま、それは追々考えておくとしよう。
「さて、それじゃ改めて、妖精の住処へと行きますか。準備はいいかティア?」
「体の方は平気だけど……さっきみたいな歓迎を、また受けるのよね?」
「いや、違うぜ?」
微妙に不安げな顔で首を傾げるティアに、しかし俺はチッチッチッと舌を鳴らして指を振る。
「さっきの五倍くらいの歓迎だ」
「いーやー!」
これから向かうのは妖精の住処……つまり大量に妖精のいる場所だ。ならそこにいる妖精の数が、通りすがりより少ないなんてあり得ない。
「ねえエド、これ風の精霊魔法で体を守ったりしたら駄目かしら?」
「んー? 駄目とは言わねーけど、それはそれで面白がられるんじゃねーかな? バインバイン弾き飛ばすと、そういう遊びだと思われて更に妖精が寄ってくると思う」
「うぐっ!? いや、でも、そのくらいなら……」
「あと、どうやってもティアに触れないってわかった妖精が、スゲー悲しそうな目で見てくると思う。『何で触れないの? 僕のこと嫌いなの?』みたいな感じで」
「っ!?!?!? そ、それはちょっと卑怯じゃない?」
「いや、卑怯って……まあ怪我させないように加減だけしてくれりゃ、あとはティアの好きにすればいいさ」
「うー、エドの意地悪!」
面倒見がよく子供好きなティアが、妖精を拒絶できるはずもない。ポコポコと背中を叩いてくるティアにニヤリと笑ってから、俺達はゆっくりと妖精達が飛び去った方へと歩いて行った。




