格好つけて欲張った。反省も後悔もするつもりはない
「今から三日後、あの闘技場で一六人の参加者による勝ち抜き戦が行われる。一日目が初戦の八試合、二日目が二戦目と三戦目の六試合。で、三日目が決勝で、そこで勝つと勇者に認定され、その後は式典って感じだな」
「へー、勝ち抜きなのね。でもそれだと相性の悪い相手に当たったりしたら不利じゃない?」
「偉い人の言うことには、『相性が悪い程度で負けるような奴に勇者が務まるはずがない』ってことらしいぜ。ま、一理はあるな」
勇者が相対するような事態なんて、いつでも理不尽の塊だ。それにそもそも魔王側からすればたった一人しかいない勇者の事を分析し、対策を立てるのは当然。つまり「苦手な相手に勝てない」ようでは勇者なんざやってられねーってのは間違いなく事実だ。
「でも、それなら全員勇者にしちゃった方が良くない? みんなで協力した方が強いと思うけど」
「その辺は人心を纏める象徴としての勇者が欲しいってところかな。てか、やるのはあくまでも試合で殺し合うわけじゃねーんだから、残りの一五人だって普通に魔王軍とは戦い続けるだろ」
「あー、それもそうね。ごめんね、話をそらせちゃって。続けて」
ティアの言葉に、俺は軽く頷いて話を続ける。
「うん。で、あー、そうか。まず前提としてこれは言っておくんだが、確かにそっちのワッフルは今ほど強くはなかったけど、決して弱かったわけじゃねーぜ? 何せ勇者候補に選ばれてるくらいだからな。
なんで、決勝までの三戦は多少余裕を見せつつも普通に勝ってた。ここに関しては思うところは何もねーんだが……問題は決勝、つまりあのドーベンとの戦いだ。
ドーベンは、当時も明らかに強かった。アイツと当たった他の勇者候補も、ドーベンとは相性が悪いって言うか、ワッフルの倒した勇者候補よりも強めの奴らばっかりだった気がするな」
「……それって、裏でドーベンを負けさせようとした人がいたってこと?」
神妙な顔で問うティアに、俺は静かに首を横に振る。
「わからん。当時の俺にそんなことを調べる余裕も能力もなかったからな。本当に偶然だった可能性もあるが……とにかく、そんなドーベンとワッフルは決勝の舞台で相まみえ……そしてワッフルが勝った。
強敵との連戦で体力が回復しきらなかったとか、傍目にはわからないような負傷をしていたなんて話もあったが、所詮は噂。少なくともワッフルはただ全力で戦い、実力で勇者の座を勝ち取った……そう思っていた」
「その言い方だと、そうじゃなかったってことよね? うわー、凄く気になるのに凄く聞きたくない……」
ティアが露骨に顔をしかめ、その耳が垂れ下がる。その気持ちはわからなくもないが、残念ながら受講は強制だ。
「悪いが無理にでも聞いてもらうぜ? ワッフルが勇者になってから三ヶ月後、とある村が大量のクロヌリに襲われる。当然俺とワッフルはそこに駆けつけるわけだが……そこにいたのがドーベンだ。
ワッフルは共闘を申し出るが、ドーベンはそれを頑なに拒む。その結果村は半壊し、死傷者多数。ドーベンもそこで討ち死にし、生き残った村人……ドーベンの生まれたその村の住人から、ワッフルは知りたくなかった話を聞かされることになる。選考会の決勝、ドーベンが負けたのは、家族を人質に取られて『ワッフルに負けろ』と要求されたからだってな」
「っ!? そんなのっ!?」
バンッとテーブルを叩き、ティアが勢いよく立ち上がる。その衝撃にテーブルに置かれたカップからお茶がこぼれて飛び散ってしまい、俺はそれを軽く拭いながら努めて冷静な声を出す。
「落ち着け。気持ちはわかるが過ぎたこと……いや、まだ起きてすらいないことだ。
その話を聞かされて、ワッフルは愕然となった。まっすぐ純粋な奴だからな。勇者の肩書きが譲られたどころか、汚泥にまみれた手で差し出されたもんだと知って……しかもそんなものがありながら村に多大な犠牲を出し、ドーベンまで死なせちまった。
泣くこともできない。悔いることもできない。立ち止まることも罪を告白することも、自害することすら許されない。最初は意趣返しのつもりで真実を伝えた村人も、あまりにも哀れなワッフルの姿にすっかり毒気を抜かれちまった。
そうしてしばらく呆然としたワッフルが、見た目だけでもかろうじて立ち直り、切々と己の無力を語って……それに同情した村人が教えてくれたのが、ドーベンの一族が使ってたあのミカガミのいる訓練場ってわけだ。
な? あれを正規の手段で知るなんて選択はねーだろ?」
「そう、ね。そんなの、あんまりだわ……」
深く静かに、沈み込むような声でティアが呟く。いつも元気で前向きなワッフルを知っているからこそ、その気持ちに共感してしまえばこうなって当然だ。
「あの場所で、ワッフルは自殺一歩手前みたいな訓練を二ヶ月くらい続けた。その結果今のワッフルよりも更に強くなってたが……代わりにあいつは笑わなくなった。いつも何処か悲しそうな、寂しそうな顔をするようになって……その後しばらくして、ケモニアンしか入れないって迷宮の前で俺はパーティを抜けた。
だから、その後のことはわからん。ワッフルがちゃんと魔王を倒せたのか? 世界はどうなったのか……あんまりいい結末があったとは思えねーけどな」
「そうね……」
俯くティアの頭には、ひょっとしたら一周目の出来事が思い出されているのかも知れない。ほんの少しの掛け違いで迎えてしまった、誰も幸せにならない未来。
「フッ、そんな顔すんなよ。知らねーことをどうにかするなんて、それこそ神の御業って奴だろ? 自分で言うのも何だけど、俺のせいでワッフルやこの世界が不幸になったなんて言うほど自惚れてねーしな。
でも、今は違う。俺達は知ってる。だったらこの糞みてーな結末をひっくり返すことだってできるはずだ」
「そう……そうよね! それで、具体的にはどうするの? 私は何をしたらいいの?」
「慌てんなって。一連の流れのなかで最も致命的なのが、ワッフルとドーベンが仲違いする理由になる勇者選考会の決勝戦での出来事だ。が、これがなくなるとワッフルがドーベンに勝てない可能性が出てくる。それは俺達としては都合が悪いんだが……」
「えっ!? まさかドーベンを脅させるなんて、そんなことしないわよね!?」
「対象をちょっと変えたうえで脅させるって手は、無くはない」
問題なのは、「ワッフルに負けるように」指示することだ。つまりその前の試合に負けるように脅すなら、ワッフルには累が及ばないことになる。そうすりゃワッフルの勝利がほぼ確定し、ドーベンとの確執も綺麗さっぱり……とはいかずともほぼ消えてなくなるわけだが……
「エド?」
「そんな怖い顔すんなよ。確実に行くならそういう手もあるってことだ。ただその場合、もしワッフルが負けたらあいつを見限って別の勇者につくことになるんだが……」
「大丈夫よ! ワッフルは勝つわ!」
何の根拠もないというのに、ティアが力強く断言する。
もしも俺が一人だったら、安全を取って妥協していたかも知れない。不確定要素は一つだって排除すべきで、優先するのはいつだって自分自身なのは当然だ。
だが、今の俺は一人じゃない。泣きわめく子供のようにだだをこねて欲張った結果が今だというのなら……今回だって同じだ。
「なら決まりだ。ワッフルの勝利を信じるなら、俺達がすべきことは何処のどいつがドーベンを脅すのかを調べ上げて、それを阻止する。そしてその後は……二人で思いっきりワッフルを応援してやろうぜ」
「エドっ!」
ニヤリと笑って言う俺に、バッと席を立ったティアが飛びついてくる。首に巻き付いた腕は柔らかくも温かく、頬をすり寄せられれば花のような優しい香りが漂ってくる。
「やっぱりエドはエドね! 二人で一緒に、みんなが幸せになれるように頑張りましょ!」
「ああ、そうだな」
利用すれば楽できる暗い影を蹴っ飛ばし、明るいだけの未来を目指す。そのための苦労がどれほどになるかはまだわからないが、ティアとワッフル、二人の友の笑顔の対価としては大安売り過ぎて破産を心配しちまいそうだ。
だが、容赦はしてやらない。フフフ、今回も根こそぎ全部もらっていくぜ。




